【社労士が緊急解説】千葉県「レベル5大雨特別警報」に学ぶ、自然災害時の労務管理と安全配慮義務~3つの法的視点~
- 坂の上社労士事務所

- 11 時間前
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8月13日、千葉県北西部などを中心に「レベル5大雨特別警報」ならびに「緊急安全確保」が発表されました。報道によれば、道路の深刻な冠水や数万軒規模の大規模な停電が発生し、車内に閉じ込められた方が心肺停止状態で見つかるなど、極めて甚大な被害がもたらされています。
これまでに経験したことのないような自然災害が頻発する昨今、企業は「いかにして従業員の命を守るか」という人道的な課題に加え、「災害時における企業の法的責任をどう整理し、回避するか」という深刻なリーガルリスクに直面しています。
本記事では、大雨や台風などの自然災害時において企業が直面する労務管理上の課題を、労働法務の専門的な見地から3つの視点で厳密に分析し、今後の実務に求められる適法な対策を深く解説します。
1.命を守る行動の優先と「安全配慮義務違反」による損害賠償リスク
千葉県内で複数回発生した線状降水帯により、土砂災害や河川の氾濫の危険性が極度に高まりました。このような命の危険が切迫する状況下において、企業が従業員に対して漫然と出社や業務の継続を命じることは、極めて重大な法的リスクを伴います。
労働契約法第5条において、使用者は労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。特別警報や緊急安全確保が発令されているにもかかわらず、適切な避難指示や自宅待機命令を出さず、結果として従業員が通勤途上や業務中に被災した場合、企業は安全配慮義務違反(債務不履行責任)、あるいは民法上の不法行為責任(民法第709条等)に基づき、多額の損害賠償責任を問われるおそれがあります。
特に近年は在宅勤務(テレワーク)の環境整備が進んでおり、「在宅勤務を命じるなどの代替手段があったにもかかわらず、物理的な出社を強要した」と判断されれば、企業の過失はより重く評価される傾向にあります。
実務上の注意点として、企業は平時から「どのレベルの気象警報が発表されたら、誰の権限で、出社見合わせや早期帰宅などの就業措置を決定するか」を就業規則や防災規程に明確に定めておく必要があります。現場の管理職個人の判断に委ねるのではなく、客観的な基準に基づく全社的な指揮命令系統を確立することが、従業員の命と企業を法的リスクから守る防波堤となります。
2.「休業手当」と「民法上の賃金請求権」の厳格な法的解釈
大雨の影響により、多数の公共交通機関が運転を見合わせました。これにより出社が物理的に不可能となる従業員が発生した場合、実務上必ず問題となるのが欠勤期間中の「賃金」および「休業手当」の取り扱いです。
労働基準法第26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、平均賃金の6割以上の休業手当を支払うよう定めています。交通機関の完全な運休や道路の広範囲な冠水などにより、客観的に出社が不可能と認められる場合、法的な「不可抗力(事業の外部より発生した事故であり、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしても避けることのできないもの)」に該当すれば、休業手当の支払義務は生じないと解釈されます。
しかし、法的解釈において最も注意すべきは、事業所自体は稼働可能であるにもかかわらず、従業員の安全確保のために会社側が「自主的に自宅待機を命じた場合」です。この場合、不可抗力とは認められず、労働基準法上の休業手当の支払義務が生じる可能性が高いと言えます。さらに、民法第536条第2項(債権者の危険負担等)に基づき、会社の判断による就労受領の拒絶とみなされ、「賃金全額(10割)の請求権」が発生する法的リスクも存在します。
実務対応としては、不可抗力を理由に安易に無給とするのではなく、在宅勤務への切り替えを命じる、あるいは労働者本人の事後的な申し出に基づいて当該日を年次有給休暇として処理する(※会社からの有給取得の強制は違法です)、または会社独自の「特別休暇(有給)」を付与するなどの対応が、法的な労使トラブルを未然に防ぐうえで極めて有効です。
3.「通勤災害」と「業務災害」の明確な区別と行政手続きの適正化
報道にあるように、冠水した道路で車に閉じ込められる痛ましい事故が発生しています。これらの事故が通勤途中や業務中の出来事であった場合、労災保険の適用対象となり得ますが、ここでの実務的な対応は「通勤」か「業務」かで大きく異なります。
まず、災害時に通行止めを避けるためにやむを得ず迂回したような場合は、合理的な経路の変更とみなされ、通勤災害として認められる可能性が高いです。
そして、企業が最も留意すべきは被災後の行政手続きです。従業員が「業務上の災害(業務災害)」により死亡または休業した場合は、遅滞なく労働者死傷病報告を労働基準監督署長に提出しなければなりません(労働安全衛生法第100条)。この報告を故意に怠る、あるいは虚偽の報告を行う行為がいわゆる「労災かくし」であり、刑事罰の対象となる犯罪行為です。
一方で、「通勤災害」の場合は、この労働者死傷病報告の提出義務はありません。この法的区別を誤り、手続きを混同することは専門家として避けるべきです。ただし、業務災害であれ通勤災害であれ、企業は事実を隠蔽することなく、被災した従業員のために速やかに労災保険の給付申請をサポートする義務があることに変わりはありません。
今後の見通しと課題解決に向けた提案
気候変動により、激甚な自然災害は今後も発生しうる現実の脅威です。政府も警戒レベルの運用等で防災情報の提供体制を強化していますが、最終的に従業員の安全と企業の存続を守るのは、各企業の高度な危機管理能力と事前の法務・労務体制の整備に他なりません。
経営者および人事担当者は、今回の災害を契機として、自社の防災体制と労務管理のルールを総点検すべきです。
気象警報発令時の客観的かつ明確な出退勤ルールの就業規則への明記
災害による休業時の賃金取り扱い(有給・無給・休業手当の基準)の明文化と、年次有給休暇の適法な運用
在宅勤務システムの平時からの運用による、出社を前提としない事業継続体制の構築
業務災害と通勤災害の区別に基づく、迅速かつ正確な行政報告フローの確立
これらの法的・実務的対策を事前に講じておくことが、従業員の生命と生活を守り、企業としての社会的責任を果たしつつ、不測の損害賠償リスクや法令違反を回避するための確固たる土台となります。
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