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【社労士解説】7年連続で過去最多を更新。令和7年度・精神障害の労災認定データから読み解く今後の動向と企業の実務対応

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 1 日前
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精神障害

厚生労働省が2026年7月15日に公表した「2025年度(令和7年度)過労死等の労災補償状況」は、日本の企業社会における労務管理の焦点を鮮明に映し出しています。長年にわたり推進されてきた「働き方改革」により、長時間労働を要因とする脳・心臓疾患の労災認定が減少傾向を示す一方で、仕事上のストレスを原因とする精神障害の労災請求・認定件数はかつてない水準へと急増しています。

特に注目すべきは、精神障害の労災請求件数が前年度比1178件増の4958件に達し、認定件数も1082件と7年連続で過去最多を更新した事実です。なぜ今、これほどまでに精神障害の労災が増加しているのか。本稿では、最新の政府統計データと労働関連法令の改正経緯を読み解きながら、社会保険労務士の専門的視点から「3つの視点」で実務上の本質的課題と実効的な予防策を徹底解説します。


1.精神障害労災4958件の衝撃と「ハラスメント3大要因」の台頭

2025年度統計において最も警戒すべきは、精神障害の請求件数が前年度から約31%増という急激な右肩上がりの推移を示した点です。支給・不支給が決定した3839件のうち、労災認定されたのは1082件(認定率28.2%)に上り、そのうち自殺や自殺未遂に至った深刻なケースも76件確認されています。

認定件数(1082件)を具体的な出来事(原因)別に分析すると、職場環境の質を左右するハラスメントが上位を独占している現状が浮き彫りになります。

第1位:パワーハラスメント(222件)

第2位:カスタマーハラスメント(127件)

第2位:セクシュアルハラスメント(127件)

認定基準改正の経緯と政府の狙い

この急増の背景には、2023年(令和5年)9月に厚生労働省が改定した「心理的負荷による精神障害の認定基準」が大きく影響しています。かつては「上司等からのパワーハラスメント」や「顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)」が発生しても、従来の評価指標では「業務起因性がある」と判断されにくい側面がありました。

政府は、2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)との整合性を図るため、認定基準の「具体的な出来事」に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という項目を明文化しました。さらに、パワハラやセクハラに対する評価要素を見直し、心理的負荷の強度「強」と判断される要件をより実態に即した形で明確化しました。

厚労省担当者が「報道やハラスメント防止施策の推進で、業務上のストレスによる精神障害について社会的な認識が広く浸透した」と分析している通り、労働者側の権利意識の向上と相まって、これまで潜在化していた職場の心理的ストレスが「労災請求」という顕在化したアクションに結びついているのが現在の構造です。業種別では、「医療、福祉」が292件と最も多く、「製造業」(158件)、「卸売業、小売業」(116件)と続いており、特に対人サービス業における精神的負荷の高さが顕著です。


2.身体的疲労から心理的負荷への構造転換と多様化する就業リスク

精神障害の急増とは対照的に、過重労働による脳・心臓疾患の労災認定件数は217件(前年度比24件減)、うち死亡件数は67件(前年度同数)と落ち着きを見せています。これは、2019年4月から順次施行され、2024年4月には建設業や運送業、医師等へも全面適用された「時間外労働の上限規制(罰則付き)」が一定の効果を挙げ、月80時間を超えるような過度な肉体的長時間労働の抑制が進んだ結果と言えます。

しかし、実務上は「労働時間が減ったから安全」という認識は危険です。現場では、短縮された業務時間内で従来と同等以上の成果を求められる「労働濃度の高まり」や、人員不足に伴う現場責任者へのプレッシャー集中が、新たな心理的ストレスを生み出す構造転換が起きています。

年齢構成が示す「全世代型リスク」の顕在化

精神障害の労災認定を年齢別で見ると、中間管理職として上下の圧力を受けやすい40代が294件で最多となり、次いで50代が244件、30代が243件と続きます。特筆すべきは若年層の動向です。20代が236件と30代に肉薄しているほか、19歳以下でも11人が労災認定されています。若年層においては、指導とハラスメントの境界線に対する受け止め方のギャップや、配属直後の孤立感がメンタル不調の引き金となりやすく、世代に応じたオンボーディングとケアが不可欠です。

「複数業務要因災害」と「裁量労働制」の実態

働き方の多様化(副業・兼業の拡大)に対応するため、2020年9月の労災保険法改正で新設された「複数業務要因災害」の動向も見逃せません。これは、単一の勤務先の負荷だけでは業務災害と認められない場合でも、複数の勤務先の労働時間やストレスを合算して評価する制度です。2025年度統計では、脳・心臓疾患で7件、精神障害で4件の支給決定がなされています。副業を解禁する企業は、自社外での労働時間や心理的負荷も含めた総合的な健康管理が求められるフェーズに入っています。

また、専門型・企画型を中心とする「裁量労働制」対象者の精神障害における支給決定件数も9件(専門業務型9件)確認されています。時間管理を本人の裁量に委ねる働き方であっても、使用者の「安全配慮義務」が免責されるわけではないという法理が、統計数値からも実証されています。


