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【2026年8月1日施行】育児休業等給付の申請手続き見直しを徹底解剖〜特定社労士が読み解く3つの視点と企業の実務対応〜

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 2 日前
  • 読了時間: 16分
育児休業等給付金

2026年(令和8年)8月1日より、育児休業等給付の申請手続き及び事務取扱が大きく見直されます。今回の改正は、単なる書式や添付書類の微修正にとどまらず、これまで人事労務担当者や社会保険労務士を悩ませてきた「給付金支給の遅延構造」や「多様な労働時間制度における算定の複雑さ」を根本から解消しようとする、実務上の構造的な転換点といえます。  

2024年から2025年にかけて段階的に施行された改正育児・介護休業法や、雇用保険法における「出生後休業支援給付金」および「育児時短就業給付金」の創設により、企業の育児支援制度は拡充された一方で、現場の手続きは極めて複雑化していました。今回の2026年8月改正は、こうした制度拡充に伴う現場の事務負担を軽減し、労働者へ迅速に給付金を届けるための環境整備です。  

本稿では、厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークより公表された最新の行政資料を基礎として、社会保険労務士の専門的な知見から、改正の核心を「3つの視点」で要約し、制度の背景、実務上の留意点、そして今後の人事労務戦略までを網羅的に深く解説します。


改正の全体像と「3つの視点」による要約

今回の事務取扱の見直しは、多岐にわたる育児休業等給付の実務プロセスを、より実態に即した効率的なものへと再構築するものです。その核心を以下の3つの視点から整理します。  

【視点1】実務手続きの簡素化・迅速化の視点(申請の早期化と書類の簡略化)

これまで給付金申請の最たる遅延要因であった「賃金締日・支払日を待たなければ申請できない」という実務上の構造が打破されます。出生時育児休業給付金において、申告すべき賃金の概念が「対象期間に対する賃金」から「休業期間中に支払日のある賃金」へと変更され、休業開始後ただちに申請を行うことが可能となります。また、母親が出生後休業支援給付金を申請する際の配偶者確認書類として、父親と同様に「母子健康手帳の写し」が利用可能となり、証明書類の収集負担が大幅に軽減されます。  

【視点2】多様な働き方への適合と算定基準の明確化の視点(時短就業給付の計算方法見直し)

フレックスタイム制、変形労働時間制、シフト制など、通常の固定的な勤務時間とは異なる働き方をする労働者が育児時短就業給付金を受給する際、その「週所定労働時間」の算出方法が明確化されました。特にシフト制においては、暦日数を基礎とした計算式が明示され、実務現場での計算の疑義やハローワーク窓口での算定調整の負担が解消されます。  

【視点3】企業の業務効率化とコンプライアンスの視点(照合省略と添付書類の削減)

同一の子について育児休業給付を受給している場合の母子健康手帳の再提出不要化や、育児休業から育児時短就業へ直接移行する際の賃金証明書の記載項目(9欄、10欄、11欄)の省略が認められます。さらに、賃金台帳等ですでに認められている「照合省略対象事業主」の仕組みが、時短前後の週所定労働時間の確認書類にも適用されるため、日頃から適正な労務管理を行う優良企業にとっては、電子申請における手続きが飛躍的に簡素化されます。  


視点1:実務手続きの簡素化・迅速化の深層解剖

出生時育児休業給付金における賃金申告ルールの抜本的変更

今回の改正で最も人事労務実務にインパクトを与えるのが、出生時育児休業給付金における申告賃金の取り扱い見直しです。  

  • 従来の実務(2026年7月31日まで)

    「出生時育児休業期間を対象として支払われた賃金」を申請時に申告する必要がありました。これは、休業期間に対応する賃金計算期間の締日および支払日を迎え、実際の支払額が確定するまで給付金の申請ができないことを意味していました。例えば、「月末締め・翌月25日払い」の企業で、男性社員が8月上旬に2週間の出生時育児休業を取得した場合、その期間の賃金が確定し支払われる9月25日以降でなければ、正確な賃金申告および申請手続きが進められないという時間的な空白が生じていました。  

  • 見直し後の実務(2026年8月1日以降)

    「出生時育児休業期間中に支払日のある賃金」を申告するルールへと変更されます。これにより、休業期間中に訪れる賃金支払日に支払われた賃金を申告すれば足りるため、休業終了後、次の給与支給日を待つことなく速やかに給付金申請を行うことが可能になります。  

