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【2026年最新版】雇用調整助成金が示す日本雇用の転換点|特定社労士が読み解く「守り」から「攻め」への構造改革

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 20 時間前
  • 読了時間: 6分
雇用調整助成金

令和8年4月7日、令和8年度予算案の成立に伴い、日本の雇用政策の「一丁目一番地」とも言える雇用調整助成金の最新ガイドブック(令和8年4月1日現在版)が公表されました。

かつてのコロナ特例という「未曾有のフェーズ」を経て、本助成金は今、本来の姿である「経済上の理由」に基づく制度へと完全に回帰しています。しかし、単なる現状復帰ではありません。そこには、人手不足と産業構造の変化に直面する日本政府の「明確な意思」が反映されています。

本稿では、特定社会保険労務士の視点から、今回の改正内容とその背後にある狙いを「3つの視点」で鋭く分析し、企業の皆様が直面する課題解決への道筋を示します。


1.「延命」から「変革」へ。政府が狙う労働移動とリスキリングの真意

雇用調整助成金の本質は、景気変動等の経済上の理由により事業縮小を余儀なくされた事業主が、従業員を解雇せずに雇用を維持することを支援することにあります。しかし、令和8年度の運用において明確なのは、単なる「休業(待機)」に対する支援から、付加価値を高める「教育訓練」や、労働力を最適化する「出向」へのシフトを一段と強めている点です。


教育訓練による「攻めの雇用維持」

ガイドブックでは、教育訓練のメリットとして「景気回復後の事業展開に役立つ」「労働者の職業能力の向上」を強調しています。これは、人手不足が深刻化する中で、企業が自社の人的資本をアップデートし、産業構造の変化に対応することを政府が強く求めている証左です。

  • 助成率の優遇構造

    判定基礎期間における教育訓練の実施率が10%以上、あるいは20%以上の場合、助成率や訓練加算額が段階的に引き上げられる仕組みが定着しています。

  • 実務上の転換点

    今回の改正でも注目すべきは、累計支給日数が30日に達した後の扱いです。30日を超えた判定基礎期間からは、教育訓練の実施状況によって助成率が大きく変動します。例えば中小企業の場合、訓練実施率が10%未満であれば助成率は1/2に留まりますが、20%以上であれば2/3の助成に加え、1人1日あたり1,800円の加算が受けられます。


「出向」という外部リソースの活用

「出向」の活用についても、かつてないほど詳細に解説されています 。これは、自社内に労働力を抱え込むだけでなく、他社での実務経験を通じたスキルアップ(在籍型出向)を、雇用維持の有力な選択肢として位置づけているからです 。


2.コンプライアンスの「臨界点」。不正受給対策の厳格化と公表リスク

政府の狙いは「正しく使う企業への手厚い支援」である一方、不正に対しては「過去に例を見ない厳罰化」のフェーズに入っています。


逃げ場のない「自主申告」の督促

最新の指針では、代表者が不正を意図していたかどうかにかかわらず、自主申告がない状態で調査によって不正が判明した場合は、事業主名が例外なく公表される可能性が明記されています。

  • 抜き打ち調査の常態化

    労働局による立入検査は「事前連絡なし」が原則となりつつあります。

  • 連帯責任の網

    社会保険労務士や代理人が関与した不正の場合、それらの氏名も公表対象となるだけでなく、訓練を実施した外部機関も連帯して返還義務を負うことが合意書(様式第13号)で厳しく求められています。


令和8年度における不支給要件の「罠」

特に注意すべきは、新型コロナ特例期間中に不適切な受給があった場合の「追加措置」です。令和2年から令和5年の間に特例を利用し、本来支給を受けられない要件に該当していた場合、令和5年4月以降に最大5年間の不支給期間が設定される場合があります。過去の精算が終わっていない企業は、今まさにその影響を受ける時期に差し掛かっているのです。


3.実務の「急所」。残業相殺と生産指標の厳格な解釈

メディアや記者の皆様が注目すべき、実務上の「目を疑う」ような落とし穴がいくつか存在します。

残業相殺という「公平性の担保」

休業させている一方で、別の日に残業や休日出勤をさせている場合、その時間分を助成対象から差し引く「残業相殺」のルールです。

  • 例外なき適用

    突発的で真にやむを得ない残業であっても、例外は認められません。

  • 計算の複雑性

    裁量労働制やみなし労働時間制を採用している場合でも、みなし時間と法定時間の差分が相殺対象となるなど、非常に高度な専門知識が求められます。


生産指標の「不可抗力」と「経済上の理由」

売上高が前年同期比で10%以上減少していることが要件ですが、その「理由」が厳格に問われます。

  • 不漁や病害は対象外

    例えば、不漁を理由とした漁業の休業や、鳥インフルエンザの発生そのものを直接的な理由とした休業は「経済上の理由」とは認められません。

  • 一方で

    法令上の制限解除後に、発生前の規模で事業再開できないなどの「経済的事情」があれば対象となり得ます。この繊細な線引きこそが、専門家の腕の見せ所です。


今後の動向と経営者が取るべきアクション

令和8年度予算の成立により、雇用関係助成金の全体像がまもなく明らかになります。今、経営者に求められるのは、助成金を「単なる補填金」と考えるのではなく、「組織改革の原資」と捉え直すことです。

  1. 教育訓練への完全シフト

    30日の支給制限を意識し、休業から教育訓練主体の計画へ切り替える。

  2. デジタル・ガバナンスの構築

    残業相殺や出勤簿の不備をゼロにするため、マネーフォワード給与・勤怠などのクラウドシステムを導入し、客観的な記録を残す。

  3. 専門家との連携

    複雑化する様式第5号(助成額算定書)や実績一覧表の作成は、もはや社内担当者だけで完結させるにはリスクが高すぎます。

雇用調整助成金は、企業の危機を救う強力な盾ですが、扱いを誤れば自らを傷つける諸刃の剣となります。最新のガイドブックを指針とし、特定社会保険労務士という「専門家の視点」を取り入れることで、健全な雇用維持と企業の持続的発展を両立させてください。


雇用調整助成金ガイドブック(令和8年4月1日現在版)(厚生労働省)


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お問い合わせ support@sakanouehr.com 電話03-6822-1777

メディア取材実績:週刊文春((株)文藝春秋)(【証拠ビデオ入手】東証上場企業・ライトアップが指南する厚労省助成金“不正受給”「おいしすぎる」「数千万円が自由に」)、TOKYO MX(堀潤 Live Junction」「医療保険制度改革で…負担増える逆転現象も」)、東京新聞、他

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