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【Q&A公開】令和9年4月施行「育成就労制度」の全貌と実務対応〜技能実習制度からの歴史的転換と企業が直面する3つの課題〜

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 12 時間前
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育成就労

2026年(令和8年)5月28日、出入国在留管理庁は来る「育成就労制度」の施行に向け、実務的かつ詳細な運用指針となる「育成就労制度Q&A」を更新・公表いたしました。令和9年(2027年)4月1日の施行まで1年を切る中、受入れ機関となる各企業におかれましては、本制度の全体像を正確に把握し、抜本的な人事・労務戦略の転換を図るための「待ったなし」の段階に突入しています。

我が国は長らく「技能実習制度」を通じて、開発途上国への国際貢献・技能移転を大義名分として外国人材を受け入れてきました。しかし、実態として国内の深刻な労働力不足を補う手段として機能していたことは周知の事実であり、建前と本音の乖離は、国内外から様々な問題提起を受ける要因となっていました。今回創設される「育成就労制度」は、単なる名称の変更や小手先の手直しではありません。正面から「人材確保と育成」を制度目的に掲げ、外国人が日本で中長期的に職業経験を積むための明確な道筋(特定技能への途切れることのない円滑な移行)を示す、我が国の外国人雇用における歴史的な構造転換と言えます。

本稿では、特定社会保険労務士としての専門的知見と、労働法制・人事評価・労務管理の電子化の観点を融合させ、報道関係者の皆様や企業の経営者・人事担当者に向けて、政府の真の狙いや今後の動向、そして実務上の対応策について、3つの核心的視点から深く解読してまいります。なお、新制度における「育成就労計画の認定に係る施行日前申請」は、施行に先立つ令和8年(2026年)9月1日より受付が開始されます。制度への移行を滞りなく行うためにも、本質的な理解と早期の準備が不可欠です。


1.制度創設の背景と政府の「真の狙い」

①技能実習制度の限界と国際社会からの厳しい視線

育成就労制度の理解を深めるためには、現行の技能実習制度が抱えていた構造的課題を直視する必要があります。技能実習制度は、国際貢献を目的とする「研修」を起源として発展してきましたが、「原則として転籍(転職)が認められない」という強い制約が、職場での嫌がらせ(ハラスメント)や不当な労働条件、さらには外国人労働者の失踪といった社会問題の温床となっていました。国際社会からも「強制労働に該当するおそれがある」との指摘を受けるなど、人権保護の観点から制度の抜本的見直しは急務とされていました。

政府の「真の狙い」の第一は、こうした国際的な批判を払拭し、人権に配慮した透明性の高い制度を構築することによって、世界的な人材獲得競争において「日本が選ばれる国」になることです。アジア諸国においても経済成長に伴い労働力不足が顕在化しており、もはや「日本に来て当然」という時代は終焉を迎えました。労働環境の適正化は、我が国産業の持続可能性を担保するための最低条件なのです。

②「人材確保」の正面化と特定技能への円滑な移行

第二の狙いは、「人材育成」と「人材確保」を制度目的として明確に位置づけ、既存の「特定技能制度」と連動させた連続性のある成長の道筋を確立することです。これまでは技能実習と特定技能の制度趣旨が異なっており、外国人の技能習熟において断絶が生じやすい構造でした。

新制度では、原則3年間の「育成就労」期間を通じて、計画的かつ段階的に技能および日本語能力を育成します。その到達目標は、「特定技能1号」の水準に引き上げることです。すなわち、育成就労は特定技能へ至るための「確実な育成段階」として位置づけられ、外国人は日本で就労しながら技能を高め、将来的には特定技能2号(家族帯同や永住の道も開かれる)へと進むという、明確な将来像を描くことが可能になります。これは企業にとっても、長期的な視点で中核人材を育成できる大きな利点となります。

