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「規格外の感性」が「王道の理(ことわり)」を知った日。那須川天心、初黒星は“完全体”への序章。

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 3 時間前
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那須川天心

2025年11月24日、WBC世界バンタム級王座決定戦。那須川天心がキャリア初の敗北を喫しました。しかし、この一戦は彼がボクシングに通用しなかったことを示すものではありません。むしろ、彼が持つ「変幻自在の動き」という最大の武器を、12ラウンドの世界戦で勝ち切るための「盤石な強さ」へと昇華させるための、必然のプロセスでした。井上拓真という「ボクシングの教科書」とも言える強敵との対峙を経て、那須川天心が手にする新たな進化の可能性を分析します。


1.「変幻自在」なリズムと、それを封じた「不動」の圧力

序盤、那須川天心が見せたのは、既存のボクシング理論の枠に収まらない「規格外」の動きでした。 独特なステップワークから繰り出される予備動作のないパンチ、そして相手の死角へ瞬時に回り込むスピード。これらは決して小手先の技術ではなく、彼が格闘技人生で研ぎ澄ませてきた「野生の勘」と「ボクシング技術」が高次元で融合したものです。実際、序盤はこの変幻自在なリズムが井上拓真を凌駕していました。

しかし、井上拓真は動じませんでした。那須川の「動」に対し、井上は徹底した「静」と「位置取り」で対抗しました。どれだけ那須川が華麗に動こうとも、リングの中央を譲らず、じりじりとプレスをかける。この「不動の圧力」が、ラウンドを重ねるごとに那須川の体力を削り、その自由な翼を徐々に重くしていきました。


2.勝負を分けたアッパー——「魅せる」技術とキャリアの差

中盤、那須川の動きが一瞬止まった隙を突き、井上拓真のアッパーが顎を捉えました。これは単なるダメージ以上に、採点競技における「見せ方(ポイントメイク)」の巧みさを象徴するシーンでした。那須川のスピードある攻撃は、時に速すぎてジャッジに「軽打」と見なされるリスクがあります。対して、井上のアッパーは相手の顔を跳ね上げ、視覚的に「明確な有効打」としてジャッジにアピールする力を持っていました。

「速さ」で上回る那須川に対し、「深さ」で対抗した井上。どんなに良い動きをしていても、ジャッジに評価されるパンチを当てなければ勝てない。このボクシング特有の厳しさと、それを遂行する井上の老獪なテクニック(王道の強さ)を肌で感じたことは、那須川にとって何よりの財産となるはずです。


3.「殴り合い上等」の精神論を粉砕した、冷徹なテクニック

特筆すべきは10ラウンド以降の攻防です。劣勢を悟った那須川は、技術戦を捨てて大ぶりのパンチを振るい、時にはノーガードで頬を差し出し、「打ってこい」と挑発する仕草さえ見せました。

これは「技術では崩せない」と認めた裏返しであり、「泥臭い殴り合い(精神論)」に持ち込んで局面を打開しようとする、彼なりの最後の賭けでした。

そのような状況下でも、井上拓真はその挑発に一切乗りませんでした。

感情的になって打ち合うのではなく、逆に冷静さを極め、大ぶりになった那須川の隙をコンパクトなパンチで突き続けました。「熱くなった相手を、冷めた頭で処理する」。

那須川が頼った「精神論」は、井上の磨き抜かれた「テクニック」の前には無力でした。この残酷なまでのコントラストこそが、王道ボクサーの恐ろしさであり、那須川がまだ持っていなかった「強さ」の正体です。


敗北を知り、伝説は完成する-那須川天心はさらなる高みへ-

歴史を振り返れば、真の伝説たちは皆、敗北の味を知っています。かつてK-1のカリスマ・魔裟斗は、トリッキーな選手や総合格闘家に対し、圧倒的な練習量に裏打ちされた「王道のインファイト」でねじ伏せ、最強を証明しました。今回の井上拓真の勝利は、まさにその系譜を感じさせるものでした。そして、“蝶のように舞った”モハメド・アリも、最強の象徴だったマイク・タイソンも、リングの上で敗北し、そこから這い上がる姿を見せることで、単なる「強い選手」から、人々の魂を震わせる「ヒーロー」へと変わりました。

那須川天心もまた、今日、「無敗」という肩書きを失った代わりに、伝説になるための資格を得ました。この敗北は、那須川天心の才能を否定するものではなく、彼が世界王者になるために足りなかった「最後のピース」を明確にしました。それは、真摯にボクシングと向き合ってきた彼だからこそ、最短距離で埋められるピースです。


「王道」の強さを知った「規格外」の天才。次にリングに上がる時、彼は敗北を乗り越えた者だけが持つ「深み」を纏い、私たちが見たことのない強さを見せてくれるはずです。第2章の幕開けは、ここからです。


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