【社労士前田が週刊文春でも解説】文春砲炸裂!「ウルトラマン」も驚く4000時間労働と違法リストラ疑惑の深層〜上場企業グループに問われる退職勧奨の適法性と親会社のガバナンス〜
- 坂の上社労士事務所

- 3 時間前
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「ウルトラマン」シリーズを手掛けるエンターテインメント企業に関する文春砲が大きな話題を呼んでいます。週刊文春および週刊文春電子版のスクープによって報じられたのは、極めて過酷な長時間労働(月平均300時間・年間約4000時間など)の疑いや、これに付随する大規模な退職勧奨(事実上のリストラ)、そして人事評価の操作疑惑です。本日の記事では、私(坂の上社労士事務所、代表前田)の解説も掲載されておりますので是非ご覧下さい。
【全社員の4分の1近くがいなくなり…】「ウルトラマン」シリーズの円谷プロで退職者が続出していた(Yahoo!ニュース)
【全社員の4分の1近くがいなくなり…】「ウルトラマン」シリーズの円谷プロで退職者が続出していた(文春オンライン)
本件において留意すべきは、事案の直接の舞台となっているのが事業子会社(株式会社円谷プロダクション)である点です。しかし、報道では上場企業である親会社(円谷フィールズホールディングス株式会社)からの何らかの指示や関与があった可能性が指摘されています。
本稿では、週刊文春の報道内容が事実であるという前提の下、一連の事案を法的な観点から分析・解析します。労働関係法令を専門とする特定社会保険労務士の視点から、法改正の経緯や政府の狙い、最新の裁判例を紐解きつつ、上場企業グループ全体が直面する経営リスクと「今後の実務上の対応策」について、深くかつ分かりやすく解説いたします。
1.異常な長時間労働がもたらす法的リスクと労働法制の現在
週刊文春電子版の報道において社会に衝撃を与えたのは、年間約4000時間(月平均300時間超)にも及ぶ過酷な労働実態が指摘された点です。仮にこれが事実であれば、現在の労働法制においてどのように評価されるのでしょうか。
①働き方改革関連法による「時間外労働の上限規制」と政府の狙い
かつての日本の労働法制においては、労働基準法第36条に基づく労使協定(いわゆる36協定)において「特別条項」を締結さえすれば、事実上、青天井で時間外労働を行わせることが可能でした。しかし、過労死やメンタルヘルス不調が重大な社会問題となったことを受け、2019年以降順次施行された「働き方改革関連法」により、労働基準法は歴史的な大改正を遂げました。
この法改正の最大の眼目は、「時間外労働の罰則付き上限規制」の創設です。原則として時間外労働は「月45時間・年360時間」が上限とされ、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)であっても、以下の厳格な上限を超過することは絶対に許されません。
時間外労働は年720時間以内
時間外労働と休日労働の合計が単月で100時間未満
時間外労働と休日労働の合計について、複数月(2〜6カ月)の平均が全て80時間以内
政府の狙いは、罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)を設けることで強制力を高め、長時間労働を是正することにあります。「年720時間」という数字は、これを超えれば即座に罰則の対象となり得る絶対的なレッドラインなのです。
②「月300時間労働」の法的評価と過労死ライン
報道にある「月平均300時間」の総労働時間は、法定労働時間(月約160〜170時間)を差し引くと、月の時間外労働が約130〜140時間に達している計算になります。厚生労働省が定める脳・心臓疾患の労災認定基準(過労死ライン)は、「発症前1カ月間に100時間超」または「発症前2カ月ないし6カ月にわたって1カ月当たりおおむね80時間超」です。報じられた労働時間が事実であれば、過労死ラインを遥かに超越しており、いつ従業員が深刻な健康被害に陥ってもおかしくない極めて危険な状態であると推測されます。
③労働基準監督署による「是正勧告」の重み
本事案では、労働基準監督署から是正勧告が発出されたと報じられています。是正勧告書は、労働基準監督官が立ち入り調査等によって客観的な法違反の事実を確認した場合に交付される公的な行政指導文書です。企業がこれを軽視し、適切な改善を行わなかった場合、経営者や法人が書類送検(刑事事件としての立件)されるリスクを孕んでいます。さらに近年は、重大・悪質な違反を繰り返す企業に対して、厚生労働省による「企業名の公表」が行われることもあり、企業ブランドを失墜させる致命的なペナルティとなり得ます。
