【令和8年最新法改正】個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入年齢引き上げと企業型年金の拠出制限撤廃に関する実務解説〜社会保険労務士が読み解く3つの視点と今後の企業対応〜
- 坂の上社労士事務所

- 2 日前
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令和8年(2026年)6月30日、厚生労働省年金局長より、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の一部の施行に伴う関係省令の整備等及び経過措置に関する省令等の公布について(通知)」が発出されました。本省令および命令は、令和8年12月1日より施行されます。
少子高齢化が進み、長く働き続けることが一般的となる社会構造の変化の中、老後の資産形成の中核を担う確定拠出年金制度は、極めて大きな転換点を迎えます。本記事では、企業の経営者・人事労務担当者に向けて、今回の法改正がもたらす影響と実務上の対策を、社会保険労務士の専門的な知見から「3つの視点」に整理して深く解説いたします。
1.法律改正の背景と政府の意図〜「長く働き、長く備える」社会制度への適合〜
今回の改正の根底には、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化」という政府の強力な方針が存在します。
これまで、日本の公的年金制度および私的年金制度は、60歳での定年退職をひとつの区切りとして設計されていました。しかし、健康寿命の延伸や継続雇用の普及により、60歳以降も働き続ける高年齢層が急増しています。政府は、こうした社会の変容に制度を適合させるため、働きながら自発的に資産を形成できる仕組みの拡大を急務としていました。
その象徴とも言えるのが、個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)における「第5号加入者」の新たな創設と、これに伴う実質的な加入可能年齢の引き上げです。従来の制度では、60歳以降の加入には厳格な条件が課されていましたが、改正確定拠出年金法(令和7年改正法)により、第5号加入者という区分が設けられ、60歳以上70歳未満の幅広い層が新たに加入できるようになります。(※施行日から3年間は、経過措置として、国内に住所を有する60歳以上70歳未満の一定の者が、国民年金基金連合会に申し出ることで第5号加入者になれる特例が設けられています。)
この制度拡充は、単なる年齢制限の緩和にとどまらず、「70歳まで働き、自ら老後の資金を育てる」という新しい働き方の提示でもあります。政府は、高年齢層が税制上の優遇措置を受けながら資産形成を継続できる環境を整えることで、将来の生活不安を軽減し、労働市場における高年齢層の活躍をさらに後押しする意図を持っています。
2.企業と働き手に直結する詳細な変更内容〜規制の撤廃と柔軟性の向上〜
令和8年12月1日に施行される関係省令等の整備では、加入年齢の引き上げ以外にも、実務上極めて重要な「規制の撤廃」や「特例の導入」が複数行われます。主要な変更点は以下の通りです。
①企業型確定拠出年金における「加入者掛金の上限規制」の撤廃
これまで企業型確定拠出年金において、従業員が自身の給与から事業主掛金に上乗せして拠出する加入者掛金には、「事業主が拠出する掛金額を超えてはならない」という厳しい制限が存在しました。
今回の改正により、この制限が完全に撤廃されます。これにより、企業側の掛金が少額に設定されている場合であっても、従業員は自身の判断と経済状況に応じて、より多額の掛金を拠出することが可能となり、資産形成の自由度が飛躍的に高まります。
②拠出限度額の引き上げに伴う「掛金変更回数」の特例措置
iDeCoや企業型確定拠出年金の掛金額の変更は、原則として拠出の単位となる期間において1回に限られています。
しかし、別の政令(令和7年政令第442号)によって確定拠出年金制度全体の拠出限度額が引き上げられることを受け、特別な措置が講じられます。限度額が引き上げられる令和8年12月1日から令和9年11月30日までの1年間に限り、より多い限度額の枠を活用して掛金を引き上げる場合には、この「年1回」という変更回数の制限から除外される特例が適用されます。これにより、制度利用者は新たな非課税枠を即座に活用できるようになります。
③「簡易企業型年金」の統合および廃止
