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【緊急解説】令和8年7月31日、旧健康保険証の特例利用が完全終了へ。全国健康保険協会の発表が意味する医療情報化の最終形態と、企業実務・国民生活への甚大な影響を徹底解剖

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 7月8日
  • 読了時間: 11分
健康保険証

令和8年(2026年)7月3日、全国健康保険協会より、日本の医療制度および企業の人事労務の根幹に極めて重大な影響を及ぼす発表が行われました。「有効期限切れに気付かず従来の健康保険証を持参した場合は利用可能としていた特例的な対応を、令和8年7月31日をもって完全に終了する」という内容です。

令和6年(2024年)12月2日に従来の健康保険証の新規発行が停止され、その後1年間の猶予期間を経て、令和7年(2025年)12月2日には全ての発行済み健康保険証が法的な有効期限を迎えました。しかし、医療現場での混乱を回避するため、あるいは国民の制度理解が追いついていない実態に配慮し、「期限切れの旧保険証を誤って持参した患者に対しても、事実上、保険診療を認める」という温情措置が水面下で続けられてきました。

今回の発表は、この歴史的な大転換において事実上の経過措置に明確な終止符を打つものです。令和8年8月1日以降、指定の資格確認書類を持たない患者は、医療機関の窓口で例外なく全額自己負担(10割負担)を求められることになります。

本稿では、特定社会保険労務士としての専門的な知見から、この発表に隠された法改正の経緯、政府の真の狙い、そして企業の人事総務担当者や1般市民が直面する実務上の課題について、以下の3つの視点から徹底的に分析・解析・解読を行います。


1.法律・制度の改正経緯と政府の深遠なる狙い

今回の決定は、単なる行政手続きの変更ではありません。日本の社会保障制度を根本から電子化・情報化し、持続可能な医療制度を構築するための国家的な全体構想の1部です。

①健康保険法等の大転換と「被保険者証」の発行停止

かつて、健康保険法等において、保険者(全国健康保険協会や健康保険組合など)は、被保険者に対して物理的な被保険者証を交付する法的な義務を負っていました。しかし、関連法規の1部改正により、この交付義務は完全に撤廃されました。

昭和の時代から続く従来の紙や合成樹脂製の保険証は、券面に顔写真がないため、第3者による成りすまし受診や、退職後に資格を喪失したにもかかわらず保険証を返却せずに使用し続ける無資格受診が長年にわたり横行していました。これによる医療費の不当な支出は、年間数10億円から数100億円規模に上るとも推計されており、逼迫する医療保険財政をさらに圧迫する1因となっていました。

政府は、この構造的な欠陥を根本から是正するため、通信回線網を活用した資格確認の仕組みを導入し、顔写真付きの公的な身分証明書である「個人番号カード」を健康保険証として利用する運用へと大きく舵を切ったのです。

②複雑化する「資格確認書」と「資格情報のお知らせ」の法的性質

制度移行に伴い、国民や実務担当者を最も悩ませているのが、新たに登場した2つの書類の存在です。

1つ目は「資格確認書」です。

これは、個人番号カードを保有していない方、あるいは保有していても健康保険証としての利用登録を行っていない方に対し、保険診療を受ける権利を保障するために発行されるものです。法的性質としては旧保険証の代替品に最も近く、これを単独で医療機関に提示することで、従来通り3割負担等で受診が可能です。しかし、これはあくまで過渡期の例外措置であり、政府の基本方針は個人番号カードへの1本化であることを忘れてはなりません。

2つ目は「資格情報のお知らせ」です。

こちらは、令和6年12月2日以降、新規加入者全員に発行されている書類です。自身の健康保険の記号や番号等を簡易に把握するための単なる通知書に過ぎず、これ単独では医療機関を受診することは1切できません。医療機関の通信機器が故障している等の通信障害時に、個人番号カードと揃えて提示することで初めて効力を発揮する補助的な書類です。

この2つの書類の違いを正確に理解していない労働者が、通知書だけを病院に持参し、窓口で紛争になる事例が後を絶ちません。今回の特例措置終了により、こうした理解不足が直接的に10割負担という不利益に直結することになります。