  • 適用開始時期と対象範囲

    この新ルールは、2026年(令和8年)8月1日以降に開始する出生時育児休業から適用されます。申告対象となるのは、出生時育児休業期間(通常の育児休業期間を含む)を対象とした賃金です。また、出生時育児休業を分割して取得する実務上のケースにおいては、その間の就労期間に支払日のある賃金も含まれることになります。  

出生後休業支援給付金における母親の配偶者確認書類の緩和

出生後休業支援給付金は、両親ともに育児休業を取得することを促進する目的で創設された給付金であり、原則として配偶者が育児休業を取得している(または取得した)ことが支給要件の一つとなっています。  

  • 従来の課題

    母親がこの給付金を申請する際、配偶者(父親)の確認書類として住民票等の公的証明書の取得を求められるケースがあり、産後間もない母親や育児に追われる家庭にとって、行政機関への書類請求は小さくない負担となっていました。

  • 改正内容

    父親が申請する場合と同様に、母親が申請する場合においても、「母子健康手帳の写し(出生済証明のページで、配偶者の氏名・生年月日が記載されたものに限る)」を配偶者の確認書類として提出できるようになります。  

  • 実務上の留意点

    ただし、家庭の事情や手帳の記載状況により、母子健康手帳の写しだけでは配偶者の関係や事実が十分に確認できない例外的なケースにおいては、世帯全員について記載された住民票等の確認書類の提出を求められる場合があります。実務においては、原則として母子健康手帳で案内しつつ、記載事項に不備がないかを事前に確認するステップが重要です。  


視点2:多様な働き方への適合と算定基準の明確化の深層解剖

育児・介護休業法の改正により、育児のための短時間勤務制度(いわゆる時短勤務)の利用は全労働者へ広がりを見せていますが、これまでは実労働時間が固定的な「通常のフルタイム労働者」を前提とした手続きが中心であり、柔軟な働き方をする労働者の手続きには多くの疑義が生じていました。今回の改正では、育児時短就業給付金(ジータン)の支給要件確認における「週所定労働時間」の計算方法が、労働時間制度ごとに明確に定義されました。  

労働時間制度ごとの週所定労働時間計算ルール

それぞれの制度について、新たな計算方法は以下の通り規定されています。  

1.フレックスタイム制

  • 計算式

    「清算期間における総労働時間の算出基礎となった1日の労働時間×週所定勤務日数」

  • 実務解説

    フレックスタイム制では日々の労働時間が変動するため、就業規則や労使協定で定めている「標準となる1日の労働時間(総労働時間の算出基礎となる時間)」に、契約上の週所定勤務日数を乗じることで、一律に週所定労働時間を算出します。これにより、月の労働日数の長短に左右されない安定した算定が可能となります。  

2.変形労働時間制(1ヶ月単位、1年単位など)

  • 計算式

    「対象期間における1週間の平均労働時間」   

  • 実務解説

    繁忙期や閑散期で週の労働時間が異なる変形労働時間制においては、変形期間全体の総所定労働時間を、その期間の暦週数で除した「1週間の平均労働時間」を基準とします。  

3.シフト制(パートタイム労働者等含む)

シフト制においては、時短就業の「開始前」と「開始後」で適用される算定対象期間が明確に分けられ、いずれも当該期間の週数で実労働時間を除す計算式が採用されました。  

  • 基本的な計算の枠組み

    対象となる労働時間を「該当期間の週数(暦日数 ÷ 7日)」で除して計算します。  

  • 短縮前の計算方法

    「育児時短就業を開始した日前の3か月間における実際の労働時間」を基礎とします。  

  • 短縮後の計算方法

    「支給対象月に支払われた賃金の算定対象期間における実際の労働時間」を基礎とします。なお、実務上多く見られる「賃金が月末締め、翌月支払い」の事業所においては、「支給対象月における実際の労働時間」を用いて計算することになります。  

確認書類に関する条件

これらの新しい計算方法を適用するためには、フレックスタイム制および変形労働時間制の場合、ハローワークに提出する週所定労働時間の確認書類(就業規則、雇用契約書、労働条件通知書など)において、上記の内容(計算基礎となる1日の時間や、対象期間の平均労働時間など)が明確に確認できる場合に限られます。したがって、企業は施行日までに自社の労務管理書類の記載内容を点検しておく必要があります。

  

