【令和8年10月改正】現物給与価額の見直しと適用拡大への実務対応策
- 坂の上社労士事務所

- 8月21日
- 読了時間: 6分

日本年金機構から公表された「令和8年8月号」のお知らせには、企業の人事労務管理において極めて重要な制度改正が含まれています。特に令和8年10月から施行される「現物給与の価額改正」および「短時間労働者の保険料調整制度」は、給与計算の実務や社会保険の適用判定に直結する内容です。
本記事では、特定社会保険労務士の視点から、今回の発表内容を単なる事実の羅列ではなく、「政府の狙い」「実務上の留意点」「今後の課題解決と展望」という3つの視点で深く解析し、企業が取るべき具体的な対応策を解説します。
1.制度改正の背景と政府の狙い(適正化と労働参加の促進)
今回の日本年金機構からの発表の目玉は、大きく分けて2つあります。1つ目は住宅にかかる「現物給与の価額および算出方法の変更」、2つ目は短時間労働者の社会保険適用に伴う「保険料調整制度」の開始です。これらには、国の明確な意図が込められています。
これまで、社宅などの住宅を現物給与として支給する場合、その価額は居間や寝室といった「居住用の室」の面積(畳数)のみを対象として計算されていました。玄関、浴室、トイレ、廊下などは除外されていたため、間取りによって計算が煩雑になるだけでなく、客観的な評価が難しく、一部では社会保険料を不当に低く抑えるための脱法的な解釈の温床になる懸念もありました。
令和8年10月1日からは、これが「居住する住宅の床面積の合計(総面積)」を基準とした算出へと変更されます。政府の狙いは、計算方法の簡素化による事業主の負担軽減と同時に、制度の隙間を突くような不適切な運用(いわゆる社会保険逃れ)を是正し、公平かつ透明性の高い徴収体制を確立することにあります。
また、新たに始まる「保険料調整制度」は、令和8年10月以降に任意特定適用事業所となる企業を対象に、標準報酬月額12.6万円以下の短時間労働者の保険料負担を一時的に事業主が肩代わり(後日還付)する仕組みです。これは、いわゆる「年収の壁」を意識して就業調整を行うパートタイム労働者の手取り減少を防ぎ、社会保険へのスムーズな加入と労働参加を強力に後押しするための国策です。
2.企業実務における具体的な影響とコンプライアンス上の留意点
これらの法改正は、企業の実務に直接的な影響を及ぼします。適切な対応を怠ると、年金事務所の調査等で多額の遡及適用を受けるリスクが生じます。
まず、現物給与の価額変更については、現在従業員に社宅を貸与しているすべての企業において、計算のやり直しが発生します。これまで除外されていた浴室や廊下が面積に含まれることで、現物給与の算定額が従来よりも高くなる可能性が極めて高くなります。その結果、合算される総報酬額が上がり、標準報酬月額の等級が上がる(随時改定の対象となる)従業員が続出することが予想されます。企業は令和8年10月の施行に向けて、対象となる全物件の総面積データを収集し、給与への影響額を事前にシミュレーションしておく必要があります。
次に、短時間労働者の適用拡大についてです。保険料調整制度を活用することで労働者の手取り減は防げますが、事業主側には厳密な対象者の把握と手続きが求められます。特に、社会保険の加入要件である「週20時間以上の労働」の判定には細心の注意が必要です。実務上の重要な留意点として、年金事務所の不整合判定の運用ルールにおいて、平均賃金ベースで支給された有給休暇取得分は、この週20時間労働の判定には算入されないという明確な基準があります。単純な総労働時間だけで機械的に判定すると、誤った加入手続きや適用漏れを引き起こす原因となるため、労働時間の性質を正確に分類・集計する労務監査の視点が不可欠です。
さらに、国民年金第3号被保険者の要件(年収130万円未満など)を外れた際の切り替え手続き漏れや、新たに導入された多言語通訳サービス(11言語対応)を活用した外国人労働者への制度説明など、多様化する従業員へのきめ細やかな対応も企業に求められる責任となります。
3.人事労務のデジタル化を通じた課題解決と今後の経営戦略
このように、社会保険制度は年々複雑化し、企業に求められる管理水準は高まり続けています。もはや、手作業や紙の書類、あるいは単純な表計算ソフトに依存した労務管理では、法改正のスピードと複雑性に追いつくことは不可能です。
これらの課題を根本から解決するためには、勤怠管理や給与計算システムの統合的なデジタル化(DX推進)が急務となります。例えば、マネーフォワードクラウドシリーズ(給与、勤怠など)のような最新のクラウドシステムを導入し、API連携によるデータの突合を行うことで、現物給与の価額変動に伴う標準報酬月額の自動判定や、短時間労働者の労働時間(有給休暇の性質を含む)の正確なモニタリングが可能となります。
また、社会保険の手続き業務をシステム上で自動化・ペーパーレス化することは、単なる業務効率化にとどまりません。ヒューマンエラーによる手続き漏れや不整合データの発生を未然に防ぐ「内部統制システムの構築」そのものであり、企業を守る強力な盾となります。
今後の展望として、政府は社会保険の適用範囲をさらに拡大し、労働者性の判断や保険料徴収の網目を一層厳格化していく方向性にあります。企業はこれらの法改正を単なる「事務作業の増加」と捉えるのではなく、組織の生産性を高め、労働環境を適正化するための絶好の契機と捉えるべきです。高度な専門知識に基づく事前の労務監査と、最新のテクノロジーを活用した業務プロセスの再構築こそが、これからの時代を生き抜く企業の強い基盤となるでしょう。
【本件に関する実務相談・お問い合わせ】
今回の記事に関連する実務のご相談や顧問契約のお問い合わせなど、当事務所までお気軽にご相談ください。メディア関係者様からの解説依頼、取材も随時承っております。
坂の上社労士事務所/給与計算・就業規則・助成金・社会保険・労務相談・人事評価(東京都千代田区神田三崎町/全国対応)
マネーフォワード公認プラチナメンバー/マネーフォワード給与・勤怠
代表 特定社会保険労務士 前田力也
水道橋オフィス 東京都千代田区神田三崎町2-17-5稲葉ビル203
国分寺オフィス 東京都国分寺市本町4-7-5サンプラビル2階【立川市・八王子市・国分寺市・武蔵野市など多摩エリア・中央線沿線対応】
お問い合わせ support@sakanouehr.com 電話03-6822-1777
メディア取材実績:週刊文春((株)文藝春秋)(【証拠ビデオ入手】東証上場企業・ライトアップが指南する厚労省助成金“不正受給”「おいしすぎる」「数千万円が自由に」、【全社員の4分の1近くがいなくなり…】「ウルトラマン」シリーズの円谷プロで退職者が続出していた)、TOKYO MX(堀潤 Live Junction」「医療保険制度改革で…負担増える逆転現象も」)、東京新聞『国保逃れ指摘「すでに把握しています」と言いつつ野放し 国や年金機構「脱法行為」是正がニブ過ぎるのは…』『維新だけではなかった「国保逃れ」 司法書士グループ企業でも「節約術」疑惑 厚労省「看過できない状況」』、『国保逃れ」に新たな手口 国の対策をすり抜ける「従業員型」とは…業者に接触した特定社労士が読み解く』、週刊SPA!『稼ぎながら健康になれ 50代からのガテン系仕事』、他
