第4話「完璧な労使協定〜裁量労働制とエリート社労士〜」架空エンタメ労務ドラマ『リーガル・ハウンド 〜一億円の社労士〜』


※本記事は、特定社会保険労務士・前田が実務経験から着想を得て考案した架空のフィクションドラマの台本です。実務のリアルなエッセンス(専門業務型裁量労働制の無効要件、安衛法上の労働時間把握義務、最新の労働判例トレンドなど)を盛り込んでおりますが、エンターテインメント性を高めるため、主人公の言動などは多分に過剰な表現が含まれております。あらかじめフィクションとしてお楽しみください。
【登場人物】
神宮寺 尊(じんぐうじ たける・45):主人公。特定社会保険労務士。都内の超高級ホテルのスイートルームを事務所にしている。性格は極めて傲慢で冷酷だが、労働法に関する知識は悪魔的に深い。「労働基準法は神。そして私は、その神の代行者だ」が口癖。最低受任額は5,000万円。
星野 明かり(ほしの あかり・25):神宮寺の新人助手。正義感にあふれるが、神宮寺の無茶苦茶なやり方と暴言にいつも振り回されている。
桐生 恭介(きりゅう きょうすけ・42):大手社労士法人の代表社員。企業側の防衛に特化したエリート社労士。法律の隙間を縫う完璧なペーパーワークと、労働時間管理など実務面への深い知識を併せ持つ神宮寺の最大のライバル。「実態」を予見しながらも、あえて目をつぶる冷徹さを持つ。
黒田 剛志(くろだ たけし・35):第4話のターゲット。若くしてITメガベンチャー「ネクスト・ジェン」を率いるCEO。桐生社労士を顧問に迎えている。桐生から労働時間把握義務を伝えられていたが、目先の開発を優先し、実態管理を放置していた。
北条 麗華(ほうじょう れいか・48):美容サロン「ヴィーナス・ビューティー」社長。第3話で神宮寺に会社を救われ、経営者仲間の黒田に神宮寺を紹介する。
【第4話あらすじ】
非上場のメガITベンチャー「ネクスト・ジェン」の若き黒田CEO(35)は、従業員からの「違法残業」に関する匿名のSNSリークに頭を抱えていた。顧問社労士の桐生は「専門業務型裁量労働制の協定は完璧で、法定の健康診断も行っている」と強気だが、不安に駆られた黒田は北条社長の勧めで神宮寺にセカンドオピニオンを求める。会社に乗り込んだ神宮寺を待ち受けていたのは、法律と実務の両面で完璧な城を築く同業のライバル・桐生だった。裁量労働制の合法性を主張する桐生に対し、神宮寺は、桐生が現場の実態を予見していたにもかかわらず、自身の完璧なスキームを守るために「あえて指摘しなかった」という、エリートゆえの傲慢さが生んだ「致命的な綻び(ほころび)」を突く——。
シーン1:神宮寺の事務所(都内高級ホテル・スイートルーム)
(場面指定) クラシック音楽が優雅に流れる室内。特定社会保険労務士・神宮寺尊(45)が、エスプレッソを飲んでいる。 目の前には、先日神宮寺に救われたヴィーナス・ビューティーの北条社長(48)と、焦燥しきったネクスト・ジェンの黒田CEO(35)。
北条 「神宮寺先生、突然お連れして申し訳ありません。経営者仲間の黒田社長です。彼の会社、IT業界トップクラスの開発ベンチャーでして。ただ、労務問題で少し……セカンドオピニオンをいただきたくて」
黒田 「(ハンカチで汗を拭きながら)実は昨日、ウチの開発部の人間と思われる匿名アカウントから『毎日終電まで開発させられている。体調を崩す同僚も多いブラック企業だ』とSNSでリークがありまして……」
明かり(助手) 「あっ、それ見ました! 今、IT界隈で結構拡散されちゃってますよ!」
黒田 「ええ。ウチの主要取引先は、コンプライアンスや健康経営に極めて厳しい大手プライム企業ばかりです。もし労基署が動くような大ごとになれば、受託開発契約がすべて吹き飛んでしまう。ですが、顧問社労士の桐生先生は、『エンジニア全員に専門業務型裁量労働制を適用しており協定も受理されている。法定の健康診断も実施済みだから法的には完璧だ』とおっしゃるんです。でも、北条社長から『念のため神宮寺先生に見てもらえ』と言われまして……」
神宮寺 「(カップを置き、冷ややかに笑う)法律と実務の両面で完璧な防壁を築く。いかにも、桐生恭介らしい完璧主義だ。……黒田社長。貴様の顧問社労士は、優秀だぞ」
黒田 「えっ……? 桐生先生をご存知で……?」
