坂の上社労士事務所

2023年8月30日12 分

【社労士監修】2024年4月から労働条件通知書の明示ルールが改正されます/厚生労働省の最新ひな形(WORDテンプレート)掲載、記載事例も解説

最終更新: 2月27日

2024年(令和6年)4月1日より、労働条件通知書の明示事項が改正されます。有期雇用従業員を多く抱える企業様は特に注意が必要で、あらかじめ内容を把握し、今後の運用や対策について検討しておくべきでしょう。

本記事では、実務上、具体的に何に注意すれば良いか、何をやれば良いか、といった点に着目し解説致します。

目次

1.労働条件通知書の交付義務・明示事項とは

2.今回改正の概要

3.就業の場所・業務の変更の範囲とは/記載事例

4.更新上限の有無と内容とは/記載事例

5.無期転換申込機会・無期転換後の労働条件とは

6.厚生労働省の最新モデル労働条件通知書(WORD版)

7.企業が取るべき対応

1.労働条件通知書の交付義務・明示事項とは

労働条件通知書(雇入れ通知書)は、労働基準法第15条、労働準法施行規則第5条の規定により、使用者にその交付・明示を義務付けています。

通知書に明示する事項として、必ず記載しなければならない絶対的明示事項と、定めがある場合には必ず明示しなければならない相対的明示事項の2種類があります。

本記事では、今回改正により影響がある絶対的明示事項(以下)にフォーカスして解説します。

① 労働契約の期間

①-2 (有期雇用の場合)期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準

② 就業場所

③ 従事する業務内容

④ 労働時間(始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無)、休憩時間、休日・休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項

⑤ 賃金に関する事項(賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締切、支払の時期に関する事項)

⑥ 退職に関する事項

パートやアルバイト、契約社員などの有期雇用従業員を雇い入れる企業は、パートタイム有期雇用労働法第6条の規定により、以下の記載も必要となります。

⑦ 昇給の有無

⑧ 退職金の有無

⑨ 賞与の有無

⑩ 雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

2.今回改正の概要

今回の改正により、追加で以下項目の記載が求められることになります。

・就業場所・業務内容の変更範囲

・更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容

・無期転換申込機会

・無期転換後の労働条件

よって、2024年4月1日以降に交付する労働条件通知書には、最低でも以下の内容を記載しなければなりません(赤字は今回改正箇所、⑦~⑩はパート・アルバイト、有期雇用従業員のみ)。

① 労働契約の期間

①-2(有期雇用の場合) 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準、更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容

①-3(有期雇用かつ通算5年超の従業員) 無期転換申込機会、無期転換後の労働条件

② 雇い入れ直後の就業場所、就業場所の変更の範囲

③ 雇い入れ直後の従事する業務内容、従事する業務内容の変更の範囲

④ 労働時間、休日・休暇等に関する事項

⑤ 賃金に関する事項

⑥ 退職に関する事項

⑦ 昇給の有無

⑧ 退職金の有無

⑨ 賞与の有無

⑩ 相談窓口

3.就業の場所・業務の変更の範囲とは/記載事例

2024年4月1日より、全ての雇用契約の締結と有期雇用契約の更新のタイミングごとに、雇い入れ直後の就業場所・業務の内容に加え、これらの「変更の範囲」についても明示が必要になります。

これまでは、例えば就業場所を記載する際、「本社総務課 総務係」「A支店●●部」「B店舗」「東京都●●区●●1-1-1」といった雇い入れ直後の就業場所を記載することで足りたものが、今後は将来的に変更する可能性のある範囲まで記載することになります。

なお、特定の就業場所・業務内容に限定するか限定しないかで、その記載方法も異なるので注意が必要です。

【明示事項記載例】

▼就業場所

(雇い入れ直後) 本社総務課 総務係

(変更の範囲) 

就業場所を限定する場合の記載例①:『本社総務課内の部署』

就業場所を限定する場合の記載例②:『東京都23区内』

就業場所を限定する場合の記載例③:『東京都●●区●●1-1-1』

就業場所を限定しない場合の記載例①:『就業場所の限定なし』

就業場所を限定しない場合の記載例②:『会社の定める事業所(もしくは会社指定の場所など)』

▼業務内容

(雇い入れ直後) 総務業務

(変更の範囲)

業務内容を限定する場合の記載例①:『●●業務』

業務内容を限定する場合の記載例②:『総務業務、経理業務、人事業務のいずれか』

業務内容を限定しない場合の記載例①:『業務内容の限定なし』

業務内容を限定しない場合の記載例②:『総務業務、その他会社が指示する全ての業務』

また、労働条件通知書に、就業場所・業務内容を限定していた場合で、かつ、その内容を将来的に変更する可能性もある場合、以下の文言を追記することも検討しましょう。

『会社は、業務の都合により、また、就業規則第●条に基づき、当該内容を変更する場合がある。その場合、従業員の同意を得て変更を行うものとし、変更後の内容は書面において通知する。』