③医療情報の活用と国民医療費の適正化

政府がここまで強力に制度の1本化を推し進め、令和8年7月末という明確な最終期限を設定した背景には、医療情報の積極的な利活用による根本的な改革の推進があります。

個人の医療情報を高度な安全基準を満たした通信網経由で共有することで、過去の処方記録や特定健診の数値を医療機関の医師や薬剤師が正確に把握できるようになります。これにより、複数の病院からの重複投薬や、不必要な重複検査を防ぎ、患者の安全性を高めると同時に、膨張し続ける国民医療費を適正化することが可能になります。

旧保険証の特例利用をいつまでも黙認していては、この情報に基づく高度な医療提供体制の構築が遅々として進みません。令和8年7月31日という期限は、日本が真の電子化社会へと不可逆的に移行するための最終関門と言えるのです。


2.実務上の留意点と、医療現場・企業労務が直面する現実的な課題

特例措置が終了する令和8年8月1日以降、医療現場と企業の人事労務部門は、かつてないほど厳格な対応を迫られます。ここでは、現場で想定される現実的な課題と実務上の障壁を浮き彫りにします。

①医療現場の現実:8月1日以降の窓口対応と「10割負担」への激しい抗議

令和8年8月1日以降、医療機関の受付窓口では、期限切れの旧保険証は電算処理機構上も運用上も完全に無効な証明書として扱われます。

これを持参した患者に対して、窓口担当者は個人番号カードを利用した保険証はお持ちか、あるいは資格確認書はお持ちかを確認し、いずれも持っていない場合は、冷徹に「本日は全額自己負担(10割負担)となります」と告げざるを得ません。

例えば、本来であれば3割負担で済む3万円の治療費が、窓口で突如として10万円の請求に化けることになります。患者側が「先月まではこれで受診できた」と抗議したとしても、医療機関側にはどうすることもできません。結果として、患者は1旦10割の医療費を支払い、後日、全国健康保険協会等に対して療養費の支給申請という極めて煩雑な手続き(領収書の添付、申請書の記入など)を自ら行わなければならなくなります。この還付手続きには数ヶ月を要するため、特に高額な治療を要する患者にとっては、1時的な経済的負担が生命の危機に直結しかねない甚大な問題となります。

②企業労務の現実その1:「5日以内提出規則」の厳格化と個人番号収集の壁

全国健康保険協会が事業主に対して強く警告しているのが、資格取得届等の「5日以内提出規則」の絶対的な遵守です。

健康保険法施行規則により、事業主は従業員を採用した際、事実発生から5日以内に個人番号を記載した資格取得届を日本年金機構等へ提出する義務があります。この新しい時代においては、この「5日」という速度が労働者の命綱になります。手続きが遅れれば、労働者の情報が中央の通信網に反映されず、病院の顔認証付き読み取り機器で「資格無効」と表示されてしまうからです。

人事担当者は、新規採用者に対して内定段階から個人番号の提出を求めるなど、入社日前に情報を収集する強固な手順を構築する必要があります。また、社会保険労務士や外部委託型の計算処理業者に業務を委託している企業は、情報のやり取りを含めて5日以内に手続きが完了するよう、契約内容や業務手順を抜本的に見直さなければなりません。

③企業労務の現実その2:利用登録解除希望者への対応という「2度手間」

実務上、人事労務担当者を最も疲弊させているのが利用登録解除に関する手続きです。

情報漏洩への懸念や個人的な信条から、1度登録した保険証機能の利用解除を強く希望する労働者が1定数存在します。全国健康保険協会の発表にもある通り、この解除申請から実際の解除手続きが完了するまでには2ヶ月以上の長期間を要する場合があります。

さらに厄介なのは、利用解除を行った労働者が病院を受診するためには前述の資格確認書が必須となるため、人事担当者は利用解除の申請と同時に資格確認書交付申請書を別紙で作成し、提出しなければならないという点です。従業員の個人的な意思決定によって、企業側に複雑な2重の手続き負担がのしかかっているのが現状です。

