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【令和8年最新税制対応】複数法人役員・小規模企業共済・個人型確定拠出年金の退職金受給「完全最適解」~制度改正の背景から読み解く戦略的出口設計~

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 5 時間前
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退職金

経営者や複数法人の役員にとって、長年の功労の集大成ともいえる「退職金」。特に「役員退職金」「小規模企業共済」「個人型確定拠出年金」という3つの強力な選択肢を持つ経営者にとって、これらを「いつ」「どのように(一括か年金か)」受け取るかの出口戦略は、手取り額を数千万円単位で左右する極めて重要な経営課題です。

しかし、令和8年現在、退職金を巡る税制は「過去に類を見ない大激変」の渦中にあります。かつて経営指導者や税理士が推奨していた「個人型確定拠出年金を60歳で受け取り、65歳で役員退職金を受け取る」という黄金の定石は、直近の税制改正により完全に崩壊しました。国税庁の新たな通達や規則の変更を見落とし、安易に過去の専門知識を適用すれば、想定外の巨額な税負担を強いられることになります。

本稿では、令和8年の最新税制と関係法令、国税庁の租税回答(質疑応答集)を極めて精緻に分析・解読し、社会保険労務士という労務と社会保障の専門家の視点から、「あらゆる類型を想定した最適解」を解説します。


本記事が提示する「3つの重要視点」

本記事は、経営者様が直ちに全体像を把握できるよう、以下の3つの視点を軸に構成されています。

1、激変する税制と政府の狙い(大局的視点)

従来「5年規則」と呼ばれていた受給間隔の要件が「10年規則」へと大幅に延長された税制改正。この裏にある政府の「過度な節税封じ込め」と「労働移動・生涯現役社会の促進」という明確な意図を読み解きます。制度の根底にある哲学を理解することが、将来のさらなる法改正による不利益を回避する第1歩です。

2、重複期間と受給順序の法的解釈(個別的・戦略的視点)

複数法人からの役員退職金、小規模企業共済、個人型確定拠出年金を組み合わせる際に立ちはだかる「退職所得控除の重複調整」。同時受給と異年受給で全く異なる国税庁の算定論理を解読し、「受け取る順番」と「間隔」による控除額の変動構造を明らかにします。

3、実務上の法令遵守と最適出口設計(危険性回避・実践的視点)

年齢(60歳・65歳・70歳)や受給方法(一時金・年金)を掛け合わせた全類型を想定試算。「一時金」と「年金」の併用活用や、役員の分掌変更に伴う実務上の留意点など、税務否認の恐れを排除しながら手取りを最大化する「令和8年版の最適解」を提示します。


1.令和8年の退職金税制の抜本的変化(制度改正の背景と政府の狙い)

退職金(退職手当等)に対する税制は、長らく「分離課税」かつ「退職所得控除後の金額をさらに2分の1にする」という、日本の税制において最も優遇された仕組みを持っています。この強大な恩恵を最大化するため、経営者たちは「受給時期をずらす」ことで控除枠を複数回にわたって最大限活用する手法を用いてきました。

しかし、令和8年現在、この手法に巨大なメスが入りました。最大の要点は「個人型確定拠出年金(一時金)と他の退職金の受給間隔規定の『10年規則』への延長」です。

政府が「10年規則」を導入した真の狙い

これまで、個人型確定拠出年金を60歳で一時金として受け取り、その5年後である65歳で会社の役員退職金や小規模企業共済を受け取れば、それぞれの期間で退職所得控除を満額使うことが可能でした(前年以前4年内の不適用規則)。

しかし、この規定は「制度の隙間を突いた過剰な恩恵である」と財務省や政府税制調査会から強く指摘されてきました。加えて、人生100年時代において、60歳での引退を前提とした制度設計は時代遅れとなり、70歳、75歳まで長く働き続ける「生涯現役社会」への移行が急務となっています。

そこで政府は、控除の「重複排除調整」の対象期間を、従来の「前年以前4年内(5年間)」から「前年以前9年内(10年間)」へと一気に倍増させました。これにより、「60歳受給、65歳受給」という定石は完全に封じられ、同様の節税効果を得るには「60歳受給、70歳受給」とする等、より長期にわたる現役継続が必要になったのです。