③多文化共生社会への国としての決意

本制度の導入は、日本が多文化共生社会へと本格的に舵を切るための試金石でもあります。労働力としての受入れに留まらず、地域社会の構成員として外国人を受け入れ、共に成長していくという展望が、Q&Aの端々から読み取れます。特に日本語教育の強化(入国前のA1水準、特定技能移行時のA2〜N4水準等の要求)は、単なる業務上の意思疎通だけでなく、日本社会における生活者としての自立を促す重要な施策です。


2.制度の核心・Q&Aから読み解く実務上の最重要事項

今回のQ&A更新によって、企業実務に直結する数々の重要な規定が明確化されました。その中でも、経営や人事戦略に最も大きな影響を与えるのが「本人意向の転籍」の解禁と、それを取り巻く厳格な要件です。

①「本人意向の転籍」の解禁と流動化の波

技能実習制度における最大の制約であった「転籍制限」が、新制度では一定の条件のもとで緩和されます。従来の「やむを得ない事情(企業の倒産や著しい法令違反等)」に基づく転籍に加え、新たに「本人意向による転籍」が認められることになります。これは労働市場に一定の流動性をもたらす画期的な変更です。

ただし、無条件に転職ができるわけではありません。Q&Aによれば、転籍には以下の要件を満たす必要があります。

  • 転籍制限期間の経過

    分野ごとに「1年以上2年以下」の転籍制限期間が設定されます(例:介護分野等は2年、ビルクリーニング分野等は1年の方針)。ただし、制限期間が1年を超える分野であっても、受入れ機関(育成就労実施者)が自主的に「1年」に短縮することを計画に定めることが可能です。

  • 技能および日本語能力

    転籍時点で、基礎的な技能検定等の合格や、一定水準の日本語能力を有していることが求められます。

  • 同一業務区分内での転籍

    原則として、同じ業務区分(職種)の中での転籍に限定されます。

②「育成費用」を保護する初期費用の補填に関する取り決め

「転籍が自由化されれば、せっかく時間と費用をかけて育成した人材が、待遇の良い他社に引き抜かれてしまうのではないか」という企業の強い懸念に対し、本制度は非常に実務的な解決策を用意しています。それが「初期費用の補填(按分負担)の仕組み」です。

外国人が転籍を行う場合、新たな受入れ機関は、転籍元の機関が負担した初期費用(入国前の日本語講習費用、渡航費、紹介手数料等)のうち、就労期間に応じて一定割合を補填する義務を負います。例えば、就労1年半未満での転籍の場合、転籍先は初期費用の大部分を転籍元に支払う仕組みが検討されています。これにより、転籍元の育成費用が一定程度保護されると同時に、安易な引き抜きを牽制する効果が期待されます。

③民間職業紹介事業者の関与禁止と監理支援機関の厳格化

本人意向の転籍を支援する際、利益目的の民間職業紹介事業者(人材紹介会社)が介入することは固く禁じられています。悪質な仲介業者の介在を排除し、不当な手数料徴収や強制労働を防ぐためです。転籍の調整は、原則として「監理支援機関(従来の監理団体)」やハローワーク等の公的機関を通じて行われます。

また、従来の「監理団体」は「監理支援機関」へと名称と役割を変え、その許可基準は大幅に厳格化されます。外部監査人の設置が義務付けられるほか、関係機関との独立性が強く求められ、真に中立的な立場で外国人の保護と支援を行う体制が構築されます。

【特筆すべき社労士の視点】待遇向上措置の義務化

Q&Aでは、転籍制限期間を1年超とする場合、受入れ機関に対して「育成就労外国人の昇給その他の待遇向上を図ること」が義務付けられると明記されています。これは単に「転籍を防ぐために縛り付ける」のではなく、「定着してもらうために適正な処遇改善を行え」という政府からの強い意思表示です。後述する人事評価制度の抜本的見直しが必須となる所以です。


3.企業が直面する課題解決と今後の見通し

制度の全貌が明らかになるにつれ、受入れ機関が直面する課題も浮き彫りになっています。令和8年9月の事前申請開始、そして令和9年4月の施行に向けて、企業はどのような準備を進めるべきでしょうか。