④通信障害時の最終手段:「被保険者資格申立書」の運用と危険性

医療機関の読み取り機器が故障している、あるいは広域の通信網に障害が発生している場合、患者は被保険者資格申立書という書類を窓口で記入し、提出することで、当面の措置として自己負担分(3割等)で受診することが可能です。しかし、これはあくまで不測の事態に対する緊急避難的措置であり、この申立書に虚偽の記載をして受診した場合は、後日厳格な調査と医療費の返還請求が行われます。企業は従業員に対し、このような救済措置があるが、決して自己判断で悪用してはならないという法令遵守の教育を徹底する必要があります。


3.今後の動向と課題解決、そして私たちが描くべき未来の見通し

令和8年7月31日の特例終了は、終着点ではなく、次なる電子化社会への出発点です。企業や市民は、この歴史的転換点にどのように適応し、課題を解決していくべきでしょうか。

①次なる進化:個人番号カード機能の携帯端末への搭載と機能拡張

今後の大きな動向として注目すべきは、個人番号カードの機能(電子証明書)の高機能携帯端末への搭載がさらに普及し、高度化していく点です。物理的な証明書を持ち歩かなくても、携帯端末1つで医療機関の受診から、処方箋の受け取り、さらには政府の個人向け行政手続き専用通信窓口を通じた自分自身の健康状態や医療情報の閲覧および管理が円滑に行える世界が到来します。

これにより、急な外出先での体調不良や大規模災害時においても、携帯端末さえあれば、初対面の医師に対して正確な医療情報を提供でき、適切かつ迅速な治療を受けられるようになります。これは、国民の生命を守る上で計り知れない恩恵となります。

②企業が直ちに講じるべき解決策:就業規則の改定と社内手順の再構築

企業の経営者や人事担当者は、令和8年8月1日以降の社内での混乱を未然に防ぐため、直ちに以下の3つの対策を講じる必要があります。

1つ目は、就業規則および採用規定の抜本的な改定です。

採用時の必須提出書類として、個人番号の提出をより明確に義務付ける規定を設けること。法令に基づく正当な理由なく提出を拒む場合の対応手順(資格確認書の発行手続きにかかる時間的猶予への同意等)を明文化し、労使間の無用な紛争を未然に防ぐことが不可欠です。

2つ目は、新入社員の受け入れに関する電子化の推進です。

外部通信網を経由した労務管理基盤を最大限に活用し、内定者が自身の携帯端末から直接、個人番号を安全な暗号化通信で送信できる環境を整備すること。これにより、「5日以内提出規則」を遵守し、担当者の膨大な業務負荷を劇的に軽減できます。

3つ目は、従業員への積極的な周知と徹底した教育です。

「令和8年7月末で、期限切れの旧保険証は完全に使えなくなります。8月以降は10割負担になります」という事実を、社内報や全体集会で繰り返し連絡すること。2つの新しい書類の違いをわかりやすく解説した業務手引書を社内通信網に掲示するなどの継続的な啓発活動が求められます。

③市民(労働者)の自己防衛と健康管理に関する知識の向上

労働者自身も、もはや会社が全てやってくれる、病院に行けば何とかなるという受け身の姿勢ではいられません。自身の保険資格が情報通信網上で正しく登録されているか、政府の専用通信窓口を通じて定期的に確認する知識と理解力が求められます。また、万が一証明書を紛失した際の危険管理(1時停止の手続きや再発行の手順)について、平時から正しい知識を持っておくことが、激動の時代を生き抜く究極の自己防衛となります。


私たち特定社会保険労務士は、法律の専門家として、また企業の労務管理の伴走者として、この歴史的な転換期において、企業と労働者の双方が不利益を被ることのないよう、的確な実務対応を啓発し続ける使命を負っています。旧健康保険証が完全にその役割を終える令和8年7月31日に向けて、今こそ社会全体で正しい知識の共有と準備を進めるべき時です。


マイナ保険証等での受診(協会けんぽ)


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