神宮寺 「同業者だからな。彼の知識は悪魔的ではないが、実務家としての解像度は非常に高い。だが、……優秀であるがゆえの、致命的な穴がある」
黒田 「穴……?」
神宮寺 「(神宮寺、立ち上がりスーツのジャケットを羽織る)彼は『法律』と『義務』を完璧に理解している。だが、……『人間の欲と怠慢の実態』への解像度が致命的に低い男だ」
黒田 「人間の怠慢……?」
神宮寺 「星野君、出向くぞ。同業の『エリート様』が築いた完璧な城に、本物の『実態』という刃を突き立ててやろう」
シーン2:ネクスト・ジェン 本社 役員会議室
(場面指定) ガラス張りの洗練された会議室。黒田と神宮寺が向かい合っている。そこに、仕立ての良いスリーピーススーツを着こなす冷徹なエリート社労士・桐生恭介(42)が入室してくる。
桐生 「黒田社長、セカンドオピニオンを依頼されたと聞いて飛んできましたが……(神宮寺を見て、氷のように冷たい声で)ご無沙汰していますね、神宮寺先生。まさかあなたが来るとは。相変わらず、他人のクライアントを嗅ぎ回るのがお好きなようだ」
神宮寺 「(鼻で笑い)安心しろ。北条社長からの頼みで、貴様が作った『完璧に見える協定書』の添削に来てやっただけだ」
桐生 「完璧に見える……? 言いがかりも甚だしい。ウチの法人が作成した『専門業務型裁量労働制』の労使協定は、対象業務を『情報処理システムの設計』と明確に定義し、職務記述書も整備済みです。労働基準監督署の窓口でも一切の指摘なく受理されている。健康面についても定期健康診断を実施しており、労働時間把握義務についても黒田社長には口頭で厳しく伝えていた。法的には完璧なスキームです」
神宮寺 「(クックッと低く笑い出す)ハハハ……桐生、お前らしい完璧なペーパーワークだ。……労働時間把握義務、……伝えていた、だと?」
桐生 「ええ。安衛法上の義務です。顧問社労士として当然の助言です」
神宮寺 「(桐生を睨みつけ)そう、貴様は知っていた。……だが、エンジニアたちが実際にやっている仕事は、自らの裁量による『設計』などではない。上から降ってきた仕様書通りの単調な『コーディングとバグ修正』だ」
桐生 「(冷淡に一歩前に出る)書類上も、実態としても『完全な裁量』を与えられています。労基署が協定を受理した以上、これをひっくり返されることなどあり得ません」
神宮寺 「(桐生の言葉を鋭く遮り)桐生! お前は近年の労働判例を知らないとは言わせないぞ。特殊な労働時間制度の有効性を厳しく検討し、実態が伴わなければ容赦なく無効とする裁判例がいくつも出ている。(タブレットを黒田のデスクに叩きつける)これを見ろ。社内のプロジェクト管理ツール『Jira(ジラ)』とチャットツールの全ログだ」
黒田 「なぜ開発のログが!」
神宮寺 「人事部長に権限を付与させて抽出した。ログにはこうある。『この機能は、必ずこの指定したライブラリを使って実装しろ』『明日の朝10時までに、このバグ50個を修正しろ』。……タスクのアサインから実装手順、納期まで、プロジェクトマネージャーからの異常なまでのマイクロマネジメントだ!! これほどの干渉があって、何が裁量だ!」
桐生 「(わずかに眉をひそめる)……しかし、それは現場の運用の問題だ。私は法的なスキームを提供し、労働時間管理の義務も伝えた。日々の現場の運用まで強制し、監視するのは社労士の業務範囲外だ」
神宮寺 「(桐生の言葉を鋭く遮り)甘いぞ! 現場の手取り足取りまで監視しろとは言わん。だがな桐生……。安衛法第66条の8の2。労働時間の管理は使用者の絶対的な義務だ。お前ほどの実務家が、ITベンチャーの過酷な開発現場で、本当に『労働時間管理が完璧に行われている』と信じていたのか?」
桐生 「……」
神宮寺 「(桐生に冷酷に一歩近づく)いや、違うな。お前は『予見』していたはずだ。若き黒田社長が目先の開発に追われ、労働時間を記録していないであろうことを。……だが、お前はあえて『指摘』しなかった!」
桐生 「(顔色が変わり、一瞬言葉を失う)……」
神宮寺 「深く踏み込めば、お前が築いた『法的に完璧な裁量労働制』という城が根底から崩れるからだ。だからお前は『社長には義務を伝えた』という事実だけをアリバイにし、あえて実態から目を背けた! 黒田社長の『現場はうまく回っています』という言葉を隠れ蓑にしてな!」
