【社労士が斬る】マンジャロのダイエット目的推奨は違法?企業のガバナンス崩壊と経営者が抱える甚大な法的リスク
- 坂の上社労士事務所

- 6月8日
- 読了時間: 7分

こんにちは。坂の上社労士事務所、代表社会保険労務士の前田です。
昨今、YouTubeやSNSを中心に、あるインフルエンサー企業の経営者が糖尿病治療薬「マンジャロ」をダイエット目的で推奨・利用している問題が大きな波紋を呼んでいます。青汁王子こと三崎優太氏も配信で鋭く指摘していましたが、私も一人の経営者として、そして企業のコンプライアンスや労務管理を指導する法律の専門家(社労士)として、この問題は見過ごすことができません。
結論から申し上げましょう。この案件はグレーではなく、真っ黒(ブラック)です。
今回は、この問題の裏にある「企業のガバナンス崩壊」と、過去の類似事例から見る「甚大な法的リスク」、そして「SNS時代における経営者の倫理観の欠如」について、専門家の視点から徹底的に解説します。
1. グレーではなく「ブラック」。専門家に判断を仰がない経営の危うさ
まず大前提として、マンジャロは「2型糖尿病」の治療薬であり、ダイエット目的での適応外使用(オフラベル使用)は、国や関連学会が厳しく警告している行為です。これを企業や経営者主導で推奨、あるいは事業や社内の取り組みとして持ち込むことは、明確な法令違反(薬機法や医師法違反の助長など)のリスクを伴います。
優秀な経営者であれば、新規事業や社内の福利厚生において少しでも疑義があれば、必ず弁護士や社労士などの専門家にコンプライアンスの判断を仰ぎます。顧客や従業員の安全性、健康リスクを最優先に考えるのは経営のイロハです。
それすら行わず、自らの思い込みやSNSのノリだけで突き進んでしまうのは、経営者として「優秀ではない」と断言せざるを得ません。
2. トップの暴走を止められない?いびつな組織構造とガバナンスの欠如
私がこの事案で最も深刻だと感じるのは、「企業のガバナンス(統治)が完全に機能不全に陥っている」という点です。
まともな組織であれば、社長がこのようなコンプライアンス違反スレスレ(あるいは完全にアウト)な企画を立ち上げた時点で、No.2やNo.3といった経営幹部が「社長、それはマズイです。法律違反になりますし、会社に傷がつきます」とストップをかけるはずです。
それができなかったということは、以下のいずれかです。
意思決定が完全に社長の単独・独裁で行われている
社内のパワーバランスが明らかにいびつで、誰も社長に意見できない
こうしたイエスマンばかりの組織や、トップの顔色だけを伺う企業風土は、遅かれ早かれ致命的な不祥事を起こします。今回のマンジャロ問題は、その組織の腐敗が表面化した氷山の一角に過ぎません。
3. 【社労士が解説】過去の事例から見る、企業が抱える法的リスク
法律・労務の専門家である社労士の立場から、もし企業が従業員等にこのような医療行為・医薬品の使用を推奨・強制した場合の法的リスクについて解説します。
① 労働契約法違反(安全配慮義務違反)と莫大な損害賠償
過去に、美容クリニックやエステサロンの経営者が、自社の従業員に対して新しい美容医療機器や未承認薬の「モニター」になることを業務命令(あるいは無言の圧力)で強制し、従業員に深刻な健康被害や後遺症が残った裁判例があります。裁判所は、これを「企業(使用者)の安全配慮義務違反」と認定し、企業側に数千万円規模の損害賠償を命じています。マンジャロには急性膵炎などの重篤な副作用リスクがあり、もし従業員に健康被害が出れば、経営者は取り返しのつかない賠償責任を負います。
② 薬機法違反等による行政処分と社会的信用の失墜
過去、別のダイエット薬(GLP-1受容体作動薬等)をオンライン診療で不適切に処方し続けた医師やクリニックが、医道審議会を経て医業停止などの重い行政処分を受けました。それに加担した企業もビジネスからの撤退を余儀なくされています。「話題になればいい」「儲かればいい」という短絡的な視点は、最終的に自社の首を絞めることになります。
4. SNSの闇:「痩せる=正義」という前時代的ルッキズムの押し付け
さらに私が憤りを感じるのは、SNSという影響力を使って「痩せていること=素晴らしい」という偏った価値観(ルッキズム)を、視聴者や従業員に無責任に押し付けている点です。
現代は多様性(ダイバーシティ)が尊重される時代です。10年、20年前ならいざ知らず、現代において「一つの前時代的な価値観を礼賛し、押し付けるような風潮」は、もはや社会に受け入れられません。多くの視聴者はすでに冷めた目で見ています。
SNSの派手さや華やかさという「上澄み」だけに飛びつく情報弱者をカモにするようなビジネスモデルは、同じ経営者として全くもって否定したい。利益やSNSの再生数、一時的な話題集めといった短絡的で長期的な視点を持たない経営判断は、極めて愚かです。
5. 最も醜悪な「人命軽視」〜本当に必要な患者から薬を奪うな〜
そして、今回の問題で最も醜悪で許しがたいのは、「本当にマンジャロを必要としている2型糖尿病の患者さんに、薬が行き渡らなくなっている」という現実です。
現在、美容目的の乱用により、全国規模でマンジャロの深刻な出荷調整(供給不足)が起きています。自らの利益や承認欲求、SNSでのバズりのために、病気と闘う患者の命綱を奪う行為。これは単なるコンプライアンス違反を超えた、経営者としての倫理観の欠如であり、明確な「人命軽視」です。
このような不当・不法な行いには、1ミリたりとも賛同できる要素がありません。
マンジャロ事件から学ぶ、真の「優秀な経営者」が考えるべきリスクマネジメントとは
企業経営において「リスクマネジメント」とは、単にトラブルから逃れるためのものではありません。顧客、従業員、そして社会全体に対する責任を全うするための守りの要です。
今回のマンジャロをめぐる騒動は、コンプライアンスを軽視し、ガバナンスが崩壊した組織がどのような末路を辿るかを示す「反面教師」と言えるでしょう。
私たち経営者は、目先の利益やSNSの数字に惑わされることなく、法令遵守(コンプライアンス)と高い倫理観を持ち、適切なリスクマネジメントのもとで事業を展開しなければなりません。疑問があれば、すぐに社労士や弁護士などの専門家に相談する。幹部社員はトップの暴走を命がけで止める。そうした健全な組織づくりこそが、長く愛される企業をつくる唯一の道なのです。
坂の上社労士事務所 代表社会保険労務士 前田
(※本記事は特定の事案を題材に、コンプライアンスや企業ガバナンスの重要性について専門家の視点から解説したものです。企業の労務問題やリスクマネジメントに関するご相談は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。)
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