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執筆者の写真坂の上社労士事務所

越境テレワーク運用上の取扱い  

 近年のグローバル化で海外に居住しながら日本国内の企業に対し、リモートで業務を行う越境テレワークが広まりつつあります。


 越境テレワーク勤務での下記2つのパターンを想定し、労働者災害補償保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険、介護保険の対象となるのかどうかと労務管理上の留意点、越境テレワークの今後に関してまとめておりますので、ご参考くださいませ。

①日本国内で勤務後、家族の海外赴任帯同などの理由により海外居住となりリモート勤務

②日本国内で生活されていた外国人が母国へ帰国後に日本企業へ採用され海外勤務


          ~ 海外勤務者の保険関係取扱い ~


・労働者災害補償保険(労災保険)

 ①②パターンともに海外の住居は拠点とはみなされないので、海外特別加入は対象外となります。海外特別加入とはなりませんが、日本国内企業からの指揮命令を受けるため、国内従業員と同様の労災保険適用となります。


・雇用保険

 ①のパターンでは雇用保険に引き続き加入になると解釈されることが多いようです。

 ②のパターンでは海外の住居が拠点とはみなされず、雇用保険には該当しないと解釈さ れることが多いようです。

 解釈されると曖昧な表現となっておりますが、雇用保険業務取扱要領など行政が公開している国外就労などの取扱いをみると、越境テレワークを想定していない内容となっており、臨時的・一時的かどうかによっても判断が変わる可能性がありますので、特に雇用保険に関しては案件ごとで各行政機関への確認は必須といえます。


・健康保険・厚生年金保険

 ①②のパターンともに日本国内から報酬を支払われているかどうかが焦点となります。日本国内から報酬が支払われてるとみなされれば、健康保険・厚生年金保険の適用となります。また、海外居住の方が社会保険の資格取得手続を行う際は、パスポートの写しなど添付資料が必要となりますので、お気をつけくださいませ。


・介護保険

 ①②のパターンともに、要件を満たせば介護保険非該当者となるため、介護保険適用除外等該当・非該当届を提出すれば介護保険は徴収されません。


※実際の取扱いは個別具体的な判断となりますので、労働基準監督署、年金事務所、健康保険協会、健康保険組合、公共職業安定所へご確認ください


           ~ 労務管理上の留意点 ~


 越境テレワークでの日本と海外(現地)での法律・ルールなどの違いが問題になります。

例えば、時間外労働は日本での割増賃金率は25%(60時間超は除く)に対し、タイやベトナムでは50%であり他アジア諸国と比較しても差がございます。

有給休暇付与日数に関しても、日本では6か月継続勤務(条件あり)で10日付与ですが、タイでは1年継続勤務で6日付与、ベトナムでは12か月勤務で12日付与など国によってひらきがございます。

 それでは日本国内と海外(現地)のどちらの法律やルールが適用されるのかですが、

法の適用に関する通則法では下記の通りとなっています。


第七条 

法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。

第十二条

労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。

※一部抜粋


上記法律から、日本の基準に合わせることで当初合意していたとしても、現地の基準が日本より有利であり、あとから海外(現地)の強行規定を従業員から主張された場合、海外(現地)の割増賃金率などが適用される可能性がありえるということです。


         ~ 越境テレワークの今後について ~


 これまで述べたように、越境テレワークでの労働関連法をはじめとした法令の適用、社会保険、労働保険の取扱いは曖昧な点が多い状況です。

現状ではリスク回避の為に、委託契約を選択する企業も多くありますが、偽装請負などの問題が生じないよう十分留意する必要がございます。

生活スタイルが多様化する現代で、越境テレワークのような柔軟な働き方を推進していくことが優秀な人材の確保、企業の成長に繋がるといえます。

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