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執筆者の写真坂の上社労士事務所

退職勧奨でおさえておくべくポイントを解説します

1.退職勧奨とは

退職勧奨とは、会社が従業員を退職させる為に、退職を勧奨する(勧める)ことです。退職勧奨された労働者は、辞めるか否かの判断を自身で行うことになります。退職は、労働者が判断するので、会社が一方的に労働契約を終了させる「解雇」とは異なります。


2.退職勧奨で争った場合の立証責任

退職勧奨は、不当労働行為に該当する場合や不当な差別に該当する場合を除き、労働者の意思を尊重する態様で行われる限り、違法ではありません。よって、退職した労働者が会社と争う(訴える)場合、労働者は民法709条を根拠に、退職勧奨が違法(=不法行為に該当する、つまり会社の故意・過失により労働者の権利を侵害された)として争うことになります。不法行為は、原則訴える側(労働者側)に立証責任がありますので、労働者が退職勧奨の違法性を立証できる証拠資料などの準備・提示を行わなければなりません。

☛解雇の場合の立証責任

解雇は、会社が就業規則に基づいて労働者を退職させるものであり、実務上は会社側が当該解雇について客観的合理性及び社会的相当性を有することを主張・立証しなければなりません。


3.退職勧奨の違法性を判断する上で重視される点

退職勧奨が社会的相当性を逸脱した態様で行われた場合は、退職勧奨が違法と判断されることになります。違法との判断で重視された点は、以下となります。

①退職を迫った行為の態様や表現方法

②使用者の意図

③使用者の行為の頻度や期間

④労働者が退職を余儀なくされた理由が、専ら使用者の行為にあるか否か

☛逆に、退職勧奨に社会的相当性が認められた(=違法ではない)事例において、重視された点

➊会社と労働者の面談、話し合いの内容・経緯

❷退職を迫った理由の相当性

❸使用者側に故意・過失がないこと

❹労働者による退職の意志表示が真意に基づくものであること


4.退職勧奨が違法と認められたケース

・プライバシー侵害を伴う退職勧奨

・侮辱的な表現、脅迫的な表現による退職勧奨

・自主退職拒絶後の2日間に、「懲戒解雇になったほうがいいのか?」と迫った退職勧奨

・期間が長期に及ぶ退職勧奨(2年間にわたって行う、4年間で8回行う、3カ月かけて退職を強要する)

・会社が労働者に退職を迫ることによって、労働者が疾病に罹患し、退職した場合

・暴力を伴う退職勧奨


5.慰謝料(ご参考)

・調査期間:平成15年1月~平成25年12月

・退職勧奨に関連して慰謝料請求が行われた事例:16件

・慰謝料が認められた事例:11件

・11件の内の慰謝料額:20万円~400万円

・100万円を超える高額事案では、退職勧奨の程度が相当過大・悪質(名誉を棄損する行為、脅迫的、暴力、嫌がらせ、無視、隔離するなど)である場合に認められている


6.まとめ

退職勧奨は違法ではありませんので、会社として実施すること自体何ら問題はありませんが、そのプロセスは非常に重要です。違法と認定されない為にも、退職勧奨のアプローチは慎重に行い、従業員の退職の意志を確実に取得しておくことです。また、でき得る範囲の条件(退職金、失業給付、転職活動の為の休暇支援など)を示すことで、まずは円満退職(合意退職)を目指した方が良いでしょう。

一方、立証責任の負担、高額慰謝料は過大・悪質な事案に限定される、訴訟提起するとなれば高額な弁護士報酬が発生する、民事訴訟は1年から2年と長期に及ぶ、これらの点を考慮すれば、労働者にとっても会社と争うメリットはありません。

双方にとって、円満退職(合意退職)が最も現実的な着地点となります。

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