就業場所・業務内容を限定していた場合は、その内容を変更する際、原則従業員の同意が必要な点にも注意が必要です。なお、現状、労働条件を変更する場合、書面明示までは求められていませんが、後々のトラブルを避ける為にも、極力書面で明示しておいた方が良いでしょう。

☞ご参考:関連裁判例

【社会福祉法人奉優会事件(東京地判平28年3月9日労経速2281号25頁)】

社会福祉法人の職員が提携関係のある会社に出向を命じられ、当該出向命令の有効性が問題となった事案につき、労働条件通知書には、「就業の場所」として、「特別老人ホーム白金の森」と記載されているが、当該記載は、採用時の労働条件の明示事項である勤務の場所を記載したものであり、採用直後の勤務場所を記載したものにすぎないと認められるとされた事例。

⇒今後は、配置転換(一般的に、職種変更、職務内容変更、転勤、異動などを指します)の範囲が今まで以上に具体的となり、当該事項について争いがあった場合、労働条件通知書の明示事項も一種の判断基準になるものと思われます。

4.更新上限の有無と内容とは/記載事例

有期雇用契約の締結と契約更新のタイミングごとに、更新上限(有期雇用契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容の明示が必要になります。以下は、想定される記載事例となります。

【3カ月契約で1年間雇用する場合の記載事例】

▼回数で明示する場合

初回雇用契約時:『契約の更新の有無(更新する場合があり得る)/更新上限の有無(有り(更新3回まで))』

1回目の更新時:『契約の更新の有無(更新する場合があり得る)/更新上限の有無(有り(更新2回まで))』

2回目の更新時:『契約の更新の有無(更新する場合があり得る)/更新上限の有無(有り(更新1回まで))』

3回目の更新時:『契約の更新の有無(契約の更新はしない)/更新上限の有無(無し)』

▼通算期間で明示する場合

初回雇用契約時:『契約の更新の有無(更新する場合があり得る)/更新上限の有無(有り(通算契約期間1年まで)

1回目の更新時:契約の更新の有無(更新する場合があり得る)/更新上限の有無(有り(通算契約期間9カ月まで)

2回目の更新時:契約の更新の有無(更新する場合があり得る)/更新上限の有無(有り(通算契約期間6カ月まで)

3回目の更新時:契約の更新の有無(契約の更新はしない)/更新上限の有無(無し

なお、有期雇用契約の期間は、一つの有期契約につき上限3年が原則です(専門的な知識等を有する労働者、満60歳以上の労働者との雇用契約は、上限5年)。

また、次のアまたはイに該当する場合、

ア 更新上限の新設(最初の契約締結より後に更新上限を新たに設ける場合)

イ 更新上限の短縮(最初の契約締結の際に設けていた更新上限を短縮する場合)

当該更新上限の新設・短縮をする前のタイミングで、有期契約労働者にその理由を説明しなければなりません。具体的な理由としては、有期雇用契約の更新基準に準拠した以下のような理由が想定されます。

・受注量、業務量の減少

・従業員の著しい能力不足

・経営状況の悪化

5.無期転換申込機会・無期転換後の労働条件とは

(1)無期転換申込機会の明示

同一の使用者との間で、有期労働契約が通算5年を超える時は、労働者の申込み(=無期転換申込権)により、期間の定めのない労働契約(=無期労働契約)に転換することができます。この制度を、無期転換ルールと呼びます。

2024年4月1日より、この無期転換申込権が発生する更新のタイミングごと(以下の事例であれば、黄色の吹き出しが指す期間の契約時)に、労働条件通知書において無期転換を申し込むことができる旨の明示が必要となります。

【無期転換ルールの事例】

労働条件通知書改正の解説

【明示事項記載例】

『本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、本契約期間の末日の翌日(●年●月●日)から、無期労働契約での雇用に転換することができる。』

☞ご参考:有期雇用特別措置法による特例申請について

平成25年4月1日より改正労働契約法が施行され、無期転換ルールが定められました。対象となる有期契約社員は、一般的に「契約社員」、「パートタイマー」などと呼ばれる方ですが、定年後引き続き雇用される社員(再雇用社員、嘱託社員など)も対象となります。

無期転換ルールの適用にあたっては、有期雇用特別措置法により、定年後引き続き雇用される有期雇用労働者等については、都道府県労働局長の認定を受けることで、無期転換申込権が発生しないとする特例が設けられています。

