【社労士解説】日本年金機構、社会保険「130万円の壁」ルール大転換。2026年4月施行、労働契約に基づく扶養認定制度の全貌と実務の急所
- 坂の上社労士事務所

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2026年5月1日、日本年金機構は社会保険の被扶養者認定に関する極めて重要な運用変更の指針を更新しました。令和8年(2026年)4月1日より施行されたこの新制度は、これまでの「過去の収入実績」を重視する判定から、「労働契約(入り口)」を重視する判定へと、その軸足を大きく移すものです。
この改正は、単なる事務手続きの変更ではありません。深刻な人手不足に悩む日本経済において、パート・アルバイト労働者の「働き控え」を解消し、労働力の最大化を図る政府の強い意思が込められた「社会保険制度のパラダイムシフト」と言えます。
本稿では、特定社会保険労務士の視点から、この制度改正の背景、政府の真の狙い、そして企業や労働者が直面する実務上の留意点を3つの視点で深掘り解説します。
1.なぜ「実績」から「契約」へ? 制度改正の背景と政府の戦略的意図
これまで、被扶養者の収入判定は「直近の給与明細」や「課税証明書」など、過去から現在に至る実績をもとに行われるのが一般的でした。しかし、この手法には大きな弱点がありました。それは、「突発的な残業による収入増が、扶養取り消しのリスクに直結する」という不透明感です。
「予見可能性」の確保が働き控えを打破する
今回の改正の核心は、「労働契約(通知書)の時点で130万円未満であれば、予見できない臨時収入があっても原則として扶養を維持できる」とした点にあります。政府の狙いは、労働者が「今月は忙しいから残業をお願いしたい」と頼まれた際、「扶養を外れるのが怖いから」と断らざるを得なかった状況を解消することにあります。
社会保険の「入り口」を固定するメリット
労働契約書(労働条件通知書)という、いわば「合意された未来の設計図」に基づいて認定を行うことで、労働者は安心して働くことができ、企業は柔軟なシフト調整が可能になります。これは、実質的な労働供給量の増加を狙った、極めて実務的な「年収の壁」突破策と言えるでしょう。
2.実務上のクリティカルな変更点 ―― 「通知書等」と「申立書」の二段構え
実務上、最も注意すべきは認定時の必要書類と判定基準の厳格化です。令和8年4月以降、認定手続きは以下の2点資料を求められる可能性があります。
1. 労働条件通知書等の提出(客観的根拠)
時給、労働時間、勤務日数が明記された書類の提出が求められる場合があります。労働条件通知書等で算出される「見込み年収」が130万円(60歳以上等は180万円 )未満であることが認定の絶対条件です。
ポイント
「シフト制のため未定」といった曖昧な記載では、新制度の適用は受けられず、従来通り「給与明細」による厳しい実績判定に引き戻されます。
提出が必要なケース
「事業主確認欄」にマルを付すことができない場合(=扶養加入者が税法上の扶養親族出ない場合) ※管轄の年金事務所により取り扱いが異なることがある為、事前確認が必要
2. 「給与収入のみである」旨の申立書(主観的誓約)
新制度は「給与以外の収入がないこと」を前提としています。副業(事業収入)や不動産収入、年金収入がある場合は、従来通りの判定方法が適用されるため、この申立書が「簡易判定のパスポート」の役割を果たします。
※被扶養者異動届の「扶養に関する申立書」欄に記載の場合は、申立書の省略可
複数事業所で働く「ダブルワーカー」への対応
副業を持つ労働者で、労働条件通知書等の提出が必要な場合、合算して判定する必要がありますが、「すべての勤務先の通知書」を揃えなければなりません。一箇所でも通知書が不明確であれば、全収入について実績判定(給与明細確認)へと切り替わります。
3.今後の動向と「社会通念上妥当な範囲」というグレーゾーンの歩き方
企業担当者が最も注視すべきは、認定後の「確認(検認)」における取り扱いです。
臨時収入はどこまで許容されるのか?
今回の改正では、契約時点で想定していなかった「臨時収入(残業代等)」によって結果的に130万円を超えても、それが「社会通念上妥当である範囲」であれば扶養を取り消さないとしています。しかし、厚生労働省の通達等ではその具体的な金額設定を避けています。これは、具体的な数字を出すことで、それが新たな「第2の壁」になることを防ぐためです。
実務家としての警戒:遡及取消しのリスク
一方で、最初から残業が発生することを見越して契約書の金額を不当に低く設定していた場合などは、認定時に「瑕疵(かし)」があったとみなされ、認定時に遡って扶養が取り消されるという厳しい措置も明文化されました。「とりあえず契約書だけ130万円未満にしておけばいい」という安易な運用は、後に多額の保険料遡及徴収という「地獄」を招くリスクを孕んでいます。
企業に求められるのは「労働契約の適正化」
今回の改正により、被扶養者認定の主戦場は「給与計算の結果」から「雇用契約の締結時」へと移りました。企業にとっては、労働条件通知書の精度を高めることが、従業員の社会保険リスクを守ることに直結します。
また、政府は今後、最低賃金の引き上げに伴い、社会保険加入の適用拡大をさらに推し進める方針です。今回の「契約ベースの認定」は、あくまで激変緩和措置の一環であり、長期的には「働いた分だけ、誰もが自らの社会保険を持つ」社会へとシフトしていく過渡期にあると捉えるべきでしょう。
労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱いについて(日本年金機構)
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