変わらない「19年規則」の壁

一方で、順番を逆にして「役員退職金や小規模企業共済を先に受け取り、後から個人型確定拠出年金を受け取る」場合の規定は、依然として厳格です。この場合、前の退職金から19年以上(前年以前19年内)の間隔を空けなければ、後者の退職所得控除は全額重複として差し引かれてしまいます。60歳で役員退職金を受け取った場合、後者を無傷で受け取れるのは79歳以降となり、現実的な選択肢とは言い難い状況です。


2.3つの退職金の法的性質と「退職所得控除」の基本構造

最適な組み合わせを設計するには、まず基礎となる「退職所得控除」の計算論理と、各制度の法的性質を正確に把握する必要があります。

退職所得控除の計算手順

退職所得は、原則として以下の計算式で算出されます。

(収入金額 - 退職所得控除額) × 2分の1 = 退職所得の金額

退職所得控除額は「勤続年数(加入年数)」に応じて以下のように決まります。

・20年以下の場合:40万円 × 勤続年数(最低80万円)

・20年超の場合:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

勤続20年を超えると、1年あたりの控除額が40万円から70万円に跳ね上がるため、「いかに長く加入(勤続)するか」が手取り額に直結します。なお、昨今の税制調査会ではこの「20年超・70万円」の優遇を一律化(一律40万円等)する議論も進んでおり、将来的な法改正の動向には経営者も注視が必要です。

①役員退職金(複数法人の場合)

自社から支給される退職金です。国税庁の公式発表等にもある通り、「特定役員退職手当等」の規定に注意が必要です。役員としての勤続年数が5年以下の場合、上記の計算式の「2分の1にする」という優遇が適用されません(全額が総合課税の対象)。複数法人を経営し、数年で退任を繰り返して退職金を得るような計画は既に封じられています。

②小規模企業共済(共済金)

国の機関が運営する経営者のための退職金制度です。掛金が全額所得控除になるため加入中は最強の節税効果を発揮し、受け取り時にも「退職所得」として扱われます。加入期間が20年以上であれば、先述の「70万円増加」の恩恵を受けられます。

③個人型確定拠出年金

掛金が全額控除、運用益が非課税、そして一時金受け取り時は「退職所得」、年金受け取り時は「雑所得(公的年金等控除)」となる制度です。法改正により加入可能年齢が引き上げられ、70歳近くまで掛金を拠出できるようになり、受給開始時期も75歳まで選択可能となりました。


3.「重複期間の調整」という最大の壁と算定の論理

複数法人からの役員退職金、小規模企業共済、個人型確定拠出年金。これらを複数受け取る場合、国税庁は「同じ期間に働いていた(加入していた)年数」に対する控除の二重取りを許しません。これが「勤続年数の重複排除」です。実務上、この規定の適用は「同一年(同時)に受け取るか」「異年(年をずらして)受け取るか」で全く異なる計算が行われます。

同一年(同時)に受け取る場合の計算(合算と期間調整)

同じ年に複数の退職金(複数法人からの役員退職金や小規模企業共済など)を受け取る場合、それぞれの「金額」と「勤続期間」を合算して1つの退職金として計算します。この際、控除額は「最も長い勤続年数」を基礎に計算され、重なっている期間(重複期間)は1回分しか算入されません。

【事例】

・甲社役員(勤続30年)

・乙社役員(勤続15年:全期間甲社と重複)

同年(例えば65歳)に両社から退職金を受け取った場合、勤続年数は「合算して45年」にはならず、最長期間である「30年」として退職所得控除(1,500万円)が計算されます。一見すると乙社分の控除が消滅したように見えますが、実は同一年受給による「合算計算」は、後述する異年受給の不利益に比べると、税務上極めて明快かつ手取りを予測しやすいという利点があります。

年をずらして受け取る場合の調整(みなし重複期間の調整)

問題となるのが、年をずらして一時金を受け取る場合です。ここで先述の「10年規則」や「19年規則」が牙を剥きます。

例えば、60歳で個人型確定拠出年金を受け取り、65歳で小規模企業共済を受け取った場合(最新税制の10年規則に抵触)。この場合、後から受け取る小規模企業共済の退職所得控除額から、「前回の退職金の勤続年数と重複していた期間(みなし重複期間)に対応する控除額」が減額調整されます。これにより、後から受け取る退職金の税金が跳ね上がることになります。