中小企業における制度導入を促進する目的で設けられていた「簡易企業型年金」の仕組みが、通常の企業型年金に統合されることとなりました。これに伴い、報告書などの関連様式から簡易企業型年金に関する記載事項や表が削除されます。制度が一本化され簡素化することで、企業側の理解と運営の負担が軽減されることが期待されます。
④掛金拠出限度額の調整規定の整備
国民年金保険料を納付したことや、国民年金基金の掛金が引き上がることによって、iDeCoの加入者掛金との合計額が法令で定める拠出限度額を超過してしまう場合、限度額内に収まるよう自動的にiDeCoの掛金を引き下げる規定が新たに追加されます。これにより、意図しない限度額超過を防ぐ仕組みが強化されます。
3.今後の企業実務への影響と人事労務部門が取るべき対策
本改正が施行される令和8年12月1日へ向けて、企業は単に制度の変更を知るだけでなく、社内の規定や体制を直ちに見直す必要があります。特に人事・給与計算部門が直面する課題と解決策について解説します。
課題1:確定拠出年金規約の改定と労使協議の実施
前述した加入者掛金の上限規制の撤廃は、法律が施行されたからといって自動的に社内に適用されるものではありません。企業が定めている「確定拠出年金規約」そのものを変更する手続きが必要です。
経営側は、従業員に対してより魅力的な福利厚生と資産形成の手段を提供するため、労働組合または従業員の過半数代表者と速やかに協議を開始すべきです。令和8年12月の施行と同時に従業員が新たな掛金設定を行えるよう、逆算して規約変更の手続きや所管官庁への届出を進める必要があります。
課題2:給与計算体制の見直し
加入者掛金の上限規制が撤廃されることで、給与計算上の控除額が個々の従業員によって大きく変動する可能性が高まります。また、令和8年12月1日から1年間に限り認められる掛金変更回数の特例措置により、年度の途中で掛金額の変更を希望する従業員が増加することが見込まれます。
給与計算を担う担当者や、外部の社会保険労務士事務所などは、控除額の計算において事業主掛金額の上限判定を行う必要がなくなる一方で、従業員からの変更申請を滞りなく処理する体制を整えなければなりません。
課題3:行政への報告書様式変更への対応
拠出限度額の引き上げや簡易企業型年金の統合に伴い、確定拠出年金に関する報告書の様式(確定拠出年金法施行規則様式第8号、および運営管理機関に関する命令様式第7号)が新しくなります。
重要な注意点として、この新しい様式は「令和8年12月1日以後に終了する事業年度に係る報告書」から適用されます。同日より前に事業年度が終了している分の報告については、従来の様式を用いるという経過措置が設けられています。自社の決算期と報告の時期を照らし合わせ、どのタイミングで新様式へ切り替えるのかを正確に把握しておくことが求められます。
課題4:従業員への周知と継続的な情報提供
制度がどれほど改善されても、従業員自身がその利点を理解していなければ意味がありません。特に60歳を迎える高年齢層に対しては、第5号加入者の新設 によって70歳までiDeCoを通じた資産形成が可能になる点を、退職金制度や再雇用制度の面談時などに併せて丁寧に説明することが重要です。
企業が従業員の経済的な将来設計を積極的に支援する姿勢は、会社に対する貢献意欲や定着率の向上に直結します。定期的な説明会の開催や、社内報での発信を通じた継続的な情報提供が求められます。
結論と今後の見通し
令和8年12月の確定拠出年金法等の改正は、年齢による区切りを取り払い、掛金の制限をなくす ことで、働く人すべてがそれぞれの生涯設計に合わせて資産を育てることを可能にする、極めて前向きな制度変更です。
個人にとっては、より長期間、より柔軟に老後の備えを構築できる大きな利点があります。一方、企業にとっては、こうした国の制度変更を迅速に社内規定に取り込み、従業員へ還元できるかどうかが、人材の確保や定着において企業価値を左右する重要な要素となります。
経営者および人事労務担当者は、令和8年12月の施行に向けて 今から社内体制の整備に着手し、労働環境の向上に繋げていくことが強く推奨されます。
社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の一部の施行に伴う関係省令の整備等及び経過措置に関する省令等の公布について(厚生労働省)
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