視点3:企業の業務効率化とコンプライアンスの深層解剖

第三の視点として、今回の改正は企業のバックオフィス業務の劇的な効率化と、国が推進する行政手続きのデジタル化(DX)を強く意識した内容となっています。

書類の再提出不要化と記載欄の省略

これまで給付金ごとの「縦割り」的な書類提出が求められていた点が、同一の労働者・子に関する一連の手続きとして統合・簡素化されます。

  • 母子健康手帳の写しの省略

    同一の子についてすでに「育児休業給付」を受給している労働者が、続いて育児時短就業給付金等を受給する場合、改めて母子健康手帳の写し等の添付書類を提出する必要がなくなります。  

  • 賃金証明書の記載欄の省略

    育児休業給付に係る育児休業が終了した後、同一の子について初めて「育児時短就業」を開始したケースにおいて、実務上の負担を軽減する措置が導入されます。具体的には、育児休業を開始した後、育児時短就業を開始するまでの間に賃金の支払いが一切ないことが「賃金証明書及び添付書類」によって確認できる場合、賃金証明書の「9欄、10欄及び11欄(育児休業開始前の賃金支払状況)」の記載を全面的に省略することができます。育休前の過去の賃金履歴を時短給付の開始時に改めて転記・証明する手間が省けるため、人事労務担当者の入力工数は大幅に削減されます。  

証明書様式の改訂と「照合省略制度」の拡充

手続きの簡略化を進める上で、証明書類の標準化と、企業の信頼度に応じた手続きの簡略化が図られます。

  • 証明書(様式例)の改訂

    「育児時短就業期間等に係る証明書(様式例)」が改訂され、この改訂様式を用いることで、「育児時短就業の開始日」および「週所定労働時間」の確認書類としてそのまま提出することが可能になります。厚生労働省の「各種お知らせ・様式」のダウンロードサイト(育児時短就業給付金関係)から最新様式を入手し、実務に取り入れることで、個別に雇用契約書やタイムカードを何枚も添付する負担が軽減されます。  

  • 照合省略対象事業主等に対する特例

    現在、雇用保険手続きにおいて一定の要件を満たし、社会保険労務士等を通じて電子申請を行う事業主等には、賃金台帳や出勤簿などの確認書類との「照合省略」が認められています。今回の見直しにより、この照合省略の対象範囲に「時短前後の週所定労働時間の確認書類」が追加されます。関係書類との照合が省略できるようになることで、優良企業の電子申請はさらにスムーズになり、行政側の審査スピード向上にも寄与します。  


なぜ今、この見直しなのか?

この2026年8月見直しの背景には、現代の日本の労働社会が抱える複合的な課題と、政府が進める「異次元の少子化対策」および「労働行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)」の交差があります。

1. 給付金支給の遅延という社会課題の解決

育児休業給付金は、休業中の労働者にとって唯一ともいえる収入源です。しかし、これまでの実務構造では「給与の締日・支払日を待ってから事業主が証明書を作成し、ハローワークが審査を行い、さらに振り込みまで数週間かかる」というプロセスを経るため、休業開始から最初の給付金が労働者の口座に届くまでに2か月から3か月近くかかるケースが常態化していました。今回の「支払日のある賃金を申告する」という見直しは、申請タイミングを前倒しし、家計への資金供給をスピードアップさせるための直接的な解決策です。  

2. 「共働き・共育て」社会における制度の複雑化への対応

2025年4月に完全施行を迎える改正育児・介護休業法や、雇用保険法による「出生後休業支援給付金」「育児時短就業給付金」の導入により、制度はきめ細やかになった反面、給付要件や算定ロジックは過去に例を見ないほど難解になりました。企業の人事担当者が書類作成に追われ、ハローワークの窓口が確認作業でパンクする状況を回避するためには、申請手続き自体のスリム化と合理化が不可欠であったといえます。  

3. 多様な働き方(シフト制・フレックス等)の標準化

正規雇用・非正規雇用を問わず、シフト制やフレックスタイム制で働く労働者が育児休業や時短勤務を取得する割合が急増しています。これまでは、固定的な勤務時間を前提とした「週所定労働時間」の概念にシフト制の労働者を無理に当てはめて算定していたため、企業ごと、あるいは管轄ハローワークごとに判断のばらつきが生じかねない状況にありました。算定基礎を明確に定義し、計算式を公開することは、公平で透明性の高い労働行政を実現するための政府の強い意志の表れです。

  

企業が実務上とるべき具体的な対応と留意点

2026年8月1日の施行日に向けて、企業の人事労務担当者および経営者は、以下の実務対応を計画的に進める必要があります。単純な制度改正として捉えるのではなく、自社の労務管理フロー全体を点検する良い契機とするべきです。  