3.企業の安全配慮義務の高度化と実務上の実効的防衛策

労災認定件数の増加は、企業にとって単なる「保険給付の対象者が増えた」という認識で済まされる問題ではありません。精神障害で労災が認定された場合、業務と発症の因果関係が公的に認められたことになり、その後、労働者や遺族から民法上の安全配慮義務違反(民法第415条)や不法行為責任(民法第709条・第715条)に基づく高額な損害賠償請求訴訟を提起されるリスクが極めて高くなります。

また、認定率が28.2%(請求件数の約3割)にとどまっている点は、企業内で「業務起因性」をめぐる労使トラブルや見解の相違が頻発し、1件当たり平均8.2か月もの審査期間中、企業が長期にわたり調査対応や職場不安にさらされている現状を意味します。

今後の法制化動向と実務対応のポイント

政府は現在、パワハラ・セクハラのみならず、「カスタマーハラスメント」や「就活ハラスメント」に対する法的な防止措置の義務化を本格的に進めています。これまでの「ガイドラインによる奨励」から、今後は「法律による企業責任の強制」へと制度の枠組みが一段と強化されることは確実です。こうした今後の見通しを踏まえ、企業および人事・労務担当者が直ちに講じるべき実践的な3つの解決策を提示します。

1.客観的記録に基づく「労働時間と心理的負荷」のクロスモニタリング

出退勤打刻とPCログイン・ログアウト時間の乖離チェックなど、客観的な時間管理の徹底は前提条件です。その上で、時間外労働が月40時間〜60時間程度であっても、「クレーム対応の激増」「上司の交代」「過度のノルマ」といった“心理的負荷要素”が重なっていないかを早期に察知する体制が必要です。定期的な1on1面談やストレスチェックの集団分析を活用し、メンタル不調のサインを部署単位で検知・是正する運用を構築してください。

2.カスタマーハラスメント(著しい迷惑行為)に対する「組織的防衛方針」の確立

社外からのカスハラが精神障害労災の第2位に躍り出た今、従業員に「誠意と忍耐」を強いる対応は企業の安全配慮義務違反に直結します。「どこからが迷惑行為に該当するか」の明確な基準をマニュアル化し、理不尽な要求や暴言に対しては「組織として対応を打ち切る」「警察や法務・顧問社労士等と連携する」というエスカレーションフローを確立し、現場の従業員を孤立させない防衛策を明示・徹底することが急務です。

3.就業規則・ハラスメント規程の現代化と実効性ある研修の実施

パワハラ・セクハラ・カスハラに関する禁止規定と懲戒処分の事由を就業規則に網羅的に規定し、全従業員へ周知することが不可欠です。特に「指導とハラスメントの境界線」については、管理職層向けに具体的なケーススタディを用いた実践的な研修を継続実施してください。「感情を伴う叱責」や「業務上必要性のない過大な要求」が違法リスクを生むことを組織の共通認識にすることが、最大の予防策となります。


リスク回避から「選ばれる企業」への昇華

2025年度統計で示された「精神障害労災1082件・請求4958件」という現実は、日本企業における労務管理の焦点を「肉体的疲労の制限」から「心理的心理管理と職場環境の適正化」へと本格的に移行させる契機を突きつけています。

実務上、ハラスメントや過重負荷を放置することは、法的賠償リスクにとどまらず、従業員の離職、採用難、そして企業ブランドの失墜という経営の根幹を揺るがす致命的なダメージをもたらします。一方で、時代に即した労務コンプライアンスを確立し、従業員が安心・安全に力を発揮できる心理的安全性(サイコロジカル・セーフティ)の高い環境を整えることは、労働市場において「選ばれる企業」となり、高い生産性と持続的な成長を実現する強力な競争優位性となります。

制度改正の動向を見据え、自社の職場環境や規程類、労務管理体制が現在の基準に適合しているか、今一度、客観的な視点から総点検を実施されることを強くお勧めいたします。


令和7年度「過労死等の労災補償状況」を公表します(厚生労働省)


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メディア取材実績:週刊文春((株)文藝春秋)(【証拠ビデオ入手】東証上場企業・ライトアップが指南する厚労省助成金“不正受給”「おいしすぎる」「数千万円が自由に」、【全社員の4分の1近くがいなくなり…】「ウルトラマン」シリーズの円谷プロで退職者が続出していた)、TOKYOMX(堀潤LiveJunction」「医療保険制度改革で…負担増える逆転現象も」)、東京新聞『国保逃れ指摘「すでに把握しています」と言いつつ野放し国や年金機構「脱法行為」是正がニブ過ぎるのは…』『維新だけではなかった「国保逃れ」司法書士グループ企業でも「節約術」疑惑厚労省「看過できない状況」』、『国保逃れ」に新たな手口国の対策をすり抜ける「従業員型」とは…業者に接触した特定社労士が読み解く』、週刊SPA!『稼ぎながら健康になれ50代からのガテン系仕事』、他


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