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【社労士解説】法人の役員である個人事業主等の社会保険適用基準が明確化 ― 不適切な保険料削減スキームへの厳格な対応

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 3月26日
  • 読了時間: 5分
法人の役員である個人事業主等の社会保険適用基準

令和8年3月18日、厚生労働省より「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」という極めて重要な通知が発出されました。この通知は、一部で行われていた不適切な社会保険料削減スキームに対し、実務上の判断基準を明確化し、適正な適用を促すものです。

本記事では、特定社会保険労務士の視点から、この通知が実務に与える影響や、企業・個人事業主が留意すべき点について、3つの主要な視点で深く解説いたします。


1. 改正の背景と政府の狙い:制度の公平性を揺るがす事態への即応

今回の通知が発出された最大の理由は、社会保険制度の根幹である「負担の公平性」を維持することにあります。

社会保険料削減スキームの蔓延

近年、個人事業主やフリーランスを便宜上「法人の役員」として登録し、極めて低い役員報酬を設定することで、本来負担すべき国民健康保険料や国民年金保険料を回避する手法が一部で広まっていました。厚生労働省の調査によれば、役員報酬を支払う一方で、それ以上の金額を「会費」等の名目で法人側へ支払わせている不適切な実態が確認されています 。


政府の狙い:実態のない適用の排除

政府の狙いは、以下の点に集約されます。

  • 公平性の確保:本来、国民健康保険・国民年金に加入すべき者が、実態を伴わずに社会保険へ加入し、不当に低い保険料で給付を受けることを防ぐ。

  • 基準の明確化:現場の判断を統一し、遺漏のない取り扱いを徹底する。

  • 不適切事例の是正:実態のない被保険者資格については、遡って喪失させるなどの厳格な対処を行う。


2. 被保険者資格の判断基準:実態に基づく「総合的判断」の詳細

今回の通知では、法人の役員が健康保険・厚生年金保険の被保険者となるための要件が、より具体的に示されました。基本的には「労務の対償として報酬を受けていること」が前提となりますが、その実態は以下の2つの観点から厳格に審査されます。

① 経営参画を内容とする「経常的な労務の提供」

単に役員として登記されているだけでなく、法人経営に実質的に関与しているかどうかが問われます。

  • 認められないケース(例) 

    1. 役員会に出席はしているが、連絡調整や職員への指揮監督に従事していない。

    2. 求めに応じて意見を述べるだけの立場にとどまっている。

    3. アンケート回答や勉強会参加など、単なる「自己研さん」に過ぎない活動。

    4. 単なる活動報告や情報共有のみで、経営への直接的な参画が認められないもの。

    5. 事業紹介の協力やお願いレベルで、労務提供の義務を負っていないもの。

  • 総合的判断の要素

    1. 指揮命令権:具体的な業務について、従業員や他の役員を指揮監督しているか。

    2. 決裁権:担当業務において最終的な決裁権限を有しているか。

    3. 役員間の調整:役員会において連絡調整や代表者への報告業務を行っているか。

    4. 勤務実態:会議出席以外の業務の有無や、そのための出勤頻度。

② 業務の対価としての「経常的な報酬の支払い」

報酬の支払われ方についても、経済的な合理性が厳しくチェックされます 。

  • 会費等との相殺の禁止:役員報酬を上回る額の会費等を法人(または関連法人)に支払っている場合、原則として業務の対価としての支払いは認められません。

  • 実質的な条件の確認:関連法人への会費支払いが役員就任の実質的な条件となっている場合などは、法人に使用されているとは認められません。

  • 報酬に含まれないもの:役員会への出席に対する報酬や、旅費などの実費弁償、退職手当(前払いを除く)などは、ここでの「報酬」には該当しません。


3. 実務上の注意点と今後の動向:遡及取り消しのリスクとコンプライアンス

この通知の発出により、今後の実務現場ではより厳格な確認作業が行われることになります。

資格喪失と届出の不備

調査の結果、法人に使用されている実態がないと判断された場合、被保険者資格を喪失させる手続きが必要となります。事実に反する資格取得の届出は、健康保険法第48条および厚生年金保険法第27条に違反する行為として明記されており、法的リスクを伴うことを理解しなければなりません。


今後の動向:行政調査の強化

今回の通知は、全国健康保険協会、健康保険組合、日本年金機構の理事長宛に発出されており、現場での審査基準がこの内容に準拠して統一されます。今後は、以下のようなケースで詳細な調査や疎明資料の提出を求められる可能性が高まります。

  • 役員報酬が標準報酬月額の最低ランク付近で固定されている。

  • 個人事業主が法人の役員を兼務しており、法人から多額の逆流(会費支払い等)がある。

  • 役員としての勤務実態(議事録や決裁書類等)が客観的に証明できない。


社労士前田の助言

社会保険制度は、適正な加入があって初めてその恩恵を享受できるものです。安易な「保険料削減」を目的とした歪んだ運用は、将来の年金受給や健康保険の給付において大きな不利益を招く恐れがあります。企業経営においては、制度の趣旨を正しく理解し、実態に見合った適正な届出を行うことが、長期的なコンプライアンス経営の基盤となります。


法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて(厚生労働省)


坂の上社労士事務所/給与計算・就業規則・助成金・社会保険・労務相談・人事評価(東京都千代田区神田三崎町/全国対応)

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