①「囲い込み」から「選ばれる企業」への経営意識の転換

転籍が制度上可能となる以上、「辞められないから働く」という前提は完全に崩壊します。企業は、自社が外国人労働者にとって「働き続けたい魅力的な職場」であるかどうかを真摯に問い直さなければなりません。私自身、13年以上にわたり複数の事業会社で経営に携わってきた経験から実感することですが、人材の定着に最も寄与するのは「努力が正当に報われる納得感のある評価」と「透明性の高い労務管理」です。国籍に関わらず、能力向上や日本語習得の努力が昇給や職位の向上に直結する人事制度を構築することが、他社への転籍を防ぐ最大の防御策となります。

②就業規則と賃金規程の抜本的見直し

実務対応の第一歩は、就業規則および賃金規程の改定です。育成就労制度では、日本人と同等以上の報酬を確保することはもちろん、前述の「待遇向上措置」を制度化する必要があります。「日本語能力試験(JLPT)N4合格で月額〇千円の資格手当を支給する」「技能検定基礎級合格により等級を上げ、基本給を〇%引き上げる」といった明確な職務等級や賃金表を整備し、入国時に多言語で提示することが求められます。曖昧な評価基準は労使間の揉め事の元となるため、客観的かつ定量的な評価制度の導入が急務です。

③最新技術を活用した法令遵守の徹底

多様な人材が働く環境では、労務管理の複雑化と危険性が増大します。言語の壁や文化の違いにより、残業時間の認識の齟齬(そご)や給与控除に関する揉め事が発生しやすくなります。こうした課題を解決するためには、勤怠・給与計算ソフトなどの業務電子化の推進が不可欠です。従業員の携帯端末を用いた多言語対応の打刻機能による労働時間の正確な把握、複雑な社会保険料や税金の自動計算、そして給与明細の多言語配信により、労務管理を不透明化させないことが重要です。正確かつ透明性の高い給与計算と労務管理は、企業の法令遵守を助けるだけでなく、外国人材からの強い帰属意識と信頼関係を獲得する強固な基盤となります。

④令和8年9月1日の事前申請に向けた実務工程表

「育成就労計画」の認定申請は、令和8年(2026年)9月1日から受付が開始されます。これに遅滞なく対応するためには、以下のような工程表に沿って準備を進める必要があります。

  • 【現在 〜 令和8年7月】現状分析と制度設計

    既存の就業規則・人事評価制度の洗い出し。新制度の要件に適合しているかの点検(受入れ人数枠、優良要件等)。新たな賃金表の設計および就業規則の改定、各種規程の多言語化対応。人事労務ソフトの導入と試験運用。

  • 【令和8年8月】計画策定

    「育成就労計画」の具体的な策定。監理支援機関との事前協議および契約締結。

  • 【令和8年9月1日以降】申請手続

    育成就労計画の認定に係る施行日前申請の実施。


育成就労制度への移行は、日本企業に対して「外国人材を労働力の調整弁や安価な労働力として扱う時代からの完全な脱却」を迫るものです。制度が要求する水準は決して低くありません。しかし、これを単なる「法改正による実務負担」と捉えるか、「組織を国際基準へと刷新し、強靭な企業体質を構築する好機」と捉えるかで、数年後の企業の競争力は決定的に分かれるでしょう。

専門家の知見を最大限に活用し、最新の技術を駆使しながら、国籍を問わず全ての従業員が能力を最大限に発揮できる「多様性を活かす経営」を実現することが、深刻な人手不足時代を生き抜く唯一の道であると確信しています。新制度の動向を引き続き注視し、万全の準備を整えていただきたいと思います。


*育成就労制度Q&A(出入国在留管理庁)


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坂の上社労士事務所 / 給与計算・就業規則・助成金・社会保険・労務相談・人事評価(東京都千代田区神田三崎町/全国対応)

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