【社労士が解説】連続勤務「最長48日間」を短縮へ!厚労省の労働基準法改正、裁量労働拡大と実務への影響を3つの視点で読み解く


2026年9月16日、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会において、労働基準法などの改正に向けた本格的な議論が再開されました。2019年から順次施行された働き方改革関連法は、施行から5年後の見直しが法律で定められており、まさに今がその見直し時期に当たります。政府の「日本成長戦略」や「経済財政運営と改革の基本方針2026」において、心身の健康維持と柔軟で多様な働き方の実現を目指す方針が示されたことを受け、厚労省を中心に制度の見直しが検討されています。
今回の労働基準法改正の議論は、連続勤務「最長48日間」を短縮する規制強化や、厚労省が実態調査を進める裁量労働拡大、年次有給休暇のあり方、さらには労使コミュニケーションの要となる過半数代表者の適正化など、企業の実務に直結する重要なテーマが目白押しです。厚生労働省は、2027年の通常国会に改正案を提出することを目指しており、今後の動向から目が離せません。
本記事では、社会保険労務士の専門的な知見から、今回の審議会で示された論点を「3つの視点」に要約し、法改正の経緯や政府の狙い、そして今後の実務上の注意点について深く解説します。
1.連続勤務「最長48日間」を短縮へ。労働者の健康を守る規制強化
第一の視点は、労働者の健康確保に向けた連続勤務の規制強化です。今回の厚労省の議論でも特に注目されているのが、連続勤務「最長48日間」を短縮するという方針です。
現在の労働基準法第35条では、原則として「毎週少なくとも1回の休日」を与えることが義務付けられていますが、例外として「4週間を通じ4日以上の休日」を与える変形休日制(4週4休制)も認められています。この例外規定を活用し、最初の4週間の最初に4日の休みを置き、次の4週間の最後に4日の休みを配置することで、現行法上は「最長48日間の連続勤務」が可能となっています。さらに労使協定を結べば休日に出勤させることもできる仕組みです。
しかし、長期の連続勤務は労働者の健康リスクを著しく高めます。厚労省の精神障害の労災認定基準においても、心理的負荷がかかる具体的な出来事の一つとして「2週間以上の連続勤務」が明記されています。これを受け、厚労省の有識者研究会は「13日を超える連続勤務をさせてはならない」旨の規定を労働基準法上に設けるべきだと提言しました。
連続勤務「最長48日間」を短縮し、労働者の健康を確保するという観点については、労使双方でおおむね意見が一致しています。一方で、使用者側からは災害時の復旧作業などを念頭に置いた例外措置を求める声もあり、具体的な制度設計をどう行うかが今後の課題です。
【実務上の注意点と今後の見通し】
実務においては、法定休日と法定外休日の設定や、シフト管理のルールを根本から見直す必要があります。特に、建設業や教育・学習支援業など、連続勤務が発生しやすい業種においては、人員配置の最適化や業務の平準化が急務となります。また、労働者の休息を確保するための「勤務間インターバル制度」の義務化や、業務時間外の連絡を制限する「つながらない権利」の法制化も厚労省の論点となっており、企業は長時間労働を前提とした働き方からの脱却をさらに推し進める必要があります。
2.厚労省が議論する「裁量労働拡大」と年次有給休暇制度の見直し
第二の視点は、働き方の柔軟性を高める裁量労働拡大と、年次有給休暇の運用ルール整備です。
まず、審議会で最大の争点となっているのが裁量労働制の対象拡大です。裁量労働制は、あらかじめ決められた時間を働いたとみなす制度ですが、使用者側(経団連)は「特定の顧客向けに商品やサービスを開発して提案・交渉する業務」などを対象業務に追加し、裁量労働拡大を進めるよう求めています。しかし、労働者側(連合)は、裁量労働拡大が長時間労働を招きかねないとして強く反発しており、厚労省は企業における運用状況の調査結果を踏まえて議論を深める方針です。
次に、年次有給休暇制度に関する見直しです。現在、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者には「年5日の時季指定義務」が課されています。しかし、年度途中に育児休業から復帰した労働者や退職予定の労働者など、出勤可能な日数が少ない労働者に対しても一律に5日の指定義務が課されている現状について、残日数に応じた日数の調整(按分など)を行うべきかが議論されています。
また、時間単位の年次有給休暇制度の導入率も上昇しており、2025年の調査では30.4%の企業が導入しています。現在、時間単位の年休は「年に5日」が上限とされていますが、政府の規制改革実施計画においては、この上限を「付与日数の50%程度」に緩和することなどの見直しの要否を厚労省が検討することが求められています。
