【人事・労務の危機管理の最前線】令和8年(2026年)最新版:派遣労働者の「同一労働同一賃金」最新指針と実務対応のすべて~厚労省の新Q&Aが示す派遣先・派遣元の新たな責任と日本型雇用の行方~
- 坂の上社労士事務所

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令和8年(2026年)7月1日、厚生労働省より派遣労働者の同一労働同一賃金に関する極めて重要な行政資料の更新が行われました。「待遇に関する情報提供の例」「比較対象労働者の情報提供の例」の改定、ならびに「適正な派遣就業の確保等に関するQ&A」(6月30日公表)、そして令和8年度版の派遣元・派遣先連携の啓発資料の公開です。
2020年(大企業)、2021年(中小企業)に施行されたパートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法の改正による「同一労働同一賃金」制度は、導入から数年が経過し、企業現場における実務対応は一定の定着を見せているように見えます。しかし、その実態は「書面上の辻褄合わせ」に留まっている事例も少なくなく、派遣先と派遣元の間の情報連携の不足や、待遇決定の過程における不透明さが依然として労働市場の大きな課題となっています。
本記事では、特定社会保険労務士としての専門的知見から、今回の厚生労働省の公表資料を徹底的に分析・解読し、法改正の歴史的経緯、政府の真の狙い、そして企業が直面する実務上の課題と今後の見通しについて、高度かつ網羅的に解説いたします。
【3つの視点で読み解く!今回の厚労省公表資料の要約】
今回の改定が意味するものを、経営者や人事担当者が直感的に理解できるよう、まずは「3つの視点」で要約します。
①【法務・法令遵守の視点】「比較対象労働者」の選定・情報提供の厳格化と明確化
派遣先の正社員等と比較して待遇を決定する「派遣先均等・均衡方式」において、最も実務上の障壁が高い「比較対象労働者(誰と比べるのか)の選定」と「その待遇情報の提供」について、4つの類型が詳細に示されました。これにより、派遣先企業は「自社の賃金情報を見せたくない」「誰を比較対象にしていいかわからない」という言い訳が一切通用しなくなり、透明性の高い情報開示が法的に強く求められる新たな局面に入りました。
②【現場実務の視点】派遣先と派遣元の「協働責任」の徹底(Q&Aによる解釈の明確化)
新たに公表された「適正な派遣就業の確保等に関するQ&A」や啓発資料の更新は、現場で発生しがちな「手当の支給要件の解釈」「福利厚生施設の利用」「賞与の算定基準」といった、判断が分かれる曖昧な領域に対して、国が明確な回答を示したものです。派遣元が単独で努力するのではなく、派遣先企業が主体的に情報を提供し、両者が連携して初めて適法な派遣受け入れが成立するという「協働責任」が実務水準で徹底されることになります。
③【国家経済・政府戦略の視点】「構造的賃上げ」の波を派遣労働者へ波及させるための強力な布石
政府は現在、物価高に負けない「構造的な賃上げ」を最重要政策に掲げています。しかし、正社員の基本給引き上げが進む一方で、非正規雇用(特に派遣労働者)への波及が遅れれば、所得格差はさらに拡大します。今回の詳細な指針や書式の公表は、単なる手続きの案内ではなく、「曖昧な比較による待遇据え置きを許さず、正社員の賃上げを確実に派遣労働者の賃金上昇に連動させる」という厚労省の強い意志と労働監督強化への布石と読むことができます。
1.法制化の歴史と経緯:なぜ今、派遣労働者の「同一労働同一賃金」なのか
今回の資料更新の意図を深く理解するためには、労働者派遣法における「同一労働同一賃金」の歴史的背景と仕組みの根幹を抑える必要があります。
1.「同一労働同一賃金」導入の歴史的な大転換
かつての日本における労働者派遣は、企業にとって「人件費の調整弁」としての側面が強く、同じ仕事をしていても、正社員と派遣労働者の間には基本給、賞与、手当、退職金に至るまで理不尽な格差が存在していました。これを打破し、雇用形態にかかわらない公正な待遇を確保するために導入されたのが、2020年の法改正(同一労働同一賃金)です。
労働者派遣法においては、派遣労働者の待遇を決定するために、派遣元に対して以下の「いずれか」の方式を採用することを義務付けました。
A:派遣先均等・均衡方式
派遣先で同じ業務を行っている通常の労働者(正社員等)の待遇と、均等(差別的取扱いの禁止)または均衡(不合理な待遇差の禁止)を図る方式。
