【今すぐ確認を】相談件数20万件超えの裏に潜む「制度不備」のリスク!!男女雇用機会均等法、労働施策総合推進法、パートタイム・有期雇用労働法、育児・介護休業法
- 坂の上社労士事務所

- 10月6日
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厚生労働省から、「令和6年度 雇用環境・均等部(室)における雇用均等関係法令の施行状況」が公表されました。このデータは、企業が抱える人事・労務リスクを測る重要なバロメーターです。
各都道府県労働局雇用環境・均等部(室)への相談件数(男女雇用機会均等法、労働施策総合推進法、パートタイム・有期雇用労働法、育児・介護休業法に関する相談)は過去最高水準に達し、法律リスクが深刻化している現状が浮き彫りになっています。経営者、人事担当者、そして専門家が今すぐ注目すべきポイントを、3つの視点から分かりやすく解説します。
1.相談件数"爆増"の裏側とハラスメント対策の盲点
令和6年度の「雇用均等関係4法」に関する相談総件数は202,311件と、前年度比で21.0%の大幅増となり、労働者側の権利意識の高まりと、職場でのトラブルの増加を明確に示しています。
特に注目すべきは、相談件数の内訳です。
法令名 | 相談件数(全体に占める割合) |
育児・介護休業法 | 103,821件(51.3%) |
労働施策総合推進法(パワハラ関係) | 72,789件(36.0%) |
男女雇用機会均等法 | 19,145件(9.5%) |
パートタイム・有期雇用労働法 | 6,556件(3.2%) |
①育児・介護休業法、相談件数トップの背景
育児・介護休業法が相談件数全体の半数以上を占め、かつ前年度比33.0%増という驚異的な伸びを示しています。これは、男性育休義務化や「産後パパ育休」といった法改正が段階的に施行された結果、制度が複雑化し、企業・労働者双方からの問い合わせが激増したためと考えられます。
☛今すぐ対策
育児休業の個別周知・意向確認、柔軟な働き方を実現するための措置、ハラスメント防止措置等が適切に実施されているか、最新の法改正を反映した就業規則と実務マニュアルをチェックすべきです。
②ハラスメント指導件数の内訳から見える対策の優先順位
男女雇用機会均等法における相談内容は、依然としてセクシュアルハラスメント(40.4%)が最多です。一方、是正指導件数の内訳からは、企業が特に不備を指摘されている分野が見えます。
男女雇用機会均等法 是正指導項目 (上位3つ) | 件数(割合) |
妊娠・出産等に関するハラスメント措置義務 | 1,364件(26.8%) |
セクシュアルハラスメント措置義務 | 1,302件(25.6%) |
男女雇用機会均等推進者(選任・周知) | 1,033件(20.3%) |
妊娠・出産に関するハラスメント(マタハラ)の防止措置の不備が、セクハラ対策を上回って最多の指導を受けています。労働局はハラスメント相談を受ければ、防止措置の整備状況を厳しくチェックしていることが分かります。
2.最もリスクが高い「パート・有期法」の指導実態
全4法の中で、労働局による是正指導件数が圧倒的に多かったのがパートタイム・有期雇用労働法です。指導件数44,436件中、28,299件(63.7%)と6割超を占めています。これは、正社員と非正規社員との待遇差に関する紛争が、企業の最も大きなコンプライアンスリスクになっていることを意味します。
▼是正指導トップ5から読み解く企業の問題点
パートタイム・有期雇用労働法に関する指導事項のトップ5は以下の通りです。
1.労働条件の文書交付等(第6条第1項)…6,899件(24.4%)
2.措置の内容の説明(第14条第1項)…4,612件(16.3%)
3.通常の労働者への転換(第13条)…3,821件(13.5%)
4.不合理な待遇の禁止(第8条)…3,653件(12.9%)
5.短時間・有期雇用管理者の選任(第17条)…2,927件(10.3%)
最も指導が多かったのは、「労働条件通知書」の不備や説明不足といった基礎的な法令遵守事項です。これは、非正規社員の増加に法対応が追いついていない企業が多いことを示唆しています。 また、「不合理な待遇の禁止(同一労働同一賃金)」も指導項目の上位に入っており、待遇差の根拠を客観的に説明できない企業が多いのが実態です。裁判リスクを避けるためにも、社会保険労務士などの専門家による待遇点検が急務です。
3.紛争解決データに見る労務コスト増加の予兆
労働局による紛争解決の援助申立受理件数は、労働施策総合推進法(パワハラ関係)が1,635件と最も多く、ハラスメントを巡る紛争が日常化していることがわかります。
これらの紛争は、企業にとって単なる是正指導で終わらず、多大なコストを発生させます。
①人件費リスク(税務・会計への影響)
・慰謝料・和解金の支払い
・弁護士費用・社労士費用などのコンサルティング費用
・懲罰的課税リスク…是正指導後の行政処分や報道による信用毀損は、企業価値低下という形で間接的に財務に影響を及ぼすことも
②業務コスト(内部管理体制への影響)
・労働局対応や紛争手続きにかかる担当者の時間
・再発防止のための研修実施や制度改定のコスト
・指導事項トップである「労働条件の文書交付」の不備は、訴訟リスクを高めるだけでなく、社会保険料算定や年末調整における人件費の正確性にも影響を及ぼしかねません。
法令遵守は単なる義務ではなく、企業の人件費コストと未来の税務リスクを軽減するための戦略的な投資であると捉えるべきです。
◆労務リスク回避のために企業がすべきこと
令和6年度の施行状況データは、企業が以下の3点に重点的に取り組む必要があることを示しています。
育児・介護休業制度の再点検
複雑化する法改正に対応した就業規則の改定と、従業員への個別周知の徹底。
非正規社員の雇用条件の明確化
労働条件通知書は最新のフォーマットで作成し、「不合理な待遇差」が生じていないか、待遇の根拠を明文化する。
ハラスメント防止措置の強化
特にマタハラ(妊娠・出産等に関するハラスメント)に焦点を当てた研修と相談窓口の周知を徹底する。
これらの対応は、労働局からの是正指導を未然に防ぎ、企業の労務コストを最適化するために不可欠です。社会保険労務士などの専門家を活用し、積極的な労務管理体制の整備を進めてください。
*ご参考:令和6年度 雇用環境・均等部(室)における雇用均等関係法令の施行状況について
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