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【徹底解説】2026年規制改革の最前線!「労働条件明示」のデジタル完全解禁に向けた社労士の戦略的提言

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 1 日前
  • 読了時間: 7分
労働条件明示

令和8年(2026年)2月16日、内閣府にて開催された「第6回 働き方・人への投資ワーキング・グループ」において、日本の労務管理の歴史を塗り替える一歩となる議論が行われました。テーマは「オンラインによる労働条件の明示方法の見直し」です。

これまで「紙」が絶対的な主役だった労働契約の現場に、ついに「デジタル・デフォルト」の波が押し寄せています。本記事では、社労士の視点から、今回の規制改革の核心、制度の変遷、そして企業が今取るべき具体的な対策を、圧倒的な情報量で徹底解説します。


1. 【制度の本質と変遷】なぜ今、「デジタル化」がこれほどまでに叫ばれるのか

労働基準法第15条第1項は、労働契約の締結に際し、使用者が労働者に対して賃金や労働時間などの労働条件を明示することを義務付けています。これは、条件の不明確さによる紛争を未然に防止するための、労務管理の「根幹」ともいえる規定です。

労働基準法第15条の重みと歴史的背景

労働条件の明示方法は、時代の要請とともに変化してきました。

  • 昭和22年(制定当初):明示方法に特段の規定はなく、口頭でも可能でした。

  • 昭和51年(1976年)改正:賃金に関する紛争が多発したため、賃金事項について「書面の交付」が義務化されました。

  • 平成10年(1998年)改正:労働移動の増大や就業形態の多様化を受け、労働時間などの主要事項も書面交付の対象に追加されました。

  • 平成31年(2019年)4月施行:IT活用の推進を目的に、「労働者が希望した場合」に限り、FAXや電子メール、SNSによる明示が初めて解禁されました。

  • 令和6年(2024年)4月施行:無期転換ルールや就業場所・業務の変更範囲の明示など、さらなる詳細事項の追加が行われました。

現行制度の「壁」と政府・経団連の狙い

現在の法律では、電子的な方法での明示はあくまで「例外」扱いです。具体的には、以下の3つの制約が課されています。

  1. 労働者の希望が前提:労働者が希望しない限り、勝手にデジタル送信することは法令違反(30万円以下の罰金対象)となります。

  2. 出力・書面作成が可能であること:受信側で印刷できる形式(PDF等)に限られます。

  3. 個別の希望確認:実務上、企業は一人ひとりに「電子でいいですか?」と確認し、その記録を保存する工数が発生しています。

これに対し、経団連は「書面交付を原則とする現行法令は、今日の事業活動から乖離している」と断じ、デジタルを標準とする「オプトアウト方式(希望者のみ書面対応)」への転換を強く要望しています。


2. 【2026年議論の核心】DXを阻む「保護の正義」と「実務の悲鳴」

今回のワーキング・グループで浮き彫りになったのは、厚生労働省の「慎重な保護姿勢」と、企業の「生産性向上への渇望」の激しい衝突です。

経団連が突きつける「現場の不都合な真実」

経団連の資料には、デジタル化を柔軟に認めないことによる具体的な弊害が列挙されています。

  • 工数の増大:採用内定者マイページで条件を示しているのに、法的な「希望確認」のために別途プロセスが必要で、対応工数が増加しています。

  • 郵送リスクの限界:新卒採用等で書面を郵送しても、住所相違や不在で返送されるケースが多く、個人情報を含む資料の取り扱いに苦慮しています。

  • デジタルネイティブ世代の感覚:SNSやAIが普及する中、書面交付を求める労働者はほとんどおらず、行政の対応の遅れが指摘されています。

厚生労働省が守ろうとする「労働者の砦」

一方、厚生労働省は、過去の労働政策審議会での懸念をベースに慎重な姿勢を維持しています。

  • デジタル・デバイド:全ての労働者が電子的な対応ができる環境にない場合、自らの条件を後で確認できなくなる恐れがあります。

  • データの改ざん・削除リスク:デジタルデータは容易に削除や変更ができるため、紛争時の証拠能力担保に慎重さが求められます。

  • 到達確認の重要性:メールのサーバー不具合や受信拒否などで「実は届いていなかった」という事態を極端に警戒しています。

既に先行する「成功事例」:SmartHR等の活用

議論では、株式会社SmartHRのようなクラウド人事労務ソフトの活用事例も紹介されました。

  • 合意・通知のオンライン完結:雇用契約書や労働条件通知書をデジタルで配付し、従業員の確認日時やIPアドレスを自動記録することで、法的要件を満たしつつ効率化を実現しています。