B:労使協定方式
厚生労働省が毎年定める「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準(一般賃金)」と同等以上の賃金を支払う旨を、派遣元における労使協定で定める方式。
2.現状の課題:労使協定方式への偏重と、派遣先方式の運用難
施行後、実務現場ではどうなったでしょうか。圧倒的多数(約9割)の派遣会社が「B:労使協定方式」を選択しました。なぜなら、「A:派遣先均等・均衡方式」を採用する場合、派遣先企業が自社の正社員の精緻な賃金表や評価制度、手当の支給基準を派遣会社に開示しなければならず、機密保持の観点や手続きの煩雑さから、派遣先がこれを嫌がったためです。
しかし、「労使協定方式」であれば万事解決というわけではありません。厚労省が定める「一般賃金」の額面を満たしていても、通勤手当や福利厚生、その他の手当において、実質的な不均衡が残存している事例が散見されました。また、専門性の高い業務においては、派遣先の正社員の給与水準が極めて高いにもかかわらず、労使協定方式の「一般賃金(全国平均等を基準とするもの)」が適用されることで、かえって派遣労働者の賃金が低く抑えられるという逆転現象も問題視されてきました。
今回の令和8年の資料更新は、こうした「制度はできたが実態が伴っていない」「情報提供の手続きが形骸化している」という長年の課題に対し、国が抜本的な対策に乗り出したものと言えます。
2.令和8年6月・7月最新公表資料の徹底解剖と内容の深掘り
それでは、今回公表された各資料の中身について、専門家の視点から解読していきます。
1.「比較対象労働者の情報提供の例」の4つの手法が示すもの
派遣先均等・均衡方式において、派遣先は派遣元に対し「誰と比較して待遇を決めるべきか」という情報を提供しなければなりません(労働者派遣法第26条第7項)。しかし、「誰を比較対象とすべきか迷う」「個人が特定されて賃金が露見するのが嫌だ」という派遣先からの声が多くありました。今回、厚労省は以下の4つの手法をより具体化・明確化して示しました。
①「特定の個人」を比較対象とする場合
最も厳密な方法です。派遣労働者と職務内容や配置の変更範囲が同じ特定の正社員を選出し、その人の基本給や手当の情報を提示します。今回の資料では、個人の特定を避けつつも、職務内容、責任の程度、勤続年数、評価の仕組みなどをいかに具体的に書面化するかが示されています。
②「複数人」を比較対象とする場合
一人の特定の社員を抽出するのが難しい場合、同じ部署で似た業務を行う複数人をまとめ、その平均的な待遇や支給基準を提示する手法です。実務上、特定の個人の賃金情報が漏れる危険性を軽減できるため、派遣先企業にとって採用しやすい現実的な方針です。
③「標準的な待遇決定の枠組み」を示す場合
特定の個人ではなく、派遣先の「職能資格制度」や「等級制度」において、派遣労働者が担う業務が「第○等級に該当する」と当てはめ、その等級の標準的な賃金体系(標準賃金、昇給の幅、賞与の支給月数など)を提供する方式です。人事制度がしっかりと構築されている大企業において、最も親和性が高い方法です。
④「様式例」の充実
これらの情報提供を抜け漏れなく行うための雛形が提供されました。基本給だけでなく、賞与(支給基準・算定方法)、通勤手当、家族手当、住宅手当、さらには退職金に至るまで、細かく確認欄と記述欄が設けられており、「なんとなくの口頭説明」を許さない厳格な作りになっています。
☛専門家の眼
これら4つの手法が明示されたことで、派遣先企業は「情報提供のやり方がわからない」という抗弁ができなくなりました。自社の人事制度の成熟度に合わせて最適な手法を選び、適法に情報提供を行う法的義務がこれまで以上に強く求められます。
2.「適正な派遣就業の確保等に関するQ&A」の衝撃
実務担当者が最も悩むのは、法律の条文ではなく「現場の異例な事象にどう対応するか」です。今回公表されたQ&Aは、日々の労務管理で頻発する摩擦に対する行政の回答群です。
各種手当の取り扱いに関する明確化
例えば「在宅勤務手当」や「物価高騰対応手当(特別手当)」など、近年新設された手当について。正社員には支給しているが派遣労働者には支給していない場合、それが「業務の遂行に必要な費用の補填」であれば、派遣先均等・均衡方式はもちろん、労使協定方式であっても実費弁償的に支給する(あるいは派遣元から支給できるよう派遣料金に上乗せする)ことが強く示唆される内容が含まれています。
