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【徹底解説】なぜ厚労省は「ホスピス型住宅(住宅型有料老人ホーム+訪問看護)」を狙い撃ちしたのか?──営業利益率20%超の“錬金術”が終焉を迎える日

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 2 日前
  • 読了時間: 5分
訪問看護

2025年11月28日、厚生労働省はあるビジネスモデルに対し、事実上の「レッドカード」を突きつけました。それは、一部の上場企業などが急拡大させてきた「ホスピス型住宅(住宅型有料老人ホーム+訪問看護)」です。

一般的な介護事業の利益率が数%と言われる中、なぜこのモデルだけが「営業利益率20%超」という異常な高収益を叩き出せたのか。そして、なぜ国は2026年度の改定でこの「錬金術」を強制終了させるのか。

今回は、この規制強化の裏側にある「制度のカラクリ」と、そこから経営者が学ぶべき教訓を、①経営、②法務、③社会の3つの視点で解説します。


1.そもそも「ホスピス型住宅」の何が問題なのか?

この問題を理解する鍵は、「普通の老人ホームとの決定的違い」にあります。ここさえ押さえれば、なぜ儲かるのかが分かります。

① 「定額食べ放題」vs「高級寿司の単品注文」

ここが一番のポイントです。お金の入り方が全く違います。

  • 普通の老人ホーム(特養・老健など)

    言わば「コミコミ定額制(食べ放題)」です。施設内に看護師がいますが、どれだけ手厚いケアをしても、料金は「介護報酬」の中に含まれているため、施設の売上は変わりません。

  • ホスピス型住宅

    こちらは「家賃 + 医療の課金制(単品注文)」です。 形式上は「ただの賃貸住宅」なので、ケアは外部のサービスを使います。ここで、「医療保険を使った訪問看護(単価が高い)」を別料金で請求できるのです。 特に末期がんの方などは保険の上限がないため、「ケアすればするほど、青天井で売上が増える」仕組みになっています。

② 「自作自演」による二重取り

ホスピス型住宅の多くは、マンションの1階などに「自社の訪問看護ステーション」を併設させています。

  • 入居者

    「24時間安心」を求めて入居するため、実質的にその併設ステーションと契約します。

  • 事業者

    入居者から「家賃」をもらいつつ、自社の看護師を部屋に行かせて「高額な医療費」も国に請求します。

本来、訪問看護は車で移動するものですが、ここは「エレベーターで移動するだけ」。移動コストゼロで、高単価な医療ケアを次々と回転させる。これが、一般的なビジネスではあり得ない利益率20%超を生み出した「錬金術」の正体です。


2.2026年改定:国が突きつけた「2つのペナルティ」

厚労省は、この「制度のバグ」を突いた利益追求を看過せず、2026年度の診療報酬改定で以下のメスを入れます。

① 「同一建物減算」の劇的強化

これまでは「同じ建物に住む人を効率よく回れるなら、少し報酬を下げますね」というルールが緩やかでした。しかし今後は、「多数の利用者がいる建物の場合、報酬を大幅にカットする」方針です。これにより、「人を集めれば集めるほど儲かる」というモデルが崩壊し、多くの施設が赤字転落のリスクに直面します。

② 「過剰診療」への監視強化

一部の事業者では、患者の容体に関わらず「売上のために一律で訪問回数を設定する」という実態がありました。これは「療養の給付の乱用(健康保険法違反)」であり、最悪の場合は詐欺罪にも問われかねない行為です。国は今回、このビジネスモデルを「違法性が高い」と認定したに等しく、今後は指定取り消しや返還請求のリスクが格段に高まります。


3.ビジネスへの影響を読み解く「3つの視点」

このニュースは対岸の火事ではありません。社労士前田の視点で見ると、以下の深い影響が見えてきます。

【視点1:経営戦略】薄利多売モデルの終焉

公的制度の「抜け穴」に依存したビジネスは、規制当局のルール変更一つで瞬時に崩壊します。 今後は「回数で稼ぐ」モデルから、減算されても選ばれる「真の高付加価値ケア」か、保険に依存しない「富裕層向け自費サービス」への転換を迫られます。

【視点2:人事・労務】看護師バブルの崩壊と人材還流

高収益を背景に、一部の事業者は相場を無視した高賃金で看護師を囲い込んでいました。このバブルが弾けることで、「給料は高いが、流れ作業の訪問を強いられる職場」から、「適正な処遇で、本来の看護ができる職場」へ人材が戻り、地域の医療人材不足が緩和される可能性があります。

【視点3:社会コスト】企業の保険料負担への影響

ホスピス型住宅が稼ぎ出した巨額の利益の原資は、大部分が「我々が払っている健康保険料と税金」です。一部の事業者が暴利を貪ることは、健康保険組合の財政を悪化させ、巡り巡って企業の「社会保険料」の上昇を招きます。今回の規制は、この悪循環を断つための防衛策でもあるのです。


4.経営者が学ぶべき教訓

今回の件は、すべてのビジネスパーソンに以下の教訓を突きつけています。

  • 制度の「バグ」に依存するな

    規制の隙間を突いた急成長は脆い。

  • PL(利益)よりパーパス(目的)を

    「儲かるから訪問する」という本末転倒なKPIは、現場のモラルを破壊し、最終的に不正を招く。

  • 社会コストへの想像力を

    自社の利益が、社会保障費を不当に食いつぶしていないか。

2026年、医療・介護業界は「量」から「質」への転換を強制されます。自社のビジネスモデルが「社会にとって正当か」を問い直す、良い契機とすべきでしょう。


坂の上社労士事務所 給与計算・就業規則・助成金・社会保険・労務相談・人事評価 (東京都千代田区神田三崎町/全国対応)

代表 特定社会保険労務士 前田力也

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