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【社労士解説】2026年6月「特定在留カード」導入に伴う外国人雇用実務の完全ガイド〜3つの視点から読み解く制度改正の狙いと企業の対応策〜

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 1 日前
  • 読了時間: 10分
特定在留カード

近年、日本の労働市場において外国人材の存在感はかつてないほど高まっており、企業規模や業種を問わず、外国人労働者の活躍が必要不可欠な時代となっています。そのような状況下において、令和8年(2026年)6月14日に施行される「特定在留カード」の導入は、外国人材を雇用するすべての企業にとって、人事労務管理のオペレーションを根本から見直す必要に迫られる極めて重要な制度改正です。

本記事では、特定社会保険労務士としての実務経験と専門的知見から、この「特定在留カード」の創設と関連する法改正について、「制度解説」「実務対応」「未来予測と課題解決」という3つの視点で詳細に分析・解説します。


1.【制度解説】特定在留カード創設の経緯と政府が描く「共生社会」のビジョン

1-1. マイナンバーカードと在留カードの統合がもたらすもの

令和8年(2026年)6月14日より、出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律に基づき、マイナンバーカードの機能を付加した「特定在留カード」の運用が開始されます。これまでの制度では、中長期在留者である外国人の方は、在留カードに関する手続き(在留期間の更新等)は地方出入国在留管理局で、マイナンバーカードや住民基本台帳に関する手続き(住所変更等)は市区町村の窓口で、それぞれ別個に行う必要がありました。

この「二度手間」は、日本語に不慣れな外国人材にとって大きな負担となっていただけでなく、行政機関間の情報連携においても非効率を生み出していました。特定在留カードは、在留カードとマイナンバーカードの機能を一枚のカードに統合することで、これらの手続きのシームレス化を図るものです。

1-2. ワンストップ化による利便性向上と行政手続きの効率化

特定在留カードの大きな特徴は、その取得が義務ではなく「任意」であるという点です。しかし、取得した場合には、地方出入国在留管理局での在留手続き、または市区町村窓口での住居地届出と同時に、ワンストップでマイナンバーカード機能の更新等を行うことが可能となります。

これは単なるカードの一体化にとどまらず、政府が掲げる「外国人との共生社会の実現」に向けた具体的なステップアップを意味します。行政手続きの障壁を下げることで、外国人材が日本社会に円滑に適応し、安心して生活・就労できる基盤を整備することが、本改正の最大の狙いの一つと言えます。

1-3. 制度改定の背景にある「在留管理の厳格化」と「DXの推進」

一方で、政府の狙いは利便性の向上だけではありません。マイナンバー制度と在留管理システムを強固に紐づけることで、社会保険の未加入問題や不法就労の防止、税の適正な徴収など、行政側の管理体制を精緻化する意図も含まれています。

労働関係法令や社会保険関係法令は、国籍を問わず日本で働くすべての外国人に適用されます。マイナンバー機能が内包された特定在留カードが普及することで、事業主による適正な労働・社会保険の加入手続きがより一層透明化され、適正な手続きを怠る悪質な事業者を市場から排除する効果も期待されています。


2.【実務対応】人事労務担当者が直面する実務上の変更点と具体的な対応策

制度の導入により、企業の人事労務担当者はこれまでにない複雑なオペレーションへの対応を迫られます。ここでは、実務上必ず押さえておくべき重要ポイントを解説します。

2-1. 「3つのカードが混在する過渡期」への突入

令和8年(2026年)6月14日以降、実務現場では以下の3種類のカードが入り乱れる過渡期に突入します。

  1. 既存の在留カード(旧様式)

    改正法施行前に交付されたもの。

  2. 新様式の在留カード

    改正法施行後に交付される、マイナンバー機能を持たない新しいデザインの在留カード。

  3. 特定在留カード

    マイナンバーカード機能が一体化した新カード。

実務において最も注意すべきは、カードの種類によって確認事項(在留カード番号など)の記載位置が異なるという点です。人事担当者は、目の前に提示されたカードがどの種類であるかを瞬時に判別し、正しい箇所から必要な情報を読み取るスキルが求められます。

2-2. 雇用保険手続き・外国人雇用状況届出の書式改正とオペレーションの再構築

外国人を新たに雇用した際や離職した際には、事業主はハローワークに対して「外国人雇用状況の届出」を行うことが法律で義務付けられており、違反した場合は30万円以下の罰金の対象となります。雇用保険の被保険者となる場合は「雇用保険被保険者資格取得届」等を通じて届出を行います。

今回の特定在留カード創設等に伴い、雇用保険被保険者資格取得手続及び喪失手続に係る各種様式について所要の改正が行われます。具体的には、新様式の在留カードや特定在留カードでは在留カード番号の記載位置が従来と異なるため、各種届出書類における在留カード番号の記載欄が見直されます。

さらに実務上の特筆すべき点として、今後の制度変更に対する迅速な対応を可能とするため、新たな様式は「省令」ではなく「業務取扱要領」において規定されることになります。これは、行政の手続き様式が今後より柔軟かつ頻繁に変更される可能性を示唆しており、企業側は常に最新の書式や電子申請システムのアップデート情報をキャッチアップする体制を構築する必要があります。

2-3. 「在留カード等読取アプリケーション」の必須化と偽造カード対策

巧妙化する在留カードの偽造・変造を防ぐため、目視による確認だけではもはや不十分です。厚生労働省や出入国在留管理庁は「在留カード等読取アプリケーション」の積極的な活用を強く推奨しています。