福利厚生施設の利用
食堂、休憩室、更衣室などの利用について、派遣先は自社の労働者と同一の利用を認めなければなりません。「空間が足りない」「正社員用の組合費で運営している」といった理由で一律に派遣労働者を排除することは不適切であるという姿勢が、改めてQ&Aを通じて現場に徹底されます。
契約更新時における「情報提供」の再確認
一度情報提供を行えば終わりではなく、派遣先の正社員の賃上げ(春季労使交渉などでの基本給引き上げ)があった場合、その変動情報を速やかに派遣元に提供し、派遣労働者の待遇改善に繋げなければならない点も、現場が見落としがちな重要事項として挙げられます。
3.政府・厚労省の真の狙い(大局的視点での考察)
なぜ、令和8年のこの時期に、ここまで詳細な情報提供の例やQ&Aが改定されたのでしょうか。そこには、現在の日本経済と労働市場が抱える構造的な課題を解決しようとする政府の強い思惑があります。
1.「偽装・労使協定方式」の撲滅と実質的賃上げの強制
先述の通り、多くの企業が実務の負担を避けるために「労使協定方式」を採用しています。しかし、一部の悪質な派遣会社や、経費増を嫌う派遣先企業の間では、国が定める一般賃金の「最低基準」に張り付いたまま何年も時給を上げない、または不当に低い職務評価に押し込めて一般賃金額そのものを低く設定する、といった脱法に近い行為(いわゆる偽装的な運用)が指摘されてきました。 政府は、春季労使交渉等で実現している歴史的な「賃上げ」の果実を、日本の全労働者の約4割を占める非正規雇用、とりわけ派遣労働者に行き渡らせる必要があります。今回の指針強化は、「適正な比較と情報開示を行わなければ、労働局の指導・監督の対象にするぞ」という行政からの強い牽制なのです。
2.派遣先企業への「連帯責任」の自覚の喚起
これまで、派遣労働者の賃金不払いや待遇不備の問題が起きると、矢面に立たされるのは雇用主である「派遣元(人材派遣会社)」でした。しかし、派遣労働者の賃金の原資は、派遣先が支払う「派遣料金」です。 派遣先が「正社員と同じ業務をさせているのに、派遣料金の引き上げには応じない」「自社の給与体系を開示しない」という態度を取れば、派遣元は適法な待遇決定ができません。今回の啓発資料更新(派遣元・派遣先の連携・協力)は、派遣先企業の経営層に対し、「同一労働同一賃金の実現は、派遣先であるあなた方の法的遵守や社会的責任(環境・社会・企業統治、人的資本経営)に直結する問題である」という認識を植え付けるためのものです。
3.「職務給型雇用」への移行と労働市場の流動化に向けた基盤整備
日本企業全体が、従来の「人に仕事をつける雇用」から「仕事に人をつける職務給型雇用」へと移行しつつあります。派遣労働は、そもそも「職務に対して賃金が支払われる」という職務給型雇用の最たる例です。 派遣労働における職務の定義と、それに対する適正な賃金評価の仕組み(情報提供や比較の過程)を社会の基盤として精緻に確立することは、将来的に日本全体の雇用制度改革を推進していくための重要な地ならしであると言えます。
4.実務上の注意点:派遣先企業と派遣元企業が直ちに講ずべき対策
今回の厚労省の公表を受けて、企業(派遣先・派遣元それぞれ)はどのような対応を迫られるのでしょうか。実務上の具体的な注意点を解説します。
【派遣先企業(労働者を受け入れる企業)の実務対応】
「とりあえず秘匿」からの脱却と人事情報の整備
「当社の正社員の給与は機密だから出せない」という理由は、労働局の調査が入った際には法令違反(労働者派遣法第26条第7項違反)とみなされます。自社の社員のどの層(等級、役職)が、派遣労働者と同じ職務を行っているのかを整理し、上述の「4つの手法」のいずれかを用いて、速やかに情報提供できる社内体制(人事部と利用部署の連携)を構築してください。
派遣料金交渉への合理的対応
物価高や正社員の基本給引き上げに伴い、比較対象労働者の待遇が向上した場合、派遣元から「派遣料金の改定(値上げ)」の申し入れが行われます。これを単なる経費増と捉えて一律に拒否することは、派遣元の法令違反を誘発するだけでなく、優越的地位の濫用として公正取引委員会や労働局から指導を受ける危険性を孕みます。予算編成の段階から、派遣料金の変動を見込んでおく必要があります。
【派遣元企業(人材派遣会社)の実務対応】
「労使協定方式」の定期的な見直しと過信の戒め
