2026年「裁量労働制」大転換の号砲 ―― 厚労省実態調査が示唆する「労働力希少社会」の生存戦略と健康経営の核心
- 坂の上社労士事務所

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令和8年(2026年)4月17日、厚生労働省の労働条件分科会において、日本の労働環境を大きく変える可能性を秘めた決定が下されました。それは、「裁量労働制の運用状況に関する大規模な実態調査」の実施です。
現在、日本は深刻な労働力供給制約に直面しています。こうした中、単なる労働時間の短縮ではなく、いかにして「労働の質」と「付加価値」を高めるかが、企業存続の鍵となっています。裁量労働制は、その本命とも言える制度ですが、同時に長時間労働の温床となる懸念も根強く、労使の議論は平行線を辿ってきました。
本稿では、最新の分科会資料を解析し、特定社会保険労務士の視点から、裁量労働制の現状と未来、そして企業が取るべき戦略を「3つの核心的視点」で解き明かします。
1.2026年実態調査の衝撃 ―― 「エビデンスに基づく制度拡大」への布石
今回、厚労省が調査に踏み切った最大の理由は、「制度見直しの議論を加速させるための最新データの確保」にあります。
1. なぜ「今」調査が必要なのか
政府が推進する「日本成長戦略」において、労働市場改革は最優先事項の一つです。特に、専門職や自律的な働き方が求められる分野では、一律の時間管理が生産性を阻害しているとの指摘が経済界から強く出されています。
前回の調査は2019年
前回の本格調査から7年が経過し、その間にテレワークの普及や2024年の制度改正がありました。
2024年改正の評価
2024年には銀行・証券会社のM&A業務が対象に追加されましたが、この新制度が現場でどう運用されているかを検証する必要があります。
2. 調査結果がもたらす未来
この調査は、単なる現状把握ではありません。経営者側が求める「対象業務の拡大」と、労働者側が主張する「長時間労働の防止」という対立に対し、客観的な数値(健康状態や労働時間の実態)というエビデンスを突きつけるためのものです。調査結果次第では、2027年以降にさらなる対象業務の拡大、あるいは逆に運用ルールの大幅な厳格化という、ドラスティックな法改正へと繋がる可能性が極めて高いと言えます。
2.2024年改正の「残された宿題」 ―― 強化される健康確保措置の正体
裁量労働制を導入・運用する企業にとって、現在進行形で最も重要な実務課題は、「健康確保措置」の徹底です。特に2024年の改正以降、企業には高度な管理責任が課されています。
1. 「健康管理時間」の客観的把握義務
裁量労働制は、出退勤時間を労働者に委ねる制度ですが、企業は「健康管理時間(事業場内で過ごした時間+事業場外で働いた時間)」を客観的に把握する義務があります。これを怠れば、制度そのものが無効と判断されるリスク(=未払い残業代の発生)を孕んでいます。
2. 進化する健康診断 ―― 「血清クレアチニン」という新たな指標
今回の分科会では、高度プロフェッショナル制度等の健康管理に関連し、2027年4月から定期健康診断の検査項目に「血清クレアチニン検査」を追加する方針が示されました。
狙い:脳・心臓疾患のリスクを高める慢性腎臓病(CKD)の早期発見です。
実務の影響:裁量労働制を適用する「自律的な働き手」は、往々にして心身の負荷を自覚しにくい傾向があります。企業は、最新の医学的知見(eGFRの算出等)に基づいた健康管理体制を構築することが求められています 。
3.「労働力希少社会」の生存戦略 ―― 付加価値最大化へのパラダイムシフト
裁量労働制を「残業代削減のツール」と捉える時代は終わりました。2026年現在、企業に求められているのは、「希少な労働力をいかに付加価値の高い業務へ移動させ、生産性を向上させるか」という視点です。
1. 労働生産性のジレンマを打破する
日本の実質労働生産性は長期的には1%前後の伸びに留まっています。
無形資産投資の遅れ
諸外国に比べ、ソフトウェアや人的資本(教育訓練)への投資が弱いことが要因とされています。
自律性の確保
裁量労働制は、労働者に時間の使い方の「自律性」を与えることで、定型業務から脱却し、クリエイティブな成果(=付加価値)を生み出すための器です。
2. 「選ばれる企業」になるための制度設計
転職希望者が増加する一方で、実際の転職が進まない一因に「転職活動の時間がない」ことが挙げられています。裁量労働制を正しく運用し、「健康を確保しつつ、最大限のパフォーマンスを発揮できる柔軟な環境」を整備することは、高度なスキルを持つ人材(高度人材、女性、高齢者、外国人等)を惹きつけるための最強の採用ブランディングとなります。
企業が今、着手すべきこと
令和8年4月の今、企業は厚労省の調査を待つまでもなく、以下の対策を講じるべきです。
「健康管理」のデジタル化(DX)
客観的な労働時間の記録、健診データの分析をクラウドで一元管理し、過重労働の予兆をAIで検知する仕組みを導入すること。
36協定と制度の再点検
2024年改正の内容(本人同意の撤回手続き等)が正しく就業規則に反映され、運用されているか、再度リーガルチェックを実施すること。
成果評価制度の連動
「時間」ではなく「付加価値」を正当に評価する仕組みを構築し、裁量労働制が単なる「働かせ放題」にならないよう、報酬制度とセットで見直すこと。
裁量労働制は、正しく運用すれば企業と労働者の双方がWin-Winになれる制度です。この2026年の大きな転換期を、リスク回避ではなく、企業の成長エンジンへと変えられるかどうかが、経営者の手腕に問われています。
第208回労働政策審議会労働条件分科会(資料)(厚生労働省)
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