【週刊文春から取材を受けました】USJ契約問題と「熱キャン」にみる名ばかり業務委託の法的リスク。2024年施行フリーランス新法への実務対応を特定社労士が3つの視点で斬る
- 坂の上社労士事務所

- 8月24日
- 読了時間: 8分

近年、働き方の多様化が進む中で、企業と働く個人との間の「契約形態」を巡るトラブルが後を絶ちません。直近でも、開業25周年を迎えたユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)において、ショーやパレードに出演するパフォーマーたちと運営会社との間で結ばれている業務委託契約が、法的な問題を孕んでいるとして週刊文春で大きく報道されました。
契約書には「独立した個人請負者(業務委託)」と明記されている一方で、契約途中で辞める場合には50万円もの賠償金が課される条項が存在するとされています。さらに近年、猛暑の影響で屋外ショーが直前で中止となる、いわゆる「熱キャン(熱中症対策のためのキャンセル)」が頻発しています。この「熱キャン」に対する休業補償の有無も、契約形態の矛盾を浮き彫りにする重要な要素となっています。
この問題は、一企業にとどまらず、外部人材を活用するすべての企業にとって対岸の火事ではありません。本稿では、特定社会保険労務士の立場から、今回の報道事例を客観的なケーススタディとして取り上げ、そこに潜む法的リスクと今後の企業実務に求められる対応を「3つの視点」から深く解説いたします。
1.「熱キャン」が証明する指揮命令の実態と「名ばかり業務委託」の境界線
第一の視点は、契約書の名称と実際の働き方(実態)の乖離、そして「熱キャン」が示す法的な矛盾です。
企業側が「この人は従業員ではなく、業務委託(フリーランス)である」と主張し、契約書にその旨を明記したとしても、労働法(労働基準法や労働契約法など)の世界では、その文言だけで法的なステータスが確定するわけではありません。労働法において最も重要視されるのは「実態重視の原則」です。昭和60年の労働省(現・厚生労働省)の基準によれば、労働者にあたるかどうかは「使用従属関係」の有無によって客観的に判断されます。
報道されたUSJのケースでは、別冊の「ハンドブック」によって1週間のうち出演日が5日、休みが2日と指定され、混雑期には休みの申請ができないといった厳格なルールが存在すると指摘されています。さらに着目すべきは「熱キャン」の存在です。気温や暑さ指数(WBGT)を基準に、会社側の判断でショーを急遽中止にする行為は、企業が安全配慮義務を履行するための立派な「業務上の指揮命令」に他なりません。
本来、独立した事業主であれば、仕事の進め方やリスク管理は自己裁量で行うのが原則です(契約自由の原則)。しかし、日々のスケジュールから当日の業務中止(熱キャン)に至るまで、会社の強力な指揮命令下に置かれているのであれば、実態は完全に「労働者」です。政府は現在、労働基準関係法令の適用を逃れる目的で業務委託契約を悪用する「偽装請負」や「名ばかり業務委託」に対して、極めて厳しい是正の姿勢を見せています。実態が労働者であると判断されれば、過去に遡って時間外割増賃金の支払いや社会保険への加入義務が生じるため、企業が負う未払いリスクは計り知れません。
2.休業手当の回避と賠償予定の禁止(労基法第16条)がもたらす致命的リスク
第二の視点は、経済的リスクの押し付けと、高額な賠償金設定によるコンプライアンス違反です。
「熱キャン」のように、会社側の判断(不可抗力を含む安全管理上の措置)で業務がなくなった場合、労働基準法第26条が適用される労働者であれば、会社は平均賃金の60パーセント以上の「休業手当」を支払う義務があります。しかし、パフォーマーを「業務委託」として処理していれば、ショーが中止になった分の報酬を支払わない(ノーワーク・ノーペイ)という運用がまかり通ってしまいます。安全を守るための「熱キャン」は必須ですが、その経済的損失を立場の弱いパフォーマーに全額負担させる仕組みは、法の潜脱と言わざるを得ません。
さらに重大なのが、30日前までに通知を行わなかった場合などに違約罰として50万円の賠償金を支払うという条項です。前述の通り、実態が「労働者」であると認定されれば、この条項は労働基準法第16条(賠償予定の禁止)に真っ向から違反します。
労働基準法第16条は、使用者が労働者に対して、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ予定したりすることを厳格に禁じています。これは、過去の日本において、多額の借金や違約金を盾にして過酷な労働を強いた歴史的背景から作られた強行法規です。「途中で辞めたら50万円払え」と事前に規定すること自体が違法であり、その契約条項は完全に無効となります。労働者が故意や重大な過失によって実損害を与えた場合に事後請求すること自体は可能ですが、事前に金額を固定して心理的に縛り付ける行為は、労働基準監督署による厳しい是正勧告の対象となります。
3.2024年11月施行「フリーランス新法」と独占禁止法による二段構えの規制
第三の視点は、仮に企業側が「彼らは労働者ではなくフリーランスである」と強弁した場合の法的評価です。労働基準法が適用されないのであれば、熱キャンによる無報酬や高額な違約金は合法になるのでしょうか。結論から言えば、決して合法にはなりません。