「うちは労使協定方式だから、派遣先から細かい賃金情報をもらう必要はなく安全だ」という認識は極めて危険です。労使協定方式であっても、教育訓練の機会や福利厚生施設の利用については派遣先との均等・均衡が求められます。また、毎年更新される「一般賃金」の通達に遅滞なく対応し、労使協定を結び直すとともに、派遣労働者の職務評価(技能向上)に応じた昇給制度を実態として運用していることを、労働基準監督署や労働局の調査時に証明できる証拠(評価書や面談記録など)を残すことが不可欠です。
労働者への「説明義務」の高度化
労働者派遣法第31条の2に基づく「待遇に関する事項等の説明」は、単に書類を渡すだけでは不十分です。「なぜあなたの時給はこの額なのか」「正社員との待遇差がある場合、その理由は何か(責任の程度が違う、異動の有無が違う等)」を、派遣労働者が納得できるよう論理的に説明できる能力が、派遣元の営業担当者や調整役に求められます。
5.今後の動向と見通し:日本の労働市場、そして「人材活用」の未来へ
本稿の最後に、今後の動向と企業の在り方について展望します。
今後、数年以内に労働者派遣法やパートタイム・有期雇用労働法のさらなる運用強化、あるいは法改正が行われる可能性は極めて高いと考えられます。特に注目すべきは、「行政による監督指導の電子化と透明化」です。 現在、企業は様々な労働条件や賃金データを電子化して管理しています。将来的には、公共職業安定所や労働局がこれらの情報を横断的に監視し、同一労働同一賃金における「不合理な待遇差」を人工知能(AI)等を用いて自動的に選別・抽出する時代が来るかもしれません。
また、報道機関や社会の目も厳しさを増しています。「下請けいじめ」や「派遣社員の買い叩き」は、もはや単なる労使間の揉め事ではなく、企業への信頼や株価を致命的に毀損する重大な法令違反(人権尊重の注意義務の欠如)として報道される時代です。 実際に、持続可能な開発目標や人的資本経営の文脈において、投資家は「その企業が非正規雇用労働者を含めた供給網全体で、適正な労働環境を確保しているか」を厳しく監視し始めています。
経営者・人事責任者の皆様へ
「派遣労働者の同一労働同一賃金」への対応は、もはや「法律で決まっているから仕方なく処理する負担(守りの人事)」ではありません。 優秀な人材が枯渇する大競争時代において、雇用形態にかかわらず、提供する価値(職務)に対して適正で公正な対価を支払う企業体制を構築することは、多様な人材を引き付け、新たな価値創造を生み出し、企業価値を中長期的に高めるための「最強の経営戦略(攻めの人事)」に他なりません。
今回の厚労省による指針の更新を、単なる「手続きの追加」と捉えるか、自社の人事制度と雇用戦略を根本から見直す「好機」と捉えるか。その決断が、5年後、10年後の企業の存亡を分けることになるでしょう。
法律や制度は生き物であり、常に変化し続けています。特に労働法務の領域は、経済情勢や社会の価値観の変化を直接的に反映します。我々専門家は、単に法令の条文を解説するだけでなく、その背景にある「社会の要請」を読み解き、企業の持続的な成長と労働者の幸福が両立する仕組みづくりを支援していく使命があります。
本記事が、派遣労働者の待遇改善に向けた実務の一助となり、ひいては日本経済の構造的な課題解決に向けた議論の契機となることを強く願っております。
派遣労働者の同一労働同一賃金について(厚生労働省)
【本件に関する実務相談・お問い合わせ】 今回の記事に関連する実務のご相談(派遣先からの情報提供要請への対応、労使協定の策定・見直し、派遣料金交渉の支援など)や、顧問契約のお問い合わせなど、当事務所までお気軽にご相談ください。
また、テレビ、新聞、雑誌等メディア関係者様からの労働法務・社会保障制度に関する解説依頼、時事問題の背景解説、特集記事の監修や取材も随時承っております。複雑な制度を、専門的な裏付けを持ちながらも、視聴者・読者にわかりやすく解説することを得意としております。
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【メディア取材・出演実績】
週刊文春((株)文藝春秋): 「【証拠ビデオ入手】東証上場企業・ライトアップが指南する厚労省助成金“不正受給”『おいしすぎる』『数千万円が自由に』」 「【全社員の4分の1近くがいなくなり…】『ウルトラマン』シリーズの円谷プロで退職者が続出していた」
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その他多数のメディアにて、労働・社会保険問題の専門家として解説・見解提供実績あり。
