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【社労士解説】令和8年度の最低賃金56円引上げを乗り切る!中小企業が活用すべき3つの支援策と実務上の対策

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 11 分前
  • 読了時間: 7分
最低賃金

2026年(令和8年)9月4日、経済産業省および中小企業庁から「最低賃金引上げに向けた中小・小規模企業への支援策」が公表されました。令和8年度の最低賃金は、全国加重平均で56円という歴史的な大幅引上げとなります。フルタイム労働者(月160時間労働)の場合、1人あたり月額約8,960円、年間で約10万7,000円以上の人件費増となり、従業員を抱える中小企業や小規模事業者にとって経営を直撃する重大な課題です。  

一方で政府は、企業に単なる負担増を強いるのではなく、「稼ぐ力」の強化と賃上げの好循環を実現させるため、包括的かつ強力な支援策を展開することを明らかにしました。本記事では、人事・労務の専門家である社会保険労務士の視点から、今回の政府発表資料を読み解き、制度改正の狙いや今後の動向、そして実務上の注意点を3つの視点に要約して深く解説します。  


1.価格転嫁と取引適正化による「原資」の確実な確保

■支援策の内容と政府の狙い

賃上げを継続的に行うための原資を生み出すには、自社の自助努力によるコスト削減だけでなく、適切な価格転嫁が不可欠です。政府は、令和8年1月に施行された「中小受託取引適正化法(取適法)」および「中小受託取引振興法(振興法)」を、企業の調達現場やサプライチェーンの深い層まで着実に浸透させる方針を掲げています。 具体的には、AI分析などを活用して執行体制を強化し、事業所管省庁と緊密に連携して取引実態を徹底的に把握します。また、大企業同士や中小企業同士、発荷主・着荷主間の取引など、これまで法律の対象外であった取引についても、公正取引委員会が独占禁止法に基づく特殊指定を策定・改正し、来年4月からの施行に向けた規制強化を図っています。官公需においても、2027年度末までに実勢価格を踏まえた予定価格の作成などを100%実施する目標を掲げています。  

■社労士視点での実務上の注意点

労務費を含む価格転嫁を商習慣として定着させることは、もはや国策です。下請け企業は「値上げ交渉をすると取引を切られるかもしれない」という懸念を抱きがちですが、現在は公正取引委員会のガイドラインも改定され、実効的な価格協議を行わずに対価を定める行為は独占禁止法上問題となることが明確化されています。実務においては、単に「最低賃金が上がったから」という理由だけでなく、客観的な自社の労務費上昇データや原価計算の根拠を整理し、論理的に価格交渉を行う準備が不可欠です。

  

2.各種補助金と税制優遇を活用した賃上げ負担の劇的な軽減

■支援策の内容と今後の動向 政府は、最低賃金引上げの強い影響を受ける事業者に対し、予算・税制の両面から手厚い支援を用意しています。  

  1. 持続化補助

    販路開拓等に取り組む小規模事業者に対し、給与支給総額を3%以上増加させるなどの要件を満たした場合、補助上限額が通常50万円から200万円へと大幅に引き上げられます。  

  2. デジタル化・AI導入補助金

    1人当たり給与支給総額の年平均成長率を3%以上とし、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にするなどの要件を満たすと、上限450万円の枠での申請が可能となります。  

  3. 省力化投資補助金(一般型)

    労働生産性の年平均成長率4%向上を目指す事業計画において、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+50円以上の水準とするなどの要件を満たした場合、補助上限額(最大8000万円)が上乗せされます。  

  4. 中小企業向け賃上げ促進税制

    給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加した場合は増加額の15%、2.5%以上増加した場合は30%を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる仕組みが、令和8年度末まで適用されます。「くるみん」や「えるぼし」などの認定を取得している場合は、さらに5%の税額控除率が上乗せされます。  

■社労士視点での実務上の注意点 補助金の申請や税制優遇を受けるためには、「事業場内最低賃金の引き上げ」や「給与支給総額の増加」という厳格な要件をクリアする必要があります。ここで陥りやすいのが、「補助金をもらうために無計画に基本給を上げてしまい、その後の固定費負担に苦しむ」というケースです。 実務上は、単に基本給を一律で上げるのではなく、各種手当の見直し、評価制度と連動した昇給テーブルの再構築など、賃金規程全体のバランスを見直す必要があります。また、就業規則や賃金規程の適法な改定と、労働基準監督署への届出、従業員への労働条件通知書の再交付など、労務手続きを漏れなく行うことが極めて重要です。  


3.人手不足解消に向けた「省力化投資」と伴走支援のフル活用

■支援策の内容と政府の狙い

慢性的な人手不足という構造的課題に対し、政府は12業種を対象とした「省力化投資促進プラン」を策定し、生産性向上を全面的に後押しします。2026年3月には、業種別の課題と解決策を直感的に把握できるウェブサイト「省力化ナビ」が開設される予定です。 また、2026年4月には全国47都道府県に生産性向上支援センターが開設され、約500名のサポーターが事業者を専門的に伴走支援します。政府は、自治体や商工会・商工会議所などの支援機関と連携し、経営相談窓口への積極的な働きかけを起点に、今年度末までに100万件のプッシュ型アプローチによる相談対応を目指しています。  

■社労士視点での課題解決と見通し

設備投資やAI・デジタルツールの導入によって業務の省力化が実現した場合、従業員の働き方も大きく変わります。例えば、労働時間が短縮された場合、変形労働時間制の導入や、多様な正社員制度(短時間正社員など)の整備が必要になるかもしれません。生産性向上によって生み出された利益を、いかに従業員の処遇改善や教育訓練投資に還元し、エンゲージメントを高めていくかが、今後の企業成長の鍵を握ります。  


企業が今すぐ取り組むべきアクションプラン/最低賃金、助成金

今回の全国加重平均56円という最低賃金の引上げは、すべての企業にとって避けては通れない経営課題です。しかし、政府が用意した多様な支援策を戦略的に活用することで、このピンチを自社の生産性向上と組織力強化のチャンスに変えることが十分に可能です。 まずは以下のステップで現状の確認と対策を進めてください。  

  1. 自社の現状把握:全従業員(パート・アルバイト含む)の現在の時給換算額を正確に算出し、新たな最低賃金を下回るリスクがないか確認する。

  2. 制度・支援策の選定:自社の経営課題(IT化、省力化、販路開拓)に最も適した補助金や賃上げ促進税制を選定する。  

  3. 社内規程の整備:賃上げ要件を満たすための賃金制度の再設計と、就業規則・賃金規程の改定を行う。

  4. 価格転嫁に向けた準備:労務費の上昇を示す根拠資料を作成し、取引先との価格協議を迅速に開始する。  

人事労務に関する法律や制度は複雑に絡み合っており、自社単独ですべてを完璧に進めることは容易ではありません。最新の法改正動向を熟知した社会保険労務士などの専門家を有効に活用し、確実かつ安全に事業基盤の強化を図ることをお勧めいたします。


最低賃金引上げに対応する中小企業・小規模事業者への支援策を公表します(経済産業省)


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