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【令和8年度・最低賃金改定】全国平均1,176円時代へ社労士が解説する「3つの重要視点」と企業の実務対応-大幅な引き上げが続く背景と、中小企業が直視すべき課題と対策-

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 12 時間前
  • 読了時間: 7分
最低賃金

令和8年7月28日、厚生労働省の「第75回 中央最低賃金審議会」において、令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安が答申され公表されました。今年の目安は、各都道府県を3つのランクに分けた上で、Aランク54円、Bランク56円、Cランク56円となりました。

仮にこの目安通りに各都道府県で改定が行われた場合、全国加重平均の上昇額は55円(引上げ率4.9%)となり、現在の1,121円から1,176円へと到達します。地域別に見ると、最も高い東京都は1,280円、最も低い沖縄県・宮崎県・高知県でも1,079円となり、企業経営に与えるインパクトは極めて大きいと言わざるを得ません。

本記事では、この大幅な最低賃金引き上げの背景にある制度の動き、政府の狙い、そして今後の経済動向を分析し、社会保険労務士の専門的な立場から、経営者が直視すべき「3つの視点」と具体的な実務対策について深く解説いたします。


1.【制度と経緯】B・Cランクの引き上げ額がAランクを上回る理由と「地域間格差是正」の行方

今回の答申で最も注目すべき点は、地方を中心とするBランク・Cランクの引上げ額(56円)が、都市部を中心とするAランクの引上げ額(54円)を上回ったことです。これは単なる偶然ではなく、政府が明確な意図を持って主導している政策的要請の結果です。

政府の狙いと「最高額に対する最低額の比率」

政府は「経済財政運営と改革の基本方針」等において、最低賃金の地域間格差の是正を強く推進しています。都市部と地方部における賃金格差は、地方からの労働力流出を招き、地方経済の衰退を加速させる大きな要因となっているためです。

今回の目安どおりに改定が行われれば、地域別最低賃金の最高額(東京都)に対する最低額(沖縄県など)の比率は、現在の83.4%から84.3%へと上昇し、格差は確実に縮小へと向かいます。近年、この比率を引き上げていくことが重要視されており、地方の最低賃金のボトムアップが強く意識されています。

地方の中小企業に求められる変化

地方の企業にとって、都市部と同等以上の賃金引き上げを求められることは、短期的な人件費負担の激増を意味します。しかし、長期的な視点で見れば、地域内で労働力を確保・定着させるための「防衛的投資」としての側面を持ちます。労働供給制約社会(人手不足社会)において、地方企業が生き残るためには、これまでの低コストに依存したビジネスモデルからの脱却が急務となっているのです。


2.【経済と動向】物価高騰・賃上げと「価格転嫁の壁」〜データが示す経営実態と倒産リスク〜

大幅な最低賃金引き上げの根拠となる法定3要素(労働者の生計費、賃金、通常の事業の賃金支払能力)に関するデータを見ると、日本経済が直面している複雑な状況が浮き彫りになります。

物価の上昇と高い春季賃上げ率

労働者の生計費については、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心に消費者物価指数の上昇が続いています。上昇率は昨年と比較するとやや鈍化しているものの、依然として労働者の購買力を圧迫しています。これに連動するように、春季賃上げ妥結状況では全体で5.01%(中小企業でも4.69%)と高水準の賃上げが記録されました。非正規雇用労働者の時給引上げ率も6.18%と高水準で推移しており、社会全体に「賃上げの波」が広がっています。

「二極化」する価格転嫁と物価高倒産の現実

一方で、企業の賃金支払能力に目を向けると厳しい現実が見えてきます。政府や公正取引委員会が「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」等を推進しているものの、中小企業庁の調査によれば、コスト全体の価格転嫁率は54.2%、労務費に至っては50.0%に留まっています。

【深刻化する二極分離】

価格交渉が行われ、一部でも転嫁できた企業が8割を超える一方で、全く価格転嫁できなかった割合も16.0%存在し、価格転嫁の状況は明確に二極分離しています。

実際、令和8年上半期の「物価高倒産」は556件発生し、上半期として過去最多を大幅に更新しました。特に建設業、小売業、製造業での倒産が目立ちます。賃上げの原資を確保できないまま人件費の増大に直面することは、企業の存続に直結する重大なリスクとなっています。


3.【実務と対策】改定に備える実務上の注意点〜助成金の活用と労務管理の見直し〜

令和8年度の地域別最低賃金は、各都道府県での地方最低賃金審議会での審議を経て、各都道府県労働局長によって決定され、令和8年10月頃から順次適用されます。近年は目安を上回る額で決着する地域も多く、企業は余裕を持った事前準備が不可欠です。以下に、早急に取り組むべき実務上の対策を挙げます。

1. 賃金シミュレーションと「年収の壁」への対応

まずは、自社の全従業員(正社員、パート、アルバイト)の時給換算額が、新しい最低賃金予想額を上回っているかを早急に確認してください。月給制の社員であっても、基本給と固定手当(精皆勤手当、通勤手当、家族手当などを除く)を所定労働時間で割った金額が最低賃金を下回っていれば法律違反となります。

また、時給が50円以上引き上がることで、パートタイム労働者が社会保険の扶養枠を外れる「年収の壁」に直面しやすくなります。就業調整による年末の人手不足を防ぐため、被扶養者の新たな認定方法の円滑な実施への対応や、労働時間の見直しに関する個別面談を秋口までに完了させることが重要です。

2. 政府の支援策(助成金・補助金)の徹底活用

公益委員見解の政府への要望にもあるように、自社単独での賃上げが厳しい場合、各種助成金を最大限に活用してください。事業場内で最も低い時給を一定額以上引き上げ、設備投資などの生産性向上を図った場合に支給される「業務改善助成金」は、中小企業にとって非常に有効な選択肢です。また、非正規雇用労働者の処遇改善等を支援する「キャリアアップ助成金」の活用も検討すべきです。

さらに、業務プロセスの自動化・AI導入を進める「中小企業省力化投資補助金」などを組み合わせることで、少ない人員でも付加価値を生み出せる体制へと移行することが中長期的な課題解決につながります。

3. 取引先への価格交渉の実施

賃上げ原資の確保には、適正な価格転嫁が欠かせません。令和8年1月から施行された関連法や、政府の「取引Gメン」の拡充により、価格転嫁・取引適正化は強力に推進されています。労務費の上昇分を明確に算出し、データに基づいた論理的な価格交渉を取引先に打診していくことが、経営陣に求められます。


今後の見通しと課題解決に向けて/最低賃金

最低賃金の大幅な引き上げは今後も継続することが予想されます。対症療法的な対応では、経営が立ち行かなくなる時代に入りました。

今後は、事業の付加価値そのものを高め、1人当たりの労働生産性を向上させることが企業の生命線となります。価格転嫁の推進、ITやAIを活用した省力化、そして従業員のエンゲージメントを高める人事評価制度の構築といった抜本的な経営改革に、労務管理の視点から着手していくことが不可欠です。激動の時代において、企業が持続的に成長し、従業員とともに豊かになるための体制づくりを、今すぐ始めましょう。


令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について(厚生労働省)


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