1.事件概要
大阪医科大(「大学」)でアルバイト職員だった女性(「女性アルバイト職員」)が、正職員との待遇格差を是正するよう求めた訴訟の上告審。最高裁は、格差は不合理だとして計約109万円の支払いを命じた二審大阪高裁判決を見直し、賞与及び私傷病欠勤中の賃金請求を棄却。
2.原告(女性アルバイト職員)
➊雇用契約の状況
平成25年1月29日~平成25年3月31日(有期契約)
平成25年4月1日~平成26年3月31日(有期契約)
平成26年4月1日~平成27年3月31日(有期契約)
平成27年4月1日~平成28年3月31日(有期契約)
❷職務内容
・所定労働時間はフルタイム勤務。
・所属する教授や教員、研究補助員のスケジュール管理や日程調整。
・電話や来客等の対応。
・教授の研究発表の際の資料作成や準備、教授が外出する際の随行。
・教室内における各種事務(教員の増減員の手続、郵便物の仕分けや発送、研究補助員の勤務表の作成や提出、給与明細書の配布、駐車券の申請等)
・教室の経理、備品管理、清掃やごみの処理、出納の管理等
・女性アルバイト職員が欠勤した際の後任として、フルタイムの職員1名とパートタイムの職員1名を配置したが、恒常的に手が余っている状態が続いたため、1年ほどのうちにフルタイムの職員1名のみを配置した(業務内容が定型的で簡便な作業であったと思慮される)
3.被告(大阪医科大学)
➊全職員
全職員数約2600名
内、事務職→正職員約200名、契約職員約40名、アルバイト職員約150名、嘱託職 員10名弱
❷正職員には正職員就業規則が適用
(1)主な規定内容
基本給、賞与、年末年始及び創立記念日の休日における賃金、年次有給休暇、夏期特別有給休暇、私傷病による欠勤中の賃金並びに附属病院の医療費補助措置が支給又は付与等
(2)基本給の決定・昇給
採用時の正職員の職種、年齢、学歴、職歴等を斟酌して決定。勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給
(3)賞与
大阪医科大学が必要と認めたときに臨時又は定期の賃金を支給すると定められているのみ
❸アルバイト職員にはアルバイト職員就業内規が適用
(1)主な規定内容
時給制による賃金の支給及び労働基準法所定の年次有給休暇の付与等
※賞与、年末年始及び創立記念日の休日における賃金、その余の年次有給休暇、夏期特別有給休暇、傷病による欠勤中の賃金並びに附属病院の医療費補助措置は支給又は付与されていなかった。
(2)基本給の決定・昇給
賃金は、職種の変更等があった場合に時給単価を変更するものとされ、昇給の定めはなかった。
4.職務内容、職務の責任の比較
➊正職員
・大学や附属病院等のあらゆる業務に携わり、その業務の内容は、配置先によって異なるものの、総務、学務、病院事務等多岐に及んでいた。
・正職員が配置されている部署においては、定型的で簡便な作業等ではない業務が大半を占め、中には法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含まれ、業務に伴う責任は大きいものであった。
・正職員は、出向や配置換え等を命ぜられることがあると定められ、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていた。
❷アルバイト職員
・アルバイト職員就業内規上、雇用期間を1年以内とし、更新する場合はあるものの、その上限は5年と定められており、その業務の内容は、定型的で簡便な作業が中心であった。
・アルバイト職員については、アルバイト職員就業内規上、他部門への異動を命ずることがあると定められていたが、業務の内容を明示して採用されていることもあり、原則として業務命令によって他の部署に配置転換されることはなく、人事異動は例外的かつ個別的な事情によるものに限られていた。
・契約職員は正職員に準ずるものとされ、業務の内容の難度や責任の程度は、高いものから順に、正職員、嘱託職員、契約職員、アルバイト職員とされていた。
5.最高裁判決要旨
➊賞与
・賞与の支給に係る労働条件についても、労働契約法20条(有期雇用を理由とした不合理な待遇差の禁止)に該当し得る。
・不合理か否かの判断については、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的など、当該諸事情を考慮すべきである。
❷正職員の賃金体系
・賞与は、基本給の4.6か月分が支給基準となっており、その支給実績に照らすと、大学の業績に連動するものではなく、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。
・基本給は、勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上、概ね、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。
・このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、大学は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。
❸職務内容や責任の比較
・教室事務員である正職員と女性アルバイト職員の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をみると、両者の業務の内容に共通する部分はある。
・しかしながら、女性アルバイト職員の業務は、その具体的な内容や、女性アルバイト職員が欠勤した後の人員の配置に関する事情からすると、相当に軽易である。
・一方、正職員は、学内の英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があるなど、正職員とアルバイト職員の職務内容に一定の相違はあった。
・正職員は,正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し、アルバイト職員については、原則として業務命令によって配置転換されることはなく、人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり,職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相があった。
・教室事務員の業務の内容の過半は定型的で簡便な作業等であったため、その人員の多くを正職員からアルバイト職員に置き換えられてきた経緯があり、当該大学が実施した人員配置により少数となった正職員は、これら影響もあり、職務内容の難度や責任の程度が高くなり、アルバイト職員の職務内容や責任と相違する理由の一因である。
・アルバイト職員は、契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていた。大学が設定した待遇差が不合理と認められない事情として考慮され得る。
❹結論(賞与)
・正職員と女性アルバイト職員との間に賞与に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価できない。
・正職員に対して賞与を支給する一方で、女性アルバイト職員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない。
❺私傷病欠勤中の賃金に関する判決理由・結論
・私傷病欠勤中の賃金は、正職員の雇用維持と確保を前提とした制度である。
・アルバイト職員は、職務の内容等の事情に加え、正職員のような長期雇用を前提とした雇用形態ではない。
・女性アルバイト職員は、欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまり、その勤続期間が相当の長期間に及んでいたとはいい難い。
・正職員と女性アルバイト職員との間に私傷病による欠勤中の賃金に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価できない。
・正職員に対して私傷病による欠勤中の賃金を支給する一方で,女性アルバイト職員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない。