【2026年12月施行】改正公益通報者保護法の「最終警告」:刑事罰導入と立証責任の転換で変わる、これからの人事労務実務
- 坂の上社労士事務所

- 15 時間前
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2026年12月1日、日本の企業統治(コーポレート・ガバナンス)は未曾有の転換点を迎えます。2025年6月に成立した改正公益通報者保護法は、単なる「ルールの微調整」ではありません。それは、企業が「隠蔽」という選択肢を事実上失い、「報復行為=犯罪」として経営者が刑事責任を問われる時代の幕開けを意味します。
本稿では、特定社会保険労務士の視点から、政府の狙いや改正の経緯、そして現場が直面する「立証責任の転換」という巨大な壁を乗り越えるための実務対応を、かつてない深さで徹底解説します。
1. 改正の経緯と政府の強固な意志:なぜ今、刑事罰なのか?
「自浄作用」の欠如が経済を蝕む
公益通報者保護法は、2004年に「食品偽装」や「リコール隠し」といった企業の不祥事を契機に制定されました。しかし、制定から約20年が経過した今もなお、通報者への報復や「にらみ」を恐れて通報を躊躇する文化は根強く残っています。
政府の狙いは明白です。「不正を隠し通せる」という企業の甘い幻想を打ち砕き、内部からの自浄作用を強制的に発動させることで、国民生活の安定と経済の健全化を図ることにあります。
2022年改正(300名超企業の義務化)で見えた課題
2022年(令和4年)の改正では、従業員300名超の企業に対して「体制整備」が義務化されました。しかし、依然として「形だけの窓口」に留まっているケースが多く、実効性に乏しいという批判がありました。今回の2026年改正は、この実効性を「罰則」という強力な物理的強制力によって担保しようとするものです。
2. 2026年改正の「3つの衝撃」:実務を激変させる核心部
今回の改正は、以下の3つの視点で企業の労務管理を根本から変え、経営リスクを劇的に増大させます。
① 「刑事罰」の導入 ―― 経営層が負う「拘禁刑」のリスク
改正法の最大の特徴は、公益通報を理由とした解雇・懲戒処分に対し、直接的な刑事罰が導入されたことです。
個人への罰則:6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。
法人への罰則(両罰規定):最大3,000万円の罰金。
ここで注視すべきは、罰則の対象が「実質的な意思決定者」である点です。現場の管理職が独断で行った嫌がらせであっても、それを黙認・追認した経営層が刑事罰の対象となる可能性は否定できません。
② 「立証責任の転換」 ―― 1年以内の処分は「報復」と見なされる
人事労務実務において、最も「恐ろしい」規定がこれです。 公益通報から1年以内に行われた解雇や懲戒処分は、裁判において「通報を理由としたもの」と推定されます。
従来:労働者側が「通報したからクビにされた」と証明する必要があった。
改正後:企業側が「通報とは100%無関係な、正当な理由による処分である」と証明しなければ、負け(無効かつ刑事罰)が確定します。
さらに衝撃的なのは、「企業が通報の事実を知らなくても、この推定規定が適用される」点です。外部窓口へ通報した社員を、そうとは知らずに別件で懲戒した場合でも、企業は「報復ではない」という悪魔の証明を強いられることになります。
③ 保護対象の拡大 ―― 「フリーランス」も守護の対象に
働き方の多様化を受け、新たに特定受託業務従事者(フリーランス)が保護対象に加わりました。外注先の個人事業主が法令違反を察知して通報した場合、その取引を停止したり、報酬を減額したりする行為も厳格に禁止されます。企業は従業員向けだけでなく、外部パートナー向けの通報体制も整える法的義務(300名超企業)を負うことになります。
3. 政府が例示する「通報すべき不正」の具体例
どのような行為が公益通報の対象となるのか、政府広報は以下の具体例を挙げています。これらは社労士が日常的に関与する「労務トラブル」と密接に関連しています。
労務管理の不正:残業代の不払い、労災隠し(不当な隠蔽行為)。
反社会的・倫理的違反:役員による性犯罪行為、資金の横領、保険金の不正請求。
生命・安全の脅威:有害物質を含む食品の販売、リコール隠し、産地偽装。
これらの事象がひとたび通報され、企業が適切に対応できなかった場合、法的な罰則のみならず、ソーシャルメディア等での拡散による壊滅的なダメージ(レピュテーションリスク)は避けられません。
4. 社労士が直言!企業が生き残るための「5つの鉄則」
施行日の2026年12月1日までに、企業は単なる「規程の整備」を超えた、実質的な防御策を講じる必要があります。
鉄則1:人事処分の「エビデンス管理」を極限まで高める
「1年以内の推定規定」に対抗する唯一の武器は、圧倒的な客観的証拠です。
問題社員への指導記録、メールの履歴、業務日報、聞き取り調査の録音などを、処分を検討する前から「常に」記録する文化を徹底してください。
「通報の有無にかかわらず、この処分は妥当である」と第三者が納得できるストーリー構築が不可欠です。
鉄則2:内部通報規程と就業規則の「完全アップデート」
改正法の内容を反映した改定が必須です。
フリーランス対応、通報者探索(特定行為)の禁止、および報復行為に対する刑事罰の明記。
特に「通報者を探そうとする行為(探索)」自体が明文で禁止された点は重要です。調査チームの教育が急務となります。
鉄則3:「従事者」の指定と守秘義務の徹底(罰則あり)
300名超の企業は、通報窓口の担当者だけでなく、調査や是正に携わるすべての者を「公益通報対応業務従事者」として適切に指定しなければなりません。
従事者には厳格な守秘義務があり、違反して通報者を特定できる情報を漏洩させた場合、30万円以下の罰金という刑事罰が科されます。
鉄則4:管理職を「加害者」にさせないための教育
多くの報復行為は、現場の管理職の「忠誠心の履き違え」や「感情的な反発」から生まれます。
経営層から現場まで、「通報者への報復は、会社を滅ぼし、あなた自身の人生(刑事罰)も終わらせる行為である」というメッセージを周知徹底してください。
鉄則5:外部専門家(社労士・弁護士)との連携強化
通報を受けた際の初期対応、調査の公平性、そして通報者への人事処分を下す際のリーガルチェック。
これらを社内だけで完結させるのは、もはやリスクが大きすぎます。独立性と専門性を持った第三者(社労士等)を関与させ、プロセスの透明性を担保することが、刑事罰を避けるための最大の防御となります。
内部通報を「リスク」ではなく「宝」に変える
今回の法改正は、一見すると企業への締め付けに思えるかもしれません。しかし、本質は異なります。経営者が把握できていない現場の不正を、通報によって早期に発見できれば、それは企業を倒産や巨額の賠償から救う「宝のメッセージ」となります。
透明性の高い組織こそが、優秀な人材に選ばれ、持続的な成長を実現できる――。 2026年12月の施行を「コンプライアンス元年」と捉え、攻めの姿勢で体制構築に取り組んでいきましょう。
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