【令和8年4月改正】食事代の非課税枠が「倍増」!月額7,500円への引上げがもたらす福利厚生革命と実務の要諦
- 坂の上社労士事務所

- 3月2日
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日本の所得税実務において、食事補助の非課税枠が3,500円に設定されたのは昭和の時代にまで遡ります。それから30数年、デフレが続いた日本ではこの金額でも「それなり」の補助が可能でしたが、近年の急激な物価高騰(コストプッシュ・インフレ)により、もはや1食あたりの補助額は「雀の涙」となっていました。
令和7年12月の閣議決定を経て、ようやくこの「時代遅れの壁」が動きます。今回の改正は、単なる事務的な調整ではありません。政府が掲げる「構造的な賃上げ」と「労働者の実質所得向上」を強力にバックアップするための、極めて戦略的な税制改正です。
1.制度改正の深層 ― 「物価高騰」と「政府の狙い」を解読する
今回の改正内容を解剖すると、そこには「実質賃金の底上げ」という政府の強い意志が見て取れます。
1. 改正の核心:何がどう変わるのか?
役員や従業員に食事を現物支給(または食事券等の支給)をする際、所得税が非課税となるための要件は以下の2点です。
要件①:従業員が食事価額の50%以上を負担すること
要件②:会社の補助額(食事価額 - 従業員負担額)が月額一定以下であること
今回の改正で、この要件②の限度額が「3,500円」から「7,500円」へ引き上げられます。
さらに、深夜勤務者への特例も拡充されます。現物での食事提供が困難な場合に支給される「夜食代(現金)」の非課税枠も、1回300円から650円へと倍増します。これは、24時間体制で社会を支える製造現場や物流、医療現場などのエッセンシャルワーカーへの配慮が色濃く反映されています。
2. なぜ今、この大幅な引上げが必要だったのか
政府の狙いは主に3点に集約されます。
「年収の壁」と「実質賃金」へのアプローチ:現金給与の引き上げは社会保険料の負担増を伴いますが、非課税の現物給付であれば、従業員の社会保険料負担(一部例外あり)や所得税を抑えつつ、生活の質を直接的に向上させることができます。
インフレ手当の恒久化:一時的な「インフレ手当」ではなく、日々の食費を会社が支援する仕組みを整えやすくすることで、家計の購買力を維持させ、デフレ脱却を確実なものにしたいという意図があります。
健康経営の促進:会社が食事をサポートすることは、従業員の栄養管理や健康維持に直結します。これは将来的な社会保障費の抑制にもつながる、国を挙げた中長期的な投資と言えます。
2.経営・採用戦略へのインパクト ― 「実質手取り」を最大化する武器
社労士として経営者の方々に最もお伝えしたいのは、この改正が「最強の採用・定着ツール」になり得るという点です。
1. 給与アップよりも喜ばれる「月額7,500円」の価値
例えば、基本給を4,000円アップさせる場合を考えてみましょう。額面で4,000円増えても、そこから社会保険料(約15%)や所得税・住民税(約10〜20%)が引かれるため、従業員の手元に残るのは3,000円弱です。一方、会社側も社会保険料の会社負担分(約15%)が発生し、コストは4,600円程度になります。
しかし、この「食事補助枠」を活用すれば、「会社負担7,500円=従業員のメリット7,500円」という、極めて効率的な還元が可能になります。
2. 求人票で差別化できる「ランチ代実質無料」の訴求力
現在の採用市場、特にZ世代や子育て世代の求職者は「手取り額」と「福利厚生の質」に敏感です。「月給25万円」と記載するよりも、「月給25万円 + ランチ補助あり(月最大15,000円の食事を半額負担)」という記載は、求職者の目には「家計を直接助けてくれる会社」として非常に魅力的に映ります。
3. 社会保険料負担の抑制効果