このアプリを利用することで、ICチップ内に保存されている情報を読み取り、券面に記載された情報と見比べることで偽変造がないかを確認できます。特定在留カードの導入以降は、ICチップ内の情報管理がより重要になるため、企業においては採用プロセスの一環として、この読取アプリによる確認手順を標準業務フロー(SOP)として組み込むことが不可欠です。

2-4. 採用・面接から入社までの適切なプロセス(公平な採用選考と就労可否の確認タイミング)

外国人雇用において、採用プロセスでの取り扱いには細心の注意が必要です。「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」によれば、国籍で差別しない公平な採用選考を行うことが求められています。日本国籍でないことのみを理由に面接への応募を拒否することは不適切です。

また、面接の段階で安易に在留カードの提示を求めることは、適性や能力に関係のない事項(国籍等)を把握することにつながり、就職差別の観点から問題視されるリスクがあります。在留資格の範囲内で従事できる業務かどうかの確認は事前の聞き取り等で行い、正式な在留カードの確認は採用内定後に確実に行う、といった法令遵守のプロセスを社内で徹底する必要があります。


3.【未来予測と課題解決】今後の外国人雇用市場と企業が取るべき戦略

特定在留カードの導入は、単なる行政手続きの変更にとどまらず、今後の外国人雇用市場全体の在り方を変容させる引き金となります。企業は今後、どのような戦略を描くべきでしょうか。

3-1. マイナンバー連携が加速させる行政・労務手続きのデジタル化

特定在留カードの普及により、外国人の行政情報(在留資格、期限、住民票情報、税・社会保険関係など)のデジタル連携が急速に進展します。企業側もこれに呼応し、人事労務管理のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進める必要があります。

例えば、e-Govやハローワークインターネットサービスを利用した「外国人雇用状況届出システム」による電子申請を基本とし、クラウド型の人事労務システムと連携させることで、在留期限の自動アラート機能や届出漏れを防止する仕組みを構築することが、コンプライアンス維持のためのスタンダードとなるでしょう。

3-2. 法令遵守と適切な雇用管理の徹底(雇用管理の指針の重要性)

外国人労働者に対しては、労働基準法や最低賃金法などの労働関係法令が日本人と同様に適用されます。さらに、厚生労働省の指針では、以下のような適切な雇用管理の実施が事業主の努力義務として定められています。

  • 労働条件の明示

    賃金や労働時間等の主要な労働条件を、母国語等、外国人が理解できる方法で明示するよう努めること。

  • 安全衛生教育

    危険を伴う業務では、母国語を用いたり視聴覚教材を活用するなど、確実に内容が理解される方法で教育を実施すること。

  • 労働・社会保険の適用手続き

    制度内容を理解できる方法で周知し、必要な手続きを遅滞なく行うこと。

これらを怠ることは、労働トラブルや重大な労働災害に直結するだけでなく、企業の社会的信用の失墜を招きます。

3-3. 外国人材から「選ばれる企業」になるための就労環境整備と生活支援

深刻な人手不足の中、外国人材の獲得競争は激化しています。「雇ってあげる」という旧態依然とした意識の企業は、優秀な人材から見放されるでしょう。

定着率を高めるためには、日本語教育の支援や日本の生活習慣・文化の理解促進、さらには地域社会とのつながりをサポートするなどの「生活支援」が極めて重要です。また、住居周辺の医療機関や金融機関の情報提供、社内における多言語での苦情・相談窓口の設置など、安心して日本で暮らせるインフラを企業が積極的に提供することが、人材定着の鍵となります。

3-4. 雇用労務責任者の選任と社外専門家(社労士)の活用

外国人労働者を常時10人以上雇用する事業所においては、これらの雇用管理の改善等に関する事項を管理させるため、人事課長等を「雇用労務責任者」として選任することが指針で求められています。

しかし、毎年のように変わる入管法や労働関係法令、さらに複雑化する各種届出の実務を社内の担当者だけで完璧に網羅することは現実的に困難です。そこで、特定社会保険労務士などの専門家を活用し、顧問契約による継続的なサポートを受けることが、経営の安全保障につながります。最新の法改正情報の提供、クラウドシステムの導入支援、就業規則の多言語化、そして適切な労務相談体制の構築など、専門家の知見をフル活用することが企業の成長戦略に直結します。


法改正に先駆けた準備とダイバーシティ経営の推進

2026年6月の特定在留カードの導入は、日本の外国人雇用システムが新しいフェーズへ移行する号砲です。複数のカードが混在することによる現場の負担増、届出様式の変更への対応、そして厳格化するコンプライアンス基準。これらに場当たり的に対応するのではなく、今のうちから自社の採用フローや労務管理体制を根本的に見直し、デジタル化を進めておくことが不可欠です。

国籍や文化の壁を越え、多様な人材がそれぞれの能力を最大限に発揮できるダイバーシティ&インクルージョンの実現は、企業の持続的な成長のための必須要件です。制度改正を単なる「事務作業の変更」と捉えるのではなく、自社の雇用環境を世界基準へと引き上げる絶好の機会と捉え、前向きな改革を進めていきましょう。


定在留カード交付申請について(法務省)


在留カードとマイナンバーカードの一体化Q&A(法務省)


外国人雇用は ルールを守って適正に(厚生労働省)


【本件に関する実務相談・お問い合わせ】

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代表 特定社会保険労務士 前田力也

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