継続雇用の高齢者について、無期転換ルールの特例の適用を希望する事業主の方は、「第二種計画認定・変更申請書」を作成の上、労働局に提出し、計画が適当である旨の認定を受けなければなりません。

詳しくはこちら

(2)無期転換後の労働条件の明示

無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件の明示が必要になります。無期転換前と無期転換後で労働条件に変更がない場合は、無しと記載します。転換前後で労働条件に変更がある場合は、有りと記載の上、別紙で明示すれば足ります。

【明示事項記載例】

『この場合の本契約からの労働条件の変更の有無(無・有(別紙のとおり))』

6.厚生労働省の最新モデル労働条件通知書(WORD版)

厚生労働省の最新モデル労働条件通知書は以下からダウンロード可能です。

なお、上記厚生労働省モデル労働条件通知書の下部には、

『以上のほかは、当社就業規則による。就業規則を確認できる場所や方法(     )』

といった内容が記載されていますが、該当箇所は今回改正と直接的な関係はなく、あくまで厚生労働省の推奨であり、記載必須ではありません。

ただし、今回法制化の際に開かれた検討会(多様化する労働契約のルールに関する検討会)において、就業規則備え付けの場所等の周知がなされるようにとの提言があった通り、また、就業規則は、それを周知することで効力が生ずるとの最高裁判決(以下)も考慮すれば、労働条件通知書に就業規則の保管場所を明記することが、労務リスクマネジメント上有効という結論に至ります。

☞ご参考:関連裁判例

【フジ興産事件 (H15.10.10最二小判)】

就業規則が法的規範としての拘束力を生ずるためには、その内容が適用される事業場の労働者への周知手続が採られていることを要する。

7.企業が取るべき対応

①従業員ごとに就業場所・業務内容の変更範囲の整理・区分を行う

以下のように従業員ごとの区分を行うことで、労働条件通知書に落とし込む具体的な記載内容や方向性が明確化になります。

☞ご参考:不合理な待遇差の禁止(同一労働同一賃金)

パートタイム・有期雇用労働法では、パートタイム・有期雇用従業員の待遇について、就業実態に応じて正社員との間で均等・均衡待遇の確保を図る為の措置を講ずるよう規定されています。具体的には、賃金、教育訓練、福利厚生などの待遇について、職務内容(業務の内容+責任の程度)、職務内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組みなど)の2つの要件を正社員と比較して判断します。

職務内容や就業場所およびそれらの変更範囲を精査していく中で、例えば、「職務内容(業務の内容+責任の程度)」と「職務内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組みなど)」が正社員と同一の有期雇用従業員が確認できた場合、基本給、賞与その他の待遇について、差別的取り扱いが禁止されます。

「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要はこちら

パートタイム・有期雇用労働法について【企業側の対応、Q&A】

②有期雇用従業員ごとに契約更新上限の有無、契約更新上限延長の有無を整理・区分する

以下のように従業員ごとの区分を行うことで、労働条件通知書に落とし込む具体的な記載内容、方向性が明確になります。

☛当事務所からのアドバイス

あえて更新の上限を設けない、というのも一つの選択肢かと思います。今後、更新するのか、更新するとすれば何回更新するのか、何年間契約するのか、など不明な場合は、無理に更新上限を設ける必要はありません。

更新の上限を設けないからと言って、永遠に雇用契約を更新しなければならないのかと言えば、そうではありません。あくまでも今回は「上限を設けるか否かの記載の有無」ですから、仮に更新上限回数を3回としていても、仮に更新上限の記載がなくとも、1回も更新せずに雇止めすることも可能です。更新するしないは、雇用契約書に記載の更新基準をもとに判断すれば良いということになります。

ただし、更新の上限を設けない場合、雇用契約書に記載の更新基準に該当しない限りは、原則雇用契約の更新が継続することになりますので、通算5年超の無期雇用転換の適用には注意が必要です。

③労働条件通知書(雇用契約書)に記載すべき事項、就業規則の適用範囲の整理

対象従業員ごとに、記載すべき事項、改正による追記項目、適用就業規則などを整理することで、具体的に記載すべき項目、準備すべき通知書や規則などが明確になります。

労働条件通知書作成の実務としては、従業員ごとの特性に応じた通知書をあらかじめ何パターンか作成し準備しておくというのも一つの方法です。

また、厚労省モデル労働条件通知書のように、全てを記載した通知書をその都度アレンジして(例:通算5年未満有期雇用従業員には無期転換申込機会の部分を削除するなど)使用する方法も考えられます。

従業員数や企業規模に応じて、効率的で効果的な方法をご選択頂ければと思います。

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【社労士監修】2024年4月から労働条件通知書の明示ルールが改正されます/厚生労働省の最新ひな形(WORDテンプレート)掲載、記載事例も解説