桐生 「……それは、社労士として越権行為になる。私は法的なスキームを提供し、リスクを伝えた。それ以上は経営者の判断だ」
神宮寺 「それがお前の限界だ、桐生!! 人間の欲と怠慢……お前は見て見ぬふりをした。そのお前の『作為的な怠慢』こそが、今回SNSリークをきっかけに最悪の形で露呈した、完璧な城を崩壊させる『致命的な綻び』だ!」
黒田 「(顔面蒼白になり)う……あ……桐生先生には『ちゃんとやってる』と言っていた。でも実際は、開発納期が厳しくて……」
神宮寺 「(冷酷に黒田を見下ろす)チェックメイトだ。業務の手順も時間の使い方もガチガチに管理され、健康管理義務も放置されている。実態が伴っていない以上、貴様らが結んだ裁量労働制は、労基署の臨検(実態調査)が入れば最新の判例基準に照らし合わされ、一発で『完全無効』とされる。制度が無効になれば、過去3年分の未払い残業代ざっと4億円が火を噴くぞ」
桐生 「……(冷たく黒田の手を払い除け)私は『法的に完璧なスキーム』と『安衛法の義務』を提供しました。しかし、あなたが自ら現場で運用ルールを破り、健康管理義務を怠った。もはや私のカバー範囲を逸脱しています。……黒田社長。行政処分による企業名公表と、それに伴う主要取引先からの契約一斉解除……その絶望的なリスクを私が共に負う義理はありません。顧問契約は、本日をもって解除させていただきます」
黒田 「そ、そんな……見捨てるのか!?」
桐生 「(神宮寺に向き直り)……今回はあなたに軍配を上げましょう、神宮寺先生。法律の防壁を実態データと安衛法のロジックで破壊するとは。しかし、次はこうはいかない」
神宮寺 「負け犬の遠吠えは他所でやれ。同業者として恥ずかしい男だ」
(桐生、静かに一礼して会議室を出ていく)
黒田 「(床にへたり込み)お、終わりだ……契約を切られたら、会社は倒産だ……!」
神宮寺 「(ソファに深く腰掛け、冷酷に見下ろす)……労基署の介入と取引停止を防ぎ、会社を適法かつ健康的に再生させる『特命プロジェクト』。私が請け負ってやろう」
黒田 「さ、再生……!? できるのか!?」
神宮寺 「今日この瞬間から、実態のない裁量労働制を直ちに廃止し、過去の未払い残業代4億円を全額清算しろ。そして、私が設計した次世代システムを導入する」
黒田 「システム……?」
神宮寺 「勤怠打刻から給与計算、社会保険までをクラウド上でAPI連携し、労働時間を客観的に把握する『キャッシュ・フォワード』だ。これに『AI コワーカー』を完全連携させ、エンジニアの実労働時間を1分単位で適正に管理する。違法な長時間労働(ドーピング)に依存した開発体制は終わりだ。さらに、産業医と連携した面接指導システムも組み込む。労働者の健康を守れない企業に明日はない」
黒田 「そ、そんな……でも4億もの負債を今出したら、資金繰りが……」
神宮寺 「そこは大手取引先と交渉するんだよ。『セカンドオピニオンにより過去の労務リスクを判例基準に照らして完全清算し、AIを活用した次世代のクリーンな開発体制へ移行した。ついては、従業員の健康と安全な開発環境維持のため、今後のシステム保守単価を20%引き上げる』とな。コンプライアンスに敏感な大手企業なら、炎上リスクのあるブラック企業より、適法で透明性の高いパートナーに適正価格を払う。単価交渉ですぐにペイできる」
黒田 「(希望の光を見出し、拝むように)そ、それなら……会社は生き残れる……!」
神宮寺 「この最悪の搾取スキームを解体し、会社を救うコンサルティングおよびシステム導入費用は……(ゆっくりと人差し指を立てる)3億円だ。取引停止で失う数十億円の売上に比べれば、タダみたいなものだろう? 四の五の言わず、今すぐここにサインしろ」
シーン3:数日後、神宮寺の事務所
(場面指定) ニュース番組の音声が流れている。
『……大手IT企業数社は本日、下請けベンダーの労働環境改善に向けた取引ガイドラインの改定を発表しました。業界内では、AIシステムを導入して労働時間の適正把握と健康管理を徹底したネクスト・ジェン社などの取り組みが、高く評価されているとのことです……』
