「ウチはフリーランスだけ」が危険!施行1年【フリーランス新法】違反指導が多発中。放置経営者が陥る「3つの経営リスク」を社労士(社会保険労務士)が解説
- 坂の上社労士事務所

- 10月27日
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更新日:10月30日

2024年11月1日(令和6年)に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(通称:フリーランス新法)が、まもなく施行1年を迎えます。
厚生労働省の発表(令和7年10月24日公表)によれば、この1年間で都道府県労働局が指導を行った案件のうち、特に「ハラスメント対策に係る体制整備義務(法第14条)」と「募集情報の的確表示義務(法第12条)」の違反が目立っているとのことです。
「フリーランスだから、社員とは関係ない」「細かい体制整備は後回しにしている」
もしそう考えているなら、重大な経営リスクを見過ごしているかもしれません。まずは法律の基本をおさらいし、この問題を社労士(社会保険労務士)の視点で解説します。
そもそも「フリーランス新法」とは? 事業者が守るべき「3つの義務」
フリーランス新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 )は、フリーランス(法律上は「特定受託事業者」)が安定的・効率的に業務に従事できる環境を整備するための法律です。
この法律により、企業(発注事業者)側には、主に以下のような義務が課せられています。特に注意すべき「3大義務」を確認しましょう。
義務1.募集情報の的確な表示(法第12条)
今回の違反指導で多発している項目の一つです。
SNSや自社サイトでフリーランスを募集する際、虚偽の表示や誤解を招く表示をしてはなりません。特に、昨今の「闇バイト」募集と誤解されないよう、企業は以下の「6情報」を明記することが必須とされています。
氏名または名称
住所(ビル名・部屋番号まで)
連絡先(電話番号、メール、専用フォームのいずれか)
業務の内容
業務に従事する場所
報酬
これらの記載がない募集広告は、法令違反となる可能性があります 。
義務2.ハラスメント対策体制の整備(法第14条)
これも、今回の違反指導で多発している項目です。
企業は、自社の従業員だけでなく、業務委託するフリーランスからのハラスメント(パワハラ・セクハラ・マタハラ等)に関する相談にも応じ、適切に対応するための体制を整備する義務があります。相談窓口を設置し、それをフリーランスにも周知しなければなりません。
義務3.取引条件の明示(法第3条)
フリーランスに業務を発注する際は、必ず以下の内容を書面またはメール等の電磁的方法で明示しなければなりません。
業務の内容
報酬の額
支払期日
(その他、定められた事項)
「いつも通りよろしく」といった口頭での発注や、内容が曖昧なまま業務を開始させることは、法律違反となります。
放置経営者が陥る「3つの経営リスク」
これらの義務を「知らなかった」「面倒だ」と放置すると、どのようなリスクがあるのでしょうか。3つの視点で解説します。
1. 「フリーランス」も「労務管理」の対象である
要約:ハラスメント体制の不備は、「人材確保」と「職場の信頼」を失う第一歩です。
今回の指導で最多の違反となった「ハラスメント体制整備(法第14条)」は、社労士が最も重視するポイントです。
フリーランス新法は、業務委託するフリーランスに対しても、従業員と同様にハラスメントの相談窓口を設置し、適切に対応する体制を企業に義務付けています。
「彼らは“従業員”ではないから」という認識は、もはや通用しません。
体制不備が発覚すれば、行政指導の対象となるだけでなく、「あの会社はフリーランスを雑に扱う」という評判が広がり、優秀な人材(フリーランスも正社員も)の確保が困難になります。これは単なる法律違反ではなく、企業の「人事労務管理能力の欠如」とみなされる問題です。
2. 「指導」で済まず、「訴訟」に発展する火種である
要約:体制整備の“漏れ”は、万が一の際に「安全配慮義務違反」を問われ、損害賠償リスクに直結します。
この違反は単なる「行政指導」では終わりません。これは、深刻な「訴訟リスク」の火種です。
もし発注側の人間がフリーランスに対してハラスメントを行い、フリーランスが精神的苦痛を被った場合、企業は「使用者責任」や「安全配慮義務違反」を問われる可能性があります。その際、法律で義務付けられた「ハラスメント体制整備」を怠っていた事実が明らかになれば、企業は「やるべきことをやっていなかった」として、裁判で極めて不利な立場に立たされます。
「募集情報の的確表示(法第12条)」違反も同様です。募集時に提示した報酬や業務内容と実態が異なれば、契約不履行や不法行為として損害賠償請求の対象となり得ます。
3. 「無用なコスト」と「税務リスク」を誘発する
要約:フリーランスとのトラブルは、予期せぬ「賠償コスト」を生み、税務調査での「偽装請負」疑惑を強めます。
企業の「コスト」と「税務リスク」を管理します。フリーランスとの関係悪化は、この両方に悪影響を与えます。
まず、ハラスメントや契約トラブルが訴訟に発展すれば、解決金や弁護士費用といった「予期せぬコスト」が発生し、経営のキャッシュフローを圧迫します。
さらに、税務調査において「外注費(フリーランスへの報酬)」か「給与(従業員への給与)」かの区分は、消費税や源泉所得税、社会保険料の負担に関わる最重要ポイントです。
もし企業がフリーランス新法(ハラスメント体制や契約内容の明示 )すら遵守できていない場合、それは「フリーランスを適切に“事業者”として扱っていない」証拠とみなされかねません。「実態は従業員(偽装請負)ではないか」という税務署の追及を強める格好の材料となり、追徴課税のリスクを高めます。
まとめ
厚生労働省は、改めて発注事業者に法令遵守の確認を呼びかけています。
フリーランス新法の対応は、「フリーランスのため」だけではありません。それは自社の「労務管理体制」「法的リスク」「税務リスク」をまとめて見直す、絶好の機会です。
自社のハラスメント相談窓口は、フリーランスも対象になっているか? 募集情報は、実態と乖離していないか? 取引条件を、書面やメールで明示しているか?
施行1年を機に、自社の体制を再点検してはいかがでしょうか。
*ご参考:厚生労働省『フリーランス・事業者間取引適正化等法施行から間もなく1年を迎えます!』 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/bunya/freelance_00006.html
*ご参考:『フリーランス・トラブル110番(厚生労働省委託事業)』 https://freelance110.mhlw.go.jp/
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