ここで極めて重要なのが、2024年11月に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、いわゆる「フリーランス新法」です。この法律は、立場の弱いフリーランス(個人事業主)が、発注事業者から不当な扱いを受けることを防ぐために制定されました。政府の狙いは、働き方の多様化を推進する一方で、労働法の枠外に置かれがちなフリーランスの就業環境を適正化することにあります。
同法第5条では、優越的な地位を利用した不当な行為を禁止しています。フリーランス側に責任がないにもかかわらず、直前の「熱キャン」で予定されていた報酬を支払わない行為や、実損害の立証もなく一方的に50万円もの賠償金を請求する行為は、同法が禁じる「不当な経済的利益の提供要請」や「報酬の減額」に直結する可能性が極めて高いと言えます。
さらに、フリーランス新法以前から存在する独占禁止法(優越的地位の濫用)や、民法第90条(公序良俗違反)に照らしても、圧倒的な交渉力の格差を利用し、正常な商慣習から逸脱したペナルティを強要する条項は、法的に無効と判断される可能性が高いのです。企業は、「業務委託だから労働法は関係ない」という安易な認識を捨て、経済法による厳格な規制対象になることを強く自覚しなければなりません。
USJパフォーマー問題の教訓/今後の動向と企業に求められる実務上の対応
働き方の多様化が進む現代において、企業がフリーランスや外部人材を活用すること自体は、ビジネスの機動力を高める有効な手段です。しかし、今回の事例から学ぶべき最大の教訓は、「契約書という建前」と「現場の運用という実態」の間に乖離を持たせるマネジメントは、もはや一切通用しない時代になったということです。
今後は、厚生労働省による労働者性の実態調査と、公正取引委員会によるフリーランス新法・独占禁止法違反の監視という、二方面からの厳しい行政指導が行われる可能性もあります。企業が直ちに講じるべき実務上の対策は以下の通りです。
業務委託契約の実態調査と「熱キャン」等の補償ルールの整備
現在結んでいる業務委託契約において、時間や場所の拘束、細かな指揮命令が発生していないかを監査すること。同時に、会社都合や天候を理由とした業務の中止が発生した場合の報酬の取り扱い(最低補償の有無など)を、フリーランス新法に準拠した適正なルールに整備し直す必要があります。
マニュアル・ルールのリーガルチェック
契約書本体だけでなく、業務委託先に適用している「ハンドブック」などの内容が、実質的な指揮命令や過度な拘束になっていないか、専門家による監査を行うこと。
不利益条項の完全排除
フリーランス新法および労働基準法に抵触する恐れのある、一律の違約金、罰金、報酬の不当な減額等の規定を契約書や運用ルールから直ちに削除すること。
企業の持続的な成長や、顧客への真の価値提供は、そこで働く人々の適正で安心できる労働環境という土台の上にのみ成り立ちます。熱中症から命を守る「熱キャン」の判断は英断ですが、そのコストを弱い立場に押し付ける仕組みは是正されなければなりません。コンプライアンスを遵守し、働き手を適正に保護・尊重することこそが、企業防衛の最前線であり、長期的な企業価値を向上させる唯一の道であると確信しております。
《50万円の賠償金が…》開業25周年のUSJに違法契約の疑い【契約書入手】(週刊文春オンライン、Yahoo!ニュース)
【本件に関する実務相談・お問い合わせ】
今回の記事に関連する実務のご相談や顧問契約のお問い合わせなど、当事務所までお気軽にご相談ください。メディア関係者様からの解説依頼、取材も随時承っております。
坂の上社労士事務所/給与計算・就業規則・助成金・社会保険・労務相談・人事評価(東京都千代田区神田三崎町/全国対応)
マネーフォワード公認プラチナメンバー/マネーフォワード給与・勤怠
代表 特定社会保険労務士 前田力也
水道橋オフィス 東京都千代田区神田三崎町2-17-5稲葉ビル203
国分寺オフィス 東京都国分寺市本町4-7-5サンプラビル2階【立川市・八王子市・国分寺市・武蔵野市など多摩エリア・中央線沿線対応】
お問い合わせ support@sakanouehr.com 電話03-6822-1777
メディア取材実績:週刊文春((株)文藝春秋)(【証拠ビデオ入手】東証上場企業・ライトアップが指南する厚労省助成金“不正受給”「おいしすぎる」「数千万円が自由に」、【全社員の4分の1近くがいなくなり…】「ウルトラマン」シリーズの円谷プロで退職者が続出していた、《50万円の賠償金が…》開業25周年のUSJに違法契約の疑い【契約書入手】)、TOKYO MX(堀潤 Live Junction」「医療保険制度改革で…負担増える逆転現象も」)、東京新聞『国保逃れ指摘「すでに把握しています」と言いつつ野放し 国や年金機構「脱法行為」是正がニブ過ぎるのは…』『維新だけではなかった「国保逃れ」 司法書士グループ企業でも「節約術」疑惑 厚労省「看過できない状況」』、『国保逃れ」に新たな手口 国の対策をすり抜ける「従業員型」とは…業者に接触した特定社労士が読み解く』、週刊SPA!『稼ぎながら健康になれ 50代からのガテン系仕事』、他
