【2026年10月施行】社会保険の「月額88,000円要件」撤廃!手取り減少を防ぐ「保険料調整制度」の実務と企業の対応策を社労士(社会保険労務士)が徹底解説


2026年10月、パートタイム・アルバイトなど短時間労働者の社会保険適用において、歴史的な制度改正が施行されます。これまで社会保険加入の大きな壁となっていた「月額88,000円以上(年収約106万円)」という賃金要件が撤廃され、週20時間以上働く方の多くが新たに社会保険の加入対象となります。
これに伴い、新たに社会保険に加入する労働者の「手取りの減少」や、それを嫌う「働き控え(就業調整)」を防ぐための強力な支援策として、新たに「保険料調整制度」がスタートします。本記事では、この新たな制度の全容、法改正の背景と政府の狙い、そして実務上の注意点について、社会保険労務士の視点から深く、かつわかりやすく解説します。
■3つの視点で要約:保険料調整制度のポイント
まず、お忙しい経営者や人事労務担当者の皆様に向けて、本制度の核心を3つの視点で要約します。
1.【制度改正の背景と政府の狙い】
労働力人口が減少する中、短時間労働者が就業時間を抑える就業調整は日本経済の大きな課題でした。政府は月額88,000円要件を撤廃して社会保険の適用拡大を一気に進める一方、新たな加入者が直面する手取り減少の逆転現象を防ぐため、国が最長3年間、保険料負担を実質的に支援する激変緩和措置を創設しました。
2.【事業主への影響と実務(負担増は実質ゼロ)】
対象労働者の保険料の一部を事業主が一時的に立て替えて多く負担します。しかし、事業主が追加負担した保険料は3カ月後の保険料から差し引かれる(還付・充当される)ため、最終的な企業の追加コストは発生しません。ただし、適用には期限内の申出が必要であり、1日でも納付が遅れると還付されないという厳格なルールが設定されています。
3.【労働者のメリット】
標準報酬月額126,000円以下の短時間労働者は、最大で保険料の半額相当が軽減されます。手取りの減少を最小限に抑えながら、将来の年金額は「減額される前の本来の標準報酬月額」で計算されるため、労働者にとって不利益が一切ない極めて有利な仕組みとなっています。
■法改正の経緯と「月額88,000円要件」の撤廃
社会保険の適用拡大は、2016年の従業員数501人以上の企業を皮切りに、2022年に101人以上、2024年に51人以上と段階的に対象を広げてきました。そして2026年10月、ついに中核的な要件であった「所定内賃金が月額88,000円以上」という要件が撤廃される予定です。これにより、「週20時間以上」かつ「学生でない」短時間労働者は、賃金額にかかわらず広く社会保険の加入対象となります。
政府の狙いは、働き方や雇用形態に左右されない安全網(セーフティネット)の構築と、人手不足に悩む企業でのパートタイム労働者の活躍推進です。しかし、新たに社会保険に加入すると、厚生年金保険と健康保険の保険料として給与の約15%が控除されるため、労働者の手取りが減少してしまいます。この課題を解決し、労働者が安心して長く働ける環境を整備するために導入されたのが「保険料調整制度」です。
■保険料調整制度の仕組みと対象者
本制度は、新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者が就業調整せずに働けるよう、事業主が一時的に保険料を多く負担し、後から還付を受けることで、労働者の負担を直接的に軽減する制度です。
【対象となる事業所】
2026年10月から2035年9月までの間に「任意特定適用事業所」となった事業所や、2027年10月以降の適用拡大により新たに「特定適用事業所」となった事業所などが対象です。なお、企業規模要件は今後段階的に撤廃され、2035年10月には小規模を含む全ての事業所が対象となる予定です。
【対象となる被保険者】
以下の要件をすべて満たす方が対象となります。
短時間労働者として健康保険・厚生年金保険に加入する被保険者
標準報酬月額が126,000円以下の被保険者
※注意点として、70歳以上で任意加入している高齢任意加入被保険者(健康保険料のみ対象)、複数の事業所で社会保険に加入している労働者、産前産後休業や育児休業等により保険料が免除されている労働者は対象外となります。また、本制度は事業所単位で適用されるため、要件を満たす全労働者に自動的に適用され、「特定の従業員だけ利用する」といった選択はできません。