2.「退職勧奨」と「整理解雇」の法的境界線
報道によれば、子会社側は人員削減の手法を「退職勧奨」であると説明しているとのことですが、その実態が真に「自由意思に基づく退職」と言えるかには、強い法的疑義が生じます。
①退職勧奨と解雇の決定的な違い
「退職勧奨」とは、使用者が労働者に「退職してくれないか」と説得を行い、労働者がそれに同意して合意解約に至るプロセスです。退職勧奨が適法であるための大前提は、「労働者側に、勧奨に応じるか拒否するかを決定できる完全な自由が保障されていること」です。
②「許容限度を超える退職勧奨」は不法行為となり得る
報道にあるように、「ポジションを確保することが困難」と通告し、出向先での処遇等の情報も十分に開示せず、考える時間も与えずに二者択一を迫るような手法がとられていたとすれば、実質的に退職を拒否する選択肢を奪っていると評価される可能性があります。近年の重要な裁判例である「メドエルジャパン事件(東京地裁 令和5年4月28日判決)」では、「退職勧奨の態様が、労働者の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、心理的圧力を加えて強要した場合には、社会通念上相当と認められる範囲を超える違法行為として不法行為に該当する」との基準が示されました。報道の通りの強引な手法であれば、この「違法な退職強要」に該当するリスクが極めて高いと言えます。
③「整理解雇の4要素」と黒字リストラの厳格なハードル
労働者が退職を拒否し、それでも会社が雇用関係を終了させれば、それは「整理解雇」となります。整理解雇が有効と認められるためには、以下の「整理解雇の4要件(要素)」を総合的に満たさなければなりません。
人員削減の必要性
解雇回避努力義務の尽力(配置転換や希望退職の募集などを尽くしたか)
被解雇者選定の合理性
手続の妥当性
企業グループ全体が黒字である状況下において、将来に備えた人員構成の最適化などを目的とする、いわゆる「黒字リストラ」について、裁判所は非常に厳しい目を向けます。「ACラーニング事件(東京地裁 令和4年8月17日判決)」等の近年の裁判例に照らしても、企業全体として雇用を維持・転換する余力がある状況下において、合意のない整理解雇に踏み切ることは「人員削減の必要性」や「解雇回避努力」を欠くとして、無効と判断される公算が大きいと考えられます。
3.人事評価の事後操作疑惑と「親会社の関与」の法的責任
本報道において特筆すべきは、管理職に対する「評価シートの再提出要求」による評価の引き下げ疑惑と、そこに「親会社からの指示」があった可能性が示唆されている点です。
①評価の恣意的な操作と「人事権の濫用」
企業は人事考課を行う権限を有していますが、その裁量は無制限ではありません。労働契約法第3条第5項は、権利の濫用を禁じています。仮に、一度は高く評価されていた内容に対し、「リストラの対象とする理由が見当たらないから」という不当な動機で、事後的に点数を下げさせる指示が行われていたとすれば、それは人事評価制度を歪める行為であり、労働契約法等が禁じる「人事権の濫用」に当たる疑いが濃厚です。リストラのための数合わせとして不当な評価操作が行われたケースにおいて、被解雇者選定の合理性が認められることは、過去の判例に照らしても考えにくく、万が一法廷で争われた場合には会社側にとって致命的な瑕疵となります。
②親会社(上場企業)の法的責任と内部統制(ガバナンス)
一般的に、子会社の従業員に対する法的責任は、直接の雇用主である子会社が負います。しかし、上場企業である親会社が子会社の人事やリストラに深く関与し、実質的に指揮・指示を行っていた場合、親会社の責任は免れません。会社法上、親会社の取締役には、企業グループ全体の業務の適正を確保するための「内部統制システムの構築・運用義務」が課せられています。もし親会社が主導して子会社に違法な労務管理や不当な評価操作を指示し、あるいは黙認していたとすれば、それはグループ全体のコーポレートガバナンスが重大な機能不全に陥っていることを意味します。
4.上場企業グループに及ぶ「致命的リスク(崩壊シナリオ)」
子会社で起きた事案であっても、それが上場企業グループ内で発生した構造的な問題である場合、親会社は以下の深刻なリスクに直面します。
①偶発債務の隠蔽と金融商品取引法違反のリスク