明かり 「(興奮気味に)先生! ネクスト・ジェン社、なんとか持ち直しましたね! 取引先からの単価アップも無事に通って、例のSNSリークのアカウントも『未払い残業代が振り込まれた! 会社が超ホワイト化した!』って絶賛してましたよ!」
神宮寺 「(ブラジリアン柔術のラッシュガード姿で、首のストレッチをしながら)当然だ。経営者の『自由な裁量』だの『次世代の働き方』だのといった聞こえの良い言葉は、責任を逃れるためのただの詭弁だ。企業を正しく成長させ、労働者を守るのは、冷徹な『法律(判例)』と、健康を可視化する『システム』だけだ」
明かり 「それにしても、あの桐生先生……神宮寺先生と対等な実力を持つ設定だったのに、今回は先生の方が上でしたね」
神宮寺 「(立ち上がり、窓の外のビル群を見下ろして不敵に微笑む)……あいつは法律という名の『完璧な城』を紙の上に築く秀才だ。安衛法の義務も知っていた。だが、あいつは自らの城が崩れるのを恐れ、現場の実態を予見しながらも、あえて目をつぶった」
明かり 「作為的な怠慢……ですね」
神宮寺 「人間の欲と綻びがある限り、私が最新の司法と安衛法のロジックでその城を内側から崩壊させる」
(神宮寺、そう言いながら、なぜか『特濃バナナミルク』に極太のストローを差して、ズズズッと音を立ててすする)
明かり 「……先生。さっきから思ってたんですけど、その飲み物、悪魔的な威厳が台無しですよ?」
神宮寺 「(真顔で)うるさい。高度なリーガル・ロジックを組み立てた後の脳には、良質な糖分が必須なんだ(ズズズッ)」
明かり 「(呆れてため息をつく)……はぁ、やっぱり先生は変人ですね。特濃の」
神宮寺 「訂正しろ。私は神の代行者だ。(バナナミルクを飲み干す)」
次回リーガル・ハウンド予告
第5話「神の領域と年金機構〜数億円の加入トラップ〜」
次回リーガル・ハウンドもお楽しみに!
執筆 特定社会保険労務士 前田力也(個人)
※本記事(ドラマ台本および法的見解)の著作権は、特定社会保険労務士 前田力也(個人)に帰属します。無断での転載、複製、改変、およびSNS等への無断引用を固く禁じます。
【本作のタイトル『リーガル・ハウンド』の趣旨について】
英語圏において、法廷で大局的な論争を繰り広げるエリート弁護士は、しばしば「リーガル・イーグル(法律の鷲)」と称されます。空から事案を俯瞰し、法理という翼で戦う彼らに対し、本作の主人公である社会保険労務士は「リーガル・ハウンド(法律の猟犬)」として位置づけました。
社労士の主戦場は、華やかな法廷ではなく泥臭い「現場」です。
巧妙に偽装された労働実態、意図的に隠蔽された社会保険逃れのスキーム、あるいは偽装請負のような不適切な契約関係など、表面的な書類だけでは見えない企業の闇に対し、彼らは地を這うように事実を嗅ぎ回り、証拠をかき集めます。
特権的なエリートとして上段から裁くのではなく、労働現場の最前線に密着し、執念深くコンプライアンスの矛盾を追い詰めていく。本作は、弁護士(鷲)と社労士(猟犬)という明確な役割の棲み分けのもと、実態調査と論理の力で労働社会の不条理に立ち向かう「猟犬」のリアルな戦いを描くことを企図しています。
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メディア取材実績:週刊文春((株)文藝春秋)(【証拠ビデオ入手】東証上場企業・ライトアップが指南する厚労省助成金“不正受給”「おいしすぎる」「数千万円が自由に」、【全社員の4分の1近くがいなくなり…】「ウルトラマン」シリーズの円谷プロで退職者が続出していた、《50万円の賠償金が…》開業25周年のUSJに違法契約の疑い【契約書入手】、《バイオハザードのゾンビ役が告発》USJの出演者は最低賃金以下で働いていた!《報酬は交通費込みで1日1.3万円》)、TOKYO MX(堀潤 Live Junction」「医療保険制度改革で…負担増える逆転現象も」)、東京新聞『国保逃れ指摘「すでに把握しています」と言いつつ野放し 国や年金機構「脱法行為」是正がニブ過ぎるのは…』『維新だけではなかった「国保逃れ」 司法書士グループ企業でも「節約術」疑惑 厚労省「看過できない状況」』、『国保逃れ」に新たな手口 国の対策をすり抜ける「従業員型」とは…業者に接触した特定社労士が読み解く』、週刊SPA!『稼ぎながら健康になれ 50代からのガテン系仕事』、他