所得税の非課税枠が広がることの隠れたメリットは、会社負担の社会保険料への影響です。基本給のベースアップは、残業代の単価上昇や社会保険料の上昇を招きますが、福利厚生としての食事補助は、設計次第でこれらの「副次的なコスト増」を抑えながら、従業員満足度を高めることができます。
3.実務上の注意点と「落とし穴」 ― 社労士が教える運用の極意
制度が拡充される一方で、実務上の「判定ルール」を誤ると、税務調査での指摘や、社会保険上のトラブルに発展するリスクがあります。
1. 「50%負担ルール」の絶対遵守
非課税枠が7,500円に広がっても、「従業員が半分以上を負担する」というルールは維持されます。
OK例:1食1,000円の弁当。従業員負担500円、会社補助500円。月20日で10,000円補助。→ 7,500円を超えた2,500円分が課税対象。
NG例:1食1,000円の弁当。従業員負担200円、会社補助800円。→会社補助が50%を超えているため、800円全額が給与として課税対象。
ここを間違えると、非課税メリットがすべて消失するため、注意が必要です。
2. 「所得税」と「社会保険」の取り扱いの違い
ここが実務担当者が最も混乱するポイントです。
所得税:今回の改正で月額7,500円まで「非課税」。
社会保険:現物給付の食事は「報酬」に含まれます。ただし、各都道府県ごとに「現物給付の価額」が定められており、実際にかかった費用ではなく、その標準価額(例:1食○円)で計算します。
※従業員がこの標準価額以上の金額を支払っている場合、社会保険上は「報酬」に含めないというルールもあります。このあたりの精緻な設計は、必ず社労士にご相談ください。
3. 「現金支給」は原則として給与課税
「食事手当」という名目で、領収書との引き換えもなく現金を支給した場合は、今回の改正の対象外です。全額が給与として課税されます。改正のメリットを享受するには、以下のいずれかの形態をとる必要があります。
自社食堂での提供
お弁当の現物配布
食事券(ICカードや専用アプリ等)の支給
4. 規程の整備と証跡管理
令和8年4月の施行に合わせて、以下の準備が必要です。
就業規則・福利厚生規程の改定:補助額の上限を3,500円から7,500円へ変更。
食事提供台帳の整備:誰が何回食事をとり、いくら徴収したかの記録。
給与計算システムの設定変更:非課税枠を超えた場合の課税処理ロジックの確認。
令和8年4月に向けて企業がとるべきアクション
この改正は、企業にとって「攻め」の姿勢に転じる絶好の機会です。施行までにはまだ時間がありますが、優秀な人材の流出を防ぎ、新規採用を加速させたい企業は、すでに以下の検討を始めています。
食事補助サービスの導入検討:最近では、コンビニや飲食店で使える専用のICカード型食事補助サービスが普及しています。これらを導入することで、自社食堂がない中小企業でも簡単に非課税枠をフル活用できます。
賃金体系の見直し:単なるベースアップだけでなく、この非課税枠を組み合わせた「ハイブリッド型賃上げ」のシミュレーション。
健康経営優良法人の認定取得:食生活の支援を実績として、健康経営の取り組みを外部にアピールする。
今回の「食事代非課税限度額の引上げ」は、一見すると地味な改正かもしれません。しかし、月額7,500円、年間にして90,000円もの「非課税枠」は、従業員の家計にとっても、会社の採用ブランディングにとっても、計り知れない価値を持ちます。
「たかがランチ代」と侮るなかれ。この小さな変化をきっかけに、従業員が「この会社は自分たちの生活を大切にしてくれている」と実感できる仕組みを作ること。それこそが、これからの人手不足時代を生き抜く企業の智慧(ちえ)となります。
制度設計や規程の改定、社会保険料への影響など、実務面での不安がある際は、ぜひ私共プロフェッショナルにご相談ください。貴社の経営理念に寄り添った、最適な「食事補助デザイン」をご提案いたします。
*食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて(国税庁)
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