  • 退職後の閲覧性:退職後も一定期間、本人が情報を閲覧できる仕組みにより、厚労省の懸念する「後日確認」の担保も可能です。


3. 【社労士の提言】トラブルを防ぐ!デジタル明示「5つの鉄則」と実務上の注意点

今回の規制改革で「希望確認の簡素化」が進むとしても、労働条件明示の本質は「言った言わないの争いを防ぐ」ことにあります。改正を見据えつつ、今すぐ実務で徹底すべきポイントを整理します。

① 「印刷可能性」の担保(PDF形式がベスト)

SNSのテキストのみの送信は、文字数制限や保存期間の関係で推奨されません。必ず、PDF等のファイル形式を添付し、労働者が後から印刷・保存できる状態を整えてください。

② 二要素認証とログの保存

SmartHR等のシステムを導入する場合、ログイン時の二要素認証や、署名時のIPアドレス・タイムスタンプの記録を行うことで、本人の「真正な同意」であることを証明できるようにしてください。

③ 「希望確認」プロセスのシステム化

現行法下では依然として「希望」が必要です。入社手続きシステムへのログイン時に「電子交付に関する利用規約」に同意させるなど、業務フローの中に自然に組み込む工夫が求められます。

④ 送信側の詳細明記

電子メール等で明示する場合、単にファイルを送るだけでなく、以下の項目を本文またはファイルに記入することが「望ましい」とされています。

  • 明示を行った日付

  • 送信担当者の個人名

  • 事業場や法人の名称

  • 使用者の氏名

⑤ 退職者への配慮

労働者が退職した後、数年経ってから未払い残業代等を巡り条件を確認したいと申し出ることがあります。クラウドサービスを利用する場合、退職後も一定期間は本人がダウンロードできる権限を付与しておくことが、紛争防止の観点から非常に有効です。


4. 【今後の動向】労働法制全体のデジタルシフト

今回の検討は、労働条件通知書だけに留まりません。ワーキング・グループの回答一覧によれば、以下のような広範囲な規制改革が並行して進んでいます。

行政手続きの「本社一括届出」の拡大

現在、36協定などは事業場ごとの締結・届出が原則ですが、システム改修(e-Gov連携等)により、令和7年度中にはさらなる一括届出の利便性向上が予定されています。

外国人雇用状況届出のオンライン一括化

雇用保険被保険者ではない外国人(留学生アルバイト等)の届出について、現在は各ハローワークへの個別ログインが必要ですが、本社等での一括オンライン届出が可能になるようシステムの改修が検討されています。

労働時間の柔軟化と深夜割増の見直し

在宅勤務の普及に伴い、育児・介護中の労働者が自発的に深夜に働く際の割増賃金規制のあり方についても、労働政策審議会で激しい議論が続いています。


5. 企業が今、準備すべきこと

「書面が原則」という古いパラダイムは、2026年を境に完全に崩壊しようとしています。しかし、デジタル化は単なる「手間削減」の手段ではありません。それは、「情報の透明性を高め、従業員との信頼関係を強固にする」ための戦略的な投資です。

法改正を待つのではなく、今あるクラウドツール(マネーフォワードやSmartHR等)を最大限に活用し、コンプライアンスと生産性を両立させた「次世代の労務管理」へと舵を切ってください。


*ご参考:第6回 働き方・人への投資ワーキング・グループ(内閣府)


坂の上社労士事務所/給与計算・就業規則・助成金・社会保険・労務相談・人事評価(東京都千代田区神田三崎町/全国対応)

マネーフォワード公認プラチナメンバー/マネーフォワード給与・勤怠 代表 特定社会保険労務士 前田力也

水道橋オフィス 東京都千代田区神田三崎町2-17-5 稲葉ビル203

国分寺オフィス 東京都国分寺市本町4-7-5 サンプラビル2階 【立川市・八王子市・国分寺市・武蔵野市など多摩エリア・中央線沿線対応】

電話:03-6822-1777


*労働基準法やその他の法改正情報は、常にアップデートされます。本記事の内容は令和8年2月時点の情報に基づいています。実務への適用に際しては、必ず最新の法令および通知をご確認ください。


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