「45時間の壁」を超えて:高市政権が描く「もっと働きたい改革」の全貌と労務実務への衝撃
- 坂の上社労士事務所

- 2 時間前
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2026年4月15日、官邸にて自民党の岸田文雄本部長から高市早苗首相へ、労働基準監督署(労基署)による残業削減の「一律指導」を見直すことを柱とした提言書が手渡されました。この政策の狙いは、労働力を確保し、経済成長へとつなげることにあります。
岸田氏は面会後の取材で、「働きたいという労働者の主体的な判断が大前提だ」と強調しました。これは、国家が個人の労働時間を一律に縛る時代から、個人のキャリア選択と労使の合意を尊重する時代へのパラダイムシフトを象徴しています。
1. 労基署の役割変化:指導の「質」が「削減」から「遵法支援」へ
これまでの労基署は、法的に有効な三六(サブロク)協定や特別条項を締結している企業に対しても、月45時間を超える残業については一律に削減を求める傾向がありました。しかし、今回の提言は、この運用の抜本的な見直しを求めています。
違法残業の防止と三六協定の適正化
提言では、労基署の役割を「単なる削減要請」から、「三六協定や特別条項を適正に締結するための指導や助言」へと再定義しています。
形式から実態へ
協定を結んでいれば「何時間でもいい」わけではなく、その内容が適正か、特別条項の発動理由が臨時的なものかといった、より実務的な「質」のチェックが強化されることになります。
中小企業向け専門窓口の設置
提言には、中小企業が新しい運用に対応できるよう、専門の相談窓口を設けることも盛り込まれました。これは、人手不足に悩む中小経営者にとって、法を遵守しながら柔軟な体制を築くための強力なバックアップとなります。
2. 労働力の確保と「稼ぐ力」の最大化:経済成長へのラストチャンス
日本経済が直面する最大の問題は「労働力不足」です。一方で、物価高騰に打ち勝つためには、国民の所得を増やす必要があります。政府はこの矛盾を、労働時間の「柔軟化」と「質の向上」で突破しようとしています。
労働者の「主体性」という新たな付加価値
岸田氏が言及した「労働者の主体的な判断」は、今後の人事評価制度において極めて重要なキーワードとなります。
モチベーションと生産性の連動
「会社に居させられる残業」ではなく、「自らの意志で成果を出すために働く時間」へと定義を書き換えることで、労働生産性の向上を狙っています。
リスキリングとのセット
前回の提言(4月9日)でも示された通り、労働時間の柔軟化は、雇用保険による教育訓練給付の拡充など、リスキリング支援とセットで進められます。稼ぎたい意欲を持つ労働者が、より高単価な仕事に就けるよう、国が教育コストを支援する構図です。
3. 実務上の注意点:企業が問われる「自己決定」への安全配慮責任
行政の「一律指導」という傘がなくなることは、企業にとって「個別の管理能力」が問われることを意味します。専門家の視点から、特に注意すべきリスクを整理します。
「働きたい」という意思と「過労死ライン」の境界線
たとえ労働者が「主体的に働きたい」と望んだとしても、労働基準法の上限規制(月100時間未満、複数月平均80時間以内等)は依然として存在します。
安全配慮義務の高度化
労働者の自己申告を鵜呑みにし、健康管理を怠った場合、企業は安全配慮義務違反に問われるリスクがあります。月45時間を超える労働を認める場合は、より厳格な健康チェック(医師による面接指導の勧奨や、勤務間インターバルの導入)が事実上の必須要件となるでしょう。
労務デューデリジェンスの重要性
上場準備(IPO)企業や成長企業においては、この「主体的な労働」が実態として強制になっていないか、客観的な証拠をもって証明できる体制(デジタル勤怠管理等)を整えておくことが、企業の資産価値を守ることに直結します。
デジタル武装による「守りと攻め」の労務
これからの経営には、マネーフォワード等のITツールを活用した、「リアルタイムの労務モニタリング」が不可欠です。
守り:違法な残業が発生する前にアラートを出し、法規制を確実に遵守する。
攻め:柔軟な労働時間制度(変形労働時間制等)を駆使し、繁忙期の生産性を最大化させつつ、閑散期にしっかり休ませるメリハリのある組織を作る。
2026年、日本型「自律的労働モデル」の構築へ
今回の首相への提言は、日本が「一律の労働抑制」という限界を認め、新しい成長モデルへ踏み出した証拠です。
経営者に求められるのは、この政策変化を「残業を増やせる」と短絡的に捉えるのではなく、「社員の意欲を最大化させつつ、健康と法を高い次元で守り抜く」という、真に高度なマネジメント能力です。法制度が動く今こそ、自社の就業規則や人事評価、そして何より「働き方の哲学」をアップデートする絶好の機会といえるでしょう。
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