【論考】一番の問題は「自分自身」という自覚症状のなさ――感情的経営の悲惨な末路と、士業が毅然と立ち向かうべき理由
- 坂の上社労士事務所

- 5月29日
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日々、数多くの企業と対峙し、組織の根幹である「人」と「法」を扱う社会保険労務士という立場にいると、現代の企業社会が抱えるある構造的な病理が見えてくる。それは、組織を内側から崩壊させる最大の要因が「自らの無能さに一切の自覚症状がないトップ」の存在であり、そしてそれに迎合してしまう「弱気な専門家」の存在である。
今回は、実例を交えながら、経営トップが陥る「他責と思考停止の病理」と、我々士業がなぜ毅然とした態度を貫かなければならないのか、真の専門性とは何かについて論じたい。
1. 「自分が問題の張本人である」という致命的な無自覚
根本的な課題解決能力を持たない経営者には、ある共通する明確な特徴がある。社内でエラーや非効率が発生した際、決して「自らのマネジメントや体制構築に問題があるのではないか」とは考えないことだ。
常に「導入したシステムが悪い」「外部の専門家が悪い」、あるいは「現場の従業員が悪い」と問題を外部に転嫁し、都合の良い部分だけを切り取ってその場しのぎの対応を繰り返す。彼らは、本質的な物事の捉え方ができず、何が真の課題であるかを理解する知性を持たない。結果として具体的な改善策も立てられないまま、同じ失敗を永遠に繰り返す。一番の問題は「自分自身のマネジメント能力の欠如」であるにもかかわらず、その自覚症状が全くないのだ。
2. 感情的経営の末路:先を見通せないトップは組織を滅ぼす
ビジネスの現場において、経営者が感情的になることは、すなわち「先を見通す知性」と「全体を俯瞰する視点」の完全な喪失を意味する。
目の前で起きている事象に対して反射的に苛立ち、その場その場の場当たり的な行動に終始する。そのようなトップが率いる組織がどうなるかは、火を見るより明らかである。もし会社が真の危機や修羅場に直面したとき、自らを客観視できない無能な経営者に何ができるだろうか。何もできはしない。ただパニックに陥り、感情に任せて周囲や環境のせいにし、喚き散らすだけである。
先日、私が顧問契約の終了を宣告した案件でも、まさにこの病理が露呈した。最後の挨拶として、ビジネスチャット上で「現場の従業員の皆様には責任はありません。どうかお気になさらず、今後のご活躍をお祈りします」と、経営の責任の所在を明確にするメッセージを送信した。すると直後、その経営者は慌てて私をグループから強制退会させたのである。
私は、このあまりにも感情的な行動を前にしても、微動だにすることはなかった。さもありなんと全く意に介すことなく、パニックに陥った人間の滑稽な振る舞いをただ静観していた。従業員全員が見ている公式の場で、自らの感情をコントロールできずに実力行使に逃げる。一企業のトップとして、自身のその浅薄な振る舞いを恥ずかしいとは思わないのだろうか。経営者が感情を剥き出しにして行動するようになった時点で、トップとしては完全に「終わり」である。
3. 「裸の王様」への最後の教育――感謝されるべき無償の指摘
自身を客観視できず、能力の欠如を抱えたまま経営の座に居座り続ける。その姿は、冷徹なビジネスの視点から見れば、ただただ「哀れ」と言う他ない。
本来、解約して無関係になる相手に対し、私がわざわざ「問題解決能力の完全な欠如」「事の本質の未理解」そして「他責の姿勢」を事細かに指摘してやる義理など一切ない。これはもはや、経営トップに対する「教育」であり、本来であれば高額なコンサルティング報酬を請求すべき次元のフィードバックである。契約を打ち切る専門家から、自身の致命的な欠陥をここまで言語化してもらえることに対し、彼女は逆に感謝して然るべきなのだ。
だが、感情的になり耳を塞いだ彼女には、その真意を理解することは一生ないだろう。今後、彼女に真実を告げる人間は誰もいなくなる。彼女は一生、誰も間違いを正してくれない「裸の王様」として、システムや周囲への責任転嫁を続けていくに違いない。そして、その最大の被害者となるのは、常に現場の従業員たちである。
4. 専門家の矜持:毅然と対応することこそが「士業」である
最後に、私はあえて同業の士業全体に対しても強く警鐘を鳴らしたい。世の中には、クライアントの理不尽な要求に対して、あまりにも弱気な専門家が多すぎる。波風を立てることを恐れて迎合するその態度こそが、相手に「士業は都合よく使い倒していい存在だ」と勘違いさせる原因なのだ。
士業である以前に、我々は対等なBtoBの契約を結ぶビジネスパーソンである。高度な専門知見に対する正当な対価も払わず、都合よく専門家を利用しようとする態度は言語道断であり、決して許容してはならない。
我々士業は、企業の根幹である「人」と「法」を扱う、極めて重責ある業務を担っている。話が通じず、表面的な取り繕いと感情論で自己正当化を図る経営者に対し、毅然と「否」を突きつけ、不毛な関係を断ち切る。それこそが、我々が真の専門家であることの証明なのだ。
同業者たちは、自らがどれほどの価値を提供しているのか、その自覚を強く持ち、毅然と立ち上がらなければならない。経営者の器以上の組織はできないのと同様に、士業の矜持以上の価値は生まれないのだから。
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