【保険料負担の軽減割合】 通常、社会保険料は労使折半(50対50)ですが、制度利用開始から通算2年間は労働者の負担が大きく軽減されます。 例えば、標準報酬月額88,000円の層(報酬月額93,000円未満)では、負担割合が「労働者25:事業主75」となります。3年目は軽減幅が縮小し「労働者37.5:事業主62.5」となり、4年目以降は通常の労使折半に戻ります。標準報酬月額が上がるにつれて軽減割合は緩やかになり、上限である126,000円の層では「労働者48:事業主52」となります。
■実務上の注意点と企業の対応
本制度は、事業主のコスト増なしに従業員の手取りを維持できる優れた仕組みですが、人事労務の実務においては以下の点に細心の注意が必要です。
1. 申出期限の厳守と途中辞退の不可 制度を利用するためには、対象事業所となった日から「2年を経過した日が属する月の前月」までに、事業主から「保険料調整開始申出書」を提出する必要があります。また、本制度は労働者保護を目的としているため、一度開始すると事業主の都合で途中でやめることはできません。
2. 資金繰りと給与計算の正確な管理 事業主が追加負担した保険料は、一旦納付したのち、3カ月後の保険料額から追加負担分を差し引く形で還付されます。最終的な事業主負担は増えませんが、3カ月間の一時的な立て替えが発生するため、余裕を持った資金繰りが必要です。また、従業員の標準報酬月額に応じて毎月の給与控除額が変動するため、給与計算ソフトの設定変更と正確な運用が不可欠です。
3. 滞納による「還付不支給」のリスク(最も重要) 実務上、最大の注意点です。毎月の社会保険料を納付期限(翌月末日)までに納付せず、督促状で指定された期限までにも納付しなかった場合、その月の「事業主追加負担分」は一切還付されません。納付遅れがそのまま企業の純粋な損失に直結するため、これまで以上に厳密な資金管理と確実な口座引き落とし・納付体制が求められます。
■ 課題解決と今後の見通し
2026年10月以降、「週20時間以上働けば社会保険に加入する」というルールが日本の新たな標準となります。企業はこの変化を単なる「事務負担の増加」と捉えるのではなく、採用力強化と人材定着の絶好の機会と捉えるべきです。
従業員に対しては、「社会保険に入ると手取りが減るから労働時間を抑える」のではなく、「保険料調整制度を活用して3年間手取りを維持しながら働き、将来の厚生年金や、病気・出産時の傷病手当金・出産手当金といった手厚い保障を手に入れましょう」と、前向きな提案を行うことが重要です。
企業が今すぐ着手すべき具体的な行動は以下の通りです。
現在雇用している短時間労働者の労働時間と賃金、今後の働き方の希望を正確に把握する。
2026年10月に向けた従業員向けの説明会や、個別面談のスケジュールを策定する。
給与計算体制の見直しや、立て替え分の還付を見越した資金計画を行う。
社会保険制度が複雑化する中、正確な手続きと従業員への丁寧な説明が、企業の信頼と人材確保を大きく左右します。法改正の波に乗り遅れないよう、今からの早期準備を強くお勧めいたします。
【本件に関する実務相談・お問い合わせ】
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メディア取材実績:週刊文春((株)文藝春秋)(【証拠ビデオ入手】東証上場企業・ライトアップが指南する厚労省助成金“不正受給”「おいしすぎる」「数千万円が自由に」、【全社員の4分の1近くがいなくなり…】「ウルトラマン」シリーズの円谷プロで退職者が続出していた、《50万円の賠償金が…》開業25周年のUSJに違法契約の疑い【契約書入手】、《バイオハザードのゾンビ役が告発》USJの出演者は最低賃金以下で働いていた!《報酬は交通費込みで1日1.3万円》)、TOKYO MX(堀潤 Live Junction」「医療保険制度改革で…負担増える逆転現象も」)、東京新聞『国保逃れ指摘「すでに把握しています」と言いつつ野放し 国や年金機構「脱法行為」是正がニブ過ぎるのは…』『維新だけではなかった「国保逃れ」 司法書士グループ企業でも「節約術」疑惑 厚労省「看過できない状況」』、『国保逃れ」に新たな手口 国の対策をすり抜ける「従業員型」とは…業者に接触した特定社労士が読み解く』、週刊SPA!『稼ぎながら健康になれ 50代からのガテン系仕事』、他