さらに実務上重要なのが、年休取得時の賃金算定方法の統一です。現行法では、「平均賃金」「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」「標準報酬月額の30分の1」の3つから選択可能ですが、算定方法によって労働者の受領額に差が生じる問題がありました。そのため、原則として「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」に一本化し、法律で明確に規定することが検討されています。
【実務上の注意点と今後の見通し】
裁量労働拡大が実現した場合、対象となる従業員の健康確保措置がより一層厳格に求められることになります。また、育児休業復帰者等に対する時季指定義務が緩和されれば、実務上の管理負担は軽減されます。時間単位年休の上限が拡大されれば、通院や育児など労働者の多様なニーズに応えられる一方で、勤怠管理はより複雑になります。企業は、厚労省の動向を注視しつつ、複雑化する休暇制度に正確に対応できる勤怠管理システムの導入・改修を視野に入れる必要があります。
3.労使コミュニケーションの基盤強化と過半数代表者の適正化
第三の視点は、労使協定(36協定など)の締結や就業規則の作成・変更において労働者側の当事者となる「過半数代表者」の適正化です。
過半数労働組合がない事業場において、過半数代表者は極めて重要な役割を担います。しかし、独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(2025年速報値)によると、過半数代表者の選出方法について、「使用者(事業主や会社)が指名した」が13.6%に上り、不適正な選出が依然として残存していることが明らかになりました。また、職位別に見ると、労使協定の締結当事者となれない「工場長、支店長クラス」などの管理監督者が選出されている事例も存在します。
過半数代表者自身のアンケートでも、活動に対して「非常に負担を感じた」「やや負担を感じた」と回答した割合が合わせて70.9%に上っています。負担の理由として、「労働者の意見が職種や雇用形態によって異なる」「協定内容の是非を判断するための情報が不足している」「会社との協議に対応する時間の確保が難しい」などが挙げられています。
これらを踏まえ、厚労省の審議会では以下の項目を労働基準法上に明記することが議論されています。
適正な選出と役割の明確化
選出手続(投票や挙手など)を法律に規定し、過半数代表者が「事業場の全ての労働者の公正な代表として手続を行うべきこと」を義務付ける。
情報提供と便宜供与
使用者は、事業場内の労働時間の実態などの情報を過半数代表者に提供することや、活動のための便宜供与(事務機器の提供、労働時間内の活動に対する賃金保障など)を行うことを法律上規定する。
不利益取扱いの禁止
過半数代表者であること等を理由とした解雇や降格などの不利益取扱いを禁止する規定を法律へ格上げし、違反した場合は協定が無効になることの明確化を図る。
【実務上の注意点と今後の見通し】
過半数代表者の選出手続が厳格化されれば、これまでのような「形式的な選出」や「会社主導の指名」は完全に違法となり、労使協定自体が無効と判断されるリスクが高まります。企業は、イントラネットでの投票システムの構築など、民主的で透明性の高い選出プロセスを整備するとともに、過半数代表者が職務を遂行するための時間の確保や情報開示を積極的に行う「実質的な労使コミュニケーション」の構築が求められます。
労働基準法改正/厚労省の動向を踏まえた課題解決と今後の見通し
今回の労働基準法改正に向けた厚労省の議論は、連続勤務「最長48日間」の短縮による労働者の健康確保と、裁量労働拡大を含む柔軟な働き方の実現を両立させることを目的としています。法律の改正や施行にはまだ時間がかかりますが、企業は法改正を待つのではなく、現在の労務管理の課題を洗い出し、先回りして対応していくことが重要です。
特に、連続勤務の防止や有給休暇の適切な運用は、従業員の定着率向上や企業の採用力強化にも直結します。また、形骸化しがちな過半数代表者の選出プロセスを適正化し、意義のある労使コミュニケーションを実現することは、組織の風通しを良くし、生産性の向上に寄与します。自社の就業規則や労使協定の内容、勤怠管理の運用ルールを今一度点検し、来るべき労働基準法改正に備えた持続可能な組織づくりを進めていきましょう。
労働政策審議会 (労働条件分科会)(厚生労働省)
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