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【週刊文春/文春オンラインから取材を受けました】助成金制度の「歪み」と国家資格制度の空洞化――社会保険労務士(社労士)が鳴らす警鐘

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 10 時間前
  • 読了時間: 5分
助成金

令和8年3月、東証上場企業であるW社による助成金受給スキームに関する疑惑が報じられました。現時点ではあくまで週刊文春による報道の段階であり、行政当局による公式な判断が下されたわけではありません。しかし、報道直後の株価がストップ安水準まで記録したという事実は、市場が「助成金」という公金を原資とするビジネスの不透明性に対し、極めて厳しい審判を下したことを意味しています。

私が今回の取材を通じて、20代後半という若さながら極めて緻密な裏取りを行っていた記者と対峙した際に感じたのは、この問題が単なる「手続きの不備」ではなく、社会保障制度の根幹を揺るがす「公益性の毀損」として捉えられているという熱量でした。


1.リスキリング支援コースに潜む「価格設定」の疑義

今回、議論の的となっているのは「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」です。政府が「人への投資」を掲げ、五年間で一兆円の予算を投じる目玉政策の一つですが、その高額な助成率(経費の75%)が、皮肉にも不自然な価格設定を誘発する温床となっている懸念があります。

①経済的合理性と支給要領の乖離

厚生労働省の支給要領では、受講料が他の講座に比べて「著しく高額」である場合や、合理的な理由なく安価な契約を避けた場合は支給対象外になると明記されています。報道されたスキームにおいて、一人あたり年間九十万円を超える研修費が設定されていた点については、一般的なITリテラシー研修の市場相場から見て、行政が求める「経済的合理性」をいかに説明するかが大きな焦点となります。

②親子間取引という不透明な領域

特に、親会社が仕入れたコンテンツを子会社へ高額で再販するスキームは、実地調査(会計検査院や労働局の調査)において、実態を伴う教育事業なのか、あるいは単なる「資金移動の手段」なのかが厳しく問われることになります。


2.社会保険労務士法が定める「独占業務」の重み

本事案において、最も深刻かつ議論を深めるべきは、社会保険労務士法という国家資格制度そのものの形骸化です。

①法第二十七条:無資格者による「申請代行」の禁止

社会保険労務士法第二十七条は、資格を持たない法人が報酬を得て助成金の申請代行を行うことを厳格に禁じています。W社のような一般事業法人が、助成金の受給を前提とした「パッケージ商品」を販売し、受給額に連動した報酬(ロイヤリティ)を得る行為は、実質的な成功報酬型の申請代行と見なされるリスクが極めて高い。これは資格制度の根幹を揺るがす重大な問題です。

②法第二十三条の二:非社会保険労務士との提携の禁止

私が同じプロフェッショナルとして最も強い憤りを感じるのは、このスキームに加担しているとされる「下請け社労士」の存在です。社会保険労務士法第二十三条の二は、無資格者から顧客の紹介を受け、あるいはその名義を貸すような形で業務を行う「非社労士との提携」を禁じています。


国家資格は、国民からの信頼の上に成り立つものです。直接クライアントの顔を見ず、経営実態や労働実態を確認することもなく、中抜き業者から流れてくる書類に判を突くだけの行為は、専門家としての職能倫理を自ら放棄していると言わざるを得ません。このような「下請け社労士」が、脱法的なスキームの「道具」として使われている現状を見過ごすことは、真面目に職務を全うしている大多数の社労士に対する冒涜でもあります。


3.今後の動向――「週10時間ルール」と公金の厳格化

今、この問題が報じられたことには大きな意味があります。それは、雇用保険制度そのものが大きな転換期を迎えているからです。

①雇用保険加入対象の拡大

今後、雇用保険の加入要件は「週十時間以上」へと拡大される方針です。これにより、パートやアルバイトといった短時間労働者からも広く保険料が徴収されることになります。 国民が汗水垂らして納めた貴重な財源が、実体のない「数字合わせ」の研修によって、特定企業の利益として搾取される。これは社会保障の公平性を著しく損なう「本末転倒」な事態です。

②監視の目は「形式」から「実態」へ

労働行政は今後、形式上の書類だけでなく、研修のログ、受講後のスキル習得状況、そして何より「支払価格の妥当性」について、より踏み込んだ実態審査を行うようになるでしょう。不正受給に対する罰則は厳格化の一途を辿っており、一度「不適切」の烙印を押されれば、企業の信頼回復は容易ではありません。


専門家の矜持と企業の社会的責任

今回の疑惑報道は、私たち専門家にとっても「自戒」の機会となるべきです。助成金は「もらえるものはもらう」という安易なマネーゲームではなく、企業の生産性向上と労働者の福祉に資するための「投資」であるべきです。

経営者の皆様にお伝えしたいのは、上場企業の看板や「実質タダ」という甘い言葉に惑わされず、その取引に「経済的な合理性」と「専門家の誠実な関与」があるかを冷静に見極めていただきたいということです。正道を行くことこそが、最も確実なリスクマネジメントなのです。


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坂の上社労士事務所/給与計算・就業規則・助成金・社会保険・労務相談・人事評価(東京都千代田区神田三崎町/全国対応)

マネーフォワード公認プラチナメンバー/マネーフォワード給与・勤怠

代表 特定社会保険労務士 前田力也

水道橋オフィス 東京都千代田区神田三崎町2-17-5稲葉ビル203

国分寺オフィス 東京都国分寺市本町4-7-5サンプラビル2階【立川市・八王子市・国分寺市・武蔵野市など多摩エリア・中央線沿線対応】

お問い合わせ support@sakanouehr.com 電話03-6822-1777

メディア取材実績:

  • 週刊文春((株)文藝春秋)(【証拠ビデオ入手】東証上場企業・ライトアップが指南する厚労省助成金“不正受給”「おいしすぎる」「数千万円が自由に」)

  • TOKYO MX(「堀潤 Live Junction」「医療保険制度改革で…負担増える逆転現象も」)

  • 他多数

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