【重要】なぜ「毎年」の改定が必要?派遣法改正の「本質」から読み解く『労使協定方式/賃金比較ツール』更新 ~社労士が解説する「公正な待遇」確保と実務対応3つの視点~
- 坂の上社労士事務所

- 11 時間前
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厚生労働省より、2025年(令和7年)11月18日、「賃金比較ツール(令和7年度・令和8年度適用版)」の更新・公開が発表されました。
多くの派遣会社様が「毎年の恒例行事」として処理されているかもしれませんが、この手続きは派遣法が目指す「派遣労働者の同一労働同一賃金」の根幹に関わるものです。
今回は、単なるツールの使い方ではなく、「そもそもなぜこの手続きが必要なのか」という法の趣旨に立ち返りながら、経営者が押さえるべき実務ポイントを3つの視点で解説します。
1.なぜ「労使協定方式」なのか?法の趣旨を再確認する
派遣労働者の待遇決定には、大きく分けて2つの方式があります。
派遣先均等・均衡方式:派遣先の正社員と待遇を合わせる方式
労使協定方式:労使協定で定めた一定水準以上を確保する方式
本来、派遣労働者の就業場所は「派遣先」であるため、派遣先の社員との待遇差をなくす(1の方式)のが原則です。しかし、この方式には「派遣先が変わるたびに賃金が変動し、派遣労働者の生活が不安定になる」というデメリットがあります。
そこで、「派遣先が変わっても賃金水準を下げず、段階的なキャリアアップや所得の安定を図る」ことを目的として認められているのが②の「労使協定方式」です。
この方式を採用する絶対条件として、「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金(一般賃金)」と同等以上の額を支払うことが法律で義務付けられています。つまり、この手続きは「派遣労働者の生活の安定と公正な処遇」を守るための防波堤であり、これを満たさない協定は法の趣旨に反することになります。
2.なぜ「毎年」ツールで確認するのか?~市場賃金との連動~
「一度決めた賃金なら、ずっとそのままで良いのでは?」と思われるかもしれません。しかし、世の中の「一般賃金」は経済情勢や物価動向によって毎年変動します。
特に昨今は賃上げの動きが活発であり、一般労働者の賃金水準も上昇傾向にあります。法律は、派遣労働者の賃金が世間相場(一般賃金)から取り残されないよう、「最新の統計データ(賃金構造基本統計調査など)」に基づいて毎年基準を見直すことを求めています。
今回公開されたツールは、令和7年度・8年度の最新の市場賃金水準と比較し、自社の賃金が適法ライン(同等以上)にあるかを判定するためのものです。もし、この確認を怠り、古い基準のまま賃金を支払っていると、知らぬ間に「法違反(最低基準割れ)」の状態に陥り、労使協定自体が無効となるリスクがあります。
3.コンプライアンスを超えた「賃上げ交渉」の根拠へ
このツールによる確認作業は、単なる法令順守(守り)のためだけではありません。「適正な派遣料金(マージン)の確保」という(攻め)の材料にもなります。
派遣先企業には、派遣会社が法令を遵守して公正な待遇を確保できるよう、派遣料金について配慮する義務があります。このツールを使って算出された「適法な賃金ライン」が上昇している場合、それは「公的な統計に基づく正当な値上げ根拠」となります。
「法律で定められた基準額がこれだけ上がりました」という客観的なデータを示すことで、派遣先との価格交渉を有利に進め、派遣労働者への還元原資を確保することが、持続可能な経営には不可欠です。
【まとめ】
「賃金比較ツール」の更新は、単なる事務作業ではありません。派遣労働者の生活を守り(法の趣旨)、法的リスクを回避し(コンプライアンス)、適正な利益を確保する(経営戦略)ための重要なプロセスです。
まだ確認されていない事業者様は、以下のリンクから最新ツールをダウンロードし、直ちに自社の状況をご確認ください。
<厚生労働省:「賃金比較ツール」ダウンロードページ> https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html
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