極端な長時間労働による未払残業代や、違法な退職強要等による損害賠償・バックペイ(解雇期間中の賃金)のリスクは、将来において顕在化する可能性のある「偶発債務」または「簿外債務」に該当します。上場企業は、連結決算において子会社のこれらの重大な財務リスクを適正に評価し、有価証券報告書等で開示する義務があります。これを怠った場合、金融商品取引法違反(虚偽記載)として金融庁から課徴金納付命令を受けたり、上場廃止のペナルティを受けたりするリスクが生じます。
②J-SOX(内部統制報告制度)への影響と監査法人の対応
親会社からの不適切な指示や、子会社での深刻な法令違反が放置されている状況は、財務報告の信頼性を担保する「内部統制(J-SOX)」の欠陥を示唆します。仮に内部通報窓口にこれらの事実が寄せられていたにもかかわらず有効に機能していなかった場合、担当する監査法人から内部統制報告書に対して「不適正意見」が出される可能性もあり、資本市場からの信頼を大きく損ないます。
③株主代表訴訟とESG投資家からの見切り
親会社の経営陣が違法行為を主導・黙認した結果、企業ブランドが毀損し、巨額の賠償等で会社に損害を与えた場合、株主に対する「善管注意義務違反」に問われ、経営陣個人が株主代表訴訟の対象となるリスクがあります。さらに、労働者の人権を軽視し、過酷な労働を強いる企業グループは、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)を重視する機関投資家からの投資対象から排除され、企業価値に回復困難なダメージを受けることになります。
5.週刊文春報道を踏まえた課題解決と今後の見通し〜ガバナンスを効かせるために〜
法令を軽視した強引な労務管理は、一時的な人件費の削減をもたらすかもしれませんが、最終的には企業グループ全体の存続を危うくする莫大なリスクを伴います。上場企業がこの危機を乗り越え、適正にガバナンスを機能させるためには、以下の抜本的な改革が必要です。
①「耳の痛いことを言う専門家」の登用とガバナンスの徹底
上場企業グループが致命的なコンプライアンス違反を防ぐためには、社内の論理や忖度だけで突っ走ることを防ぐ真のガバナンス(企業統治)を機能させなければなりません。そのためには、経営陣に対して忖度なく「耳の痛いことを言う専門家(労働法に精通した社外取締役、弁護士、特定社会保険労務士など)」をアドバイザーとして積極的に登用すべきです。「それは法的リスクが高すぎます」「その手法は権利濫用にあたり、グループ全体に巨額の損害をもたらします」と、経営の暴走に強烈なブレーキをかける独立した専門家の存在こそが、最大の防波堤となります。企業側は、こうした専門家の意見を真摯に受け入れ、対応を極めて慎重に進める必要があります。
②リストラ・人員整理における「慎重な対応」の徹底
人員整理は、従業員の生活を根底から揺るがす行為であり、その対応は極めて慎重に行われなければなりません。企業グループが適法に人員を最適化するためには、安易な整理解雇や威圧的な退職勧奨に頼るのではなく、十分に魅力的な割増退職金や手厚い再就職支援を用意し、真の意味で労働者の自由意思に基づく「希望退職の募集」を行うのが、最も確実でローリスクな手法です。「誠実な説明」と「十分な補償」こそが、法的リスクとレピュテーションリスクを最小化します。
③客観的で透明性のある人事評価と労働時間管理の再構築
人事評価を人員削減の手段として恣意的に操作するような運用は、企業風土を破壊します。経営陣はガバナンスを効かせ、評価プロセスの可視化と客観性を担保する運用ルールをグループ全体で徹底しなければなりません。また、異常な長時間労働を二度と発生させないためには、PCのログ情報等と連動した客観的な勤怠管理システムを導入し、業務量そのものを見直す抜本的な構造改革が不可欠です。
労働基準法や労働契約法をはじめとする労働関係法令は、企業経営の邪魔をするためのものではなく、企業が持続的に成長し、社会から信頼される存在であり続けるための「最低限のルール(インフラ)」です。
週刊文春によって文春砲として報じられた事案は、報道内容が事実であるとすれば、コンプライアンスを軽視したグループ経営がどれほど巨大なリスクを孕んでいるかを社会に示す、反面教師としての意義を持っています。企業経営者および人事労務担当者は、この事案を対岸の火事と捉えることなく、自社の労務コンプライアンス体制やグループガバナンスを今一度見直し、健全な組織風土の醸成に努めることが強く求められています。
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