4.年齢別・受給形態別の完全想定試算(全類型網羅)

ここでは、経営者が直面する現実的な選択肢を元に、あらゆる年齢・受給方法の類型を試算し、その帰結を明らかにします。

【失敗の類型】60歳一時金受給からの65歳役員退任

旧税制での成功法ですが、令和8年現在では「10年規則」に抵触します。

1、60歳で個人型確定拠出年金を一時金受給。加入20年。退職所得控除800万円を活用し無税で受け取り。

2、65歳で役員退職金と小規模企業共済を一時金受給。前回の受給から5年しか経過していないため調整対象。前半の加入期間(40歳から60歳)と、役員・小規模の期間が「20年分」完全に重複しています。

3、結果:65歳受給時の退職所得控除(本来35年で1,850万円)から、重複部分(20年分の800万円)がごっそり差し引かれ、控除額は1,050万円に激減。退職金本体に重い税率が課せられ、数百万円単位の手取り減額(実質的な大増税)となります。

【危惧される類型】役員退職金・小規模企業共済を先行させる場合

1、65歳で役員退職金・小規模企業共済を一時金受給。控除を最大限活用(35年分で1,850万円)。

2、個人型確定拠出年金を一時金で受け取る時期を探る。ここには「19年規則」が存在します。65歳から19年後、つまり「84歳」にならなければ非課税枠(退職所得控除)で受け取ることができません。同制度の受給開始年齢の上限は現状75歳のため、実質的に退職所得控除は「0」として計算され、高額な税金を納めることになります。

【戦略的類型・甲】個人型確定拠出年金の年金受取(雑所得)への切り替え

一時金(退職所得)としての受給間隔規定を回避するための有効な手段が、「年金形式」で受け取ることです。年金形式で受け取る場合、退職所得ではなく「雑所得」となり、「公的年金等控除」が適用されます。

1、60歳から70歳まで、10年間で分割受給。65歳未満は年間60万円まで、65歳以上は年間110万円まで公的年金等控除が使えるため、他の公的年金(厚生年金など)の受給開始前であれば、無税あるいは極めて低税率で資金を回収できます。

2、65歳または70歳で役員退職金・小規模企業共済を一時金受給。前者を「一時金」として受け取っていないため、10年規則の適用外となります。役員退職金と小規模企業共済は同一年(同時)に受け取り、長い方の勤続年数で退職所得控除を堂々と最大限に活用します。

【戦略的類型・乙】10年規則の完全突破(60歳・70歳戦略)

生涯現役を貫く経営者のための王道の手法です。

1、60歳で個人型確定拠出年金を一時金受給。控除を使い切って無税で受け取ります。

2、70歳まで役員を継続し、70歳で役員退職金・小規模企業共済を一時金受給。60歳から「丸10年(前年以前9年内)」が経過しているため、10年規則の調整規定から完全に外れます。これにより、70歳受給時には小規模企業共済(加入40年で控除2,200万円)、役員退職金(勤続35年で1,850万円)の控除枠を不利益なしで最大限に活用できます。


5.社会保険労務士視点での「令和8年版 最適解」の道筋と戦略的手法

上記を踏まえ、複数法人役員・小規模企業共済・個人型確定拠出年金を併せ持つ経営者が取るべき「最適解」は、生涯設計に応じて以下の2つの経路に集約されます。

【最適解の経路①:60代前半で引退(第一線を退く)場合】

結論:「個人型確定拠出年金の計画的年金受給」と「65歳での役員退職金・小規模企業共済の同年一括受給」の併用。

65歳前後で代表権を後進に譲る場合、10年規則を待つことはできません。この場合、個人型確定拠出年金は決して一時金で受け取らず、60歳から年金形式(分割)で受け取りを開始します。厚生年金等の本格的な受給が始まる65歳までの「年金の空白期間」を分割受給で埋め、公的年金等控除の非課税枠(年間60万円)を活用します。