1. 給与計算システムおよび労務管理ソフトの設定確認

出生時育児休業給付金における賃金申告ルールの変更(対象期間の賃金から、支払日のある賃金への変更)に伴い、給与計算システムや社会保険労務士システムから出力される「賃金証明データ」の抽出ロジックを変更しなければなりません。システムベンダーが提供する2026年夏のアップデート内容を早期に確認し、運用テストを行うことを推奨します。  

2. 雇用契約書・労働条件通知書・就業規則の点検

フレックスタイム制や変形労働時間制を導入している事業所では、育児時短就業給付金の算定において「計算基礎となった1日の労働時間」や「対象期間の平均労働時間」を確認書類で証明できなければ、新しい明確な計算ルールを適用できません。自社の就業規則や個別の労働条件通知書において、これらの所定労働時間に関する規定が曖昧になっていないか、今のうちに専門家(社会保険労務士等)の監査を受けることをお勧めします。  

3. 社内申請フローと従業員への周知・アナウンスの改訂

従業員向けの「育児休業・時短勤務ガイドブック」や「社内ポータルサイト」の記載内容を改訂する必要があります。特に以下のポイントを明確に伝えることで、従業員からの問い合わせ対応を削減できます。

  • 出生時育児休業給付金は、休業に入った後、従来よりも早いタイミングで手続きが開始できること。  

  • 母親が出生後休業支援給付金を申請する際は、配偶者の確認書類として母子健康手帳の写し(出生済証明ページ)を早めに人事部へ提出すること。  

4. シフト制労働者の時短取得時における労働時間実績の記録保存

シフト制で働くパート・アルバイト社員が時短就業を開始する場合、短縮前3か月間および短縮後の各月における「実際の労働時間」が算定の絶対的な基礎となります。タイムカードや勤怠管理システムにおける実労働時間の集計が正確に行われているか、また「暦日数 ÷ 7」による週数の計算において端数処理などのミスが起こらないよう、運用マニュアルを整備しておくことが重要です。

  

人事労務管理は「手続き」から「戦略」へ

今回の2026年8月改正は、労働保険・社会保険行政における一大転換の一端に過ぎません。今後、日本の労務管理はどのような方向へ向かうのか、3つの潮流を予測します。  

1. 「マイナポータル」と電子政府の統合による添付書類のさらなる廃止

今後は、マイナンバーカードを基盤としたマイナポータルへの情報連携がさらに強固になります。住民票や母子健康手帳、さらには過去の雇用保険受給履歴など、行政側ですでに保有しているデータについては、将来的には一切の添付書類を不要とする方向で議論が進んでいます。企業には、紙の書類を収集するオペレーションから完全なペーパーレス・電子申請への移行が急務となります。

2. 「照合省略」を基準とした企業評価の格差拡大

今回の見直しで時短前後の労働時間確認書類においても「照合省略」の適用が拡大されたように、国は「コンプライアンス意識が高く、電子申請を活用し、適切な労務管理を行う事業主」に対しては行政手続きのフリーパスを与え、そうでない企業に対しては厳格な添付書類の提出と監査を求めるという、二極化のマネジメントを強めていきます。企業の事務コストを削減するためには、社会保険労務士等の専門家と連携し、照合省略対象事業主の要件を満たすような高いレベルの内部統制を築くことが最大の防御にして攻めとなります。  

3. 個別多様な働き方と給付金のシームレスな統合

時間や場所に縛られないテレワーク、週休3日制、短時間正社員、ギグワークなど、労働者の働き方は急速に多様化しています。雇用保険制度も、これまでの「週20時間以上・フルタイムの雇用関係」を唯一の絶対基準とするモデルから、労働時間や就業形態の変化に応じてシームレスに生活と育児を支援する社会セーフティネットへと進化しつつあります。

人事労務担当者や経営者に今求められているのは、複雑に変化する法制度の「手続きに追われること」ではありません。手続きそのものはデジタル化と専門家の活用によって極限まで効率化し、その上で空いた時間とリソースを、「いかにして多様な人材が育児や介護と両立しながら、心理的安全性を持って高いパフォーマンスを発揮できる職場環境を作るか」という本質的な人的資本経営の戦略立案に注ぐことこそが、今後の企業競争力を左右する鍵となるでしょう。

育児休業等給付の手続きは、労働者の生活を支え、企業のエンゲージメントを高める重要な接点です。2026年8月1日の見直しを契機に、自社の業務プロセスを最適化し、より働きやすい職場環境の構築を進めていきましょう。


育児休業等給付の申請手続きを見直します(厚生労働省)

  

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