そして65歳の退任時、主たる法人の役員退職金、従たる法人の役員退職金、小規模企業共済の3つを「同一年に一括で」受け取ります。同一年受給であれば、面倒な過去のみなし重複調整(減額)ではなく、合算された上で「最も長い加入期間」による強力な退職所得控除が適用されます。

(複数法人における同一年受給の専門技法) 複数法人から同年受給する場合、各法人の退職金規定に基づき、株主総会決議等を同一年内に行う必要があります。実務上、片方の法人は完全に退任し、もう片方の法人は「代表取締役から平取締役への分掌変更」を行う等の手続きにより、合法的に同一年の退職金支給事由を作り出す高度な設計が求められます。

【最適解の経路②:70歳まで第一線で活躍する「生涯現役」の場合】

結論:「60歳での個人型確定拠出年金一括受給」と「70歳での役員退職金・小規模企業共済の同年一括受給」。

健康寿命が延び、70歳まで経営の舵取りを行う場合は、国の制度改正(10年規則)を逆手に取った「10年間隔戦略」が最強の手取り最大化手法となります。

60歳で掛金拠出を終え(国民年金任意加入等で継続しない場合)、一括で受け取ります。その後、60代は役員報酬を高めに維持しつつ、小規模企業共済の掛金を月額7万円(年間84万円の所得控除)で継続して積み立てます。

そして10年後の70歳。過去の受給履歴が税務上「白紙化」された段階で、役員退任と同時に小規模企業共済と役員退職金を一括受給します。この時点で勤続年数・加入年数は共に40年近くに達しており、退職所得控除は2,000万円を優に超えます。巨額の現金を、極めて低い税負担で個人資産へ移転させることが可能です。


今後の動向と実務上の注意点(専門家が警鐘を鳴らす危険性)

ここまでは計算上の最適解を論じてきましたが、我々社会保険労務士や税務の専門家が実務で直面するのは、計算式では測れない「税務調査・年金機構の監査による否認の恐れ」です。報道機関の皆様にもぜひ注目していただきたいのは、制度を形式的に利用した結果、足元をすくわれる経営者が後を絶たないという事実です。

①役員の「分掌変更」に伴う退職金否認の恐れ

退職金を受け取るために代表取締役から平取締役に退く(分掌変更)場合、実態として「経営の第一線から退いていること」「役員報酬がおおむね半分以上減少していること」など、実質的な基準を満たす必要があります。名義だけ平取締役に変更し、実態は今まで通り社長として実権を握っていると税務調査で認定された場合、退職金ではなく「単なる役員賞与(全額損金不算入・全額総合課税)」とみなされ、会社も個人も壊滅的な追徴課税を受けます。

②社会保険料対策としての「過度な報酬圧縮」と日本年金機構の目

近年、役員退職金を多額に設定する代わりに、在任中の役員報酬を極端に低く抑え(社会保険料負担を逃れる目的)、同時に複数法人の役員を兼務して保険料を圧縮する手法が問題視されています。これに対し、日本年金機構や厚生労働省は「実態調査」を強化しており、新聞各社でも「社会保険料逃れ」として度々報道される社会問題となっています。退職金設計は、単なる税金の最適化だけでなく、毎月の社会保険料の適正な納付と労働法令の遵守と一体で構築されなければなりません。

③将来の「退職所得控除縮小」に向けた備え

最後に、現在進行形で議論されている「退職所得控除の20年超の優遇(70万円への引き上げ)の廃止」です。これが現実のものとなれば、長く勤めることの税務的利点が薄れ、本稿で提示した想定試算の前提が再び大きく変わります。経営者は「いつ法改正が来ても動けるよう、複数の出口(一括と年金の併用等)を準備しておく」柔軟性が求められます。


全体最適を図るための専門家活用

「役員退職金」「小規模企業共済」「個人型確定拠出年金」の3本柱は、経営者の引退後の人生を支える強力な安全網です。しかし、令和8年の法改正により、その難題は素人が容易に解ける水準をはるかに超えました。「たった1年、受け取りを早まったばかりに数百万円の税金を余分に払った」という悲劇を防ぐためにも、社会保険労務士や税理士といった専門家による「長期的な出口設計」が今、最も求められています。


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