【2027年義務化】その残業が「腎臓」を壊す?健診に追加される「血清クレアチニン検査」の衝撃と、企業が直視すべき長時間労働の真実
- 坂の上社労士事務所

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令和8年4月28日、厚生労働省より「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」および関係通達が公布されました。今回の改正は、日本の労働現場における健康管理の在り方を根本からアップデートする、極めて重要な転換点となります。
本稿では、特定社会保険労務士の視点から、今回の改正が企業実務にどのような影響を与え、政府がどのような未来を見据えているのか、3つの重要視点から深く解説します。
1. 腎機能検査の義務化:長時間労働対策の新たな「指標」
今回の改正の最大の目玉は、一般健康診断(雇入時、定期、特定業務従事者、海外派遣労働者)の検査項目に「血清クレアチニン検査」が追加されることです。施行日は令和9年4月1日です。
なぜ今「腎臓」なのか?政府の狙い
厚生労働省が血清クレアチニン検査を追加した背景には、長時間労働と慢性腎臓病(CKD)の発症リスク、および腎機能低下の関係性が科学的に裏付けられたことがあります。
これまでのメタボ対策を中心とした「生活習慣病予防」に加え、過重労働が内臓に与えるダメージを数値化し、早期発見・早期介入につなげるのが政府の狙いです。
eGFR(推算糸球体濾過量)による判定
診断では血清クレアチニンの値から算出される「eGFR」を用います。これにより、従来の尿検査だけでは把握できなかった軽度の腎機能低下者を可視化できます。
労働基準監督署への報告
健診結果報告(様式第5号)において、この有所見者数を報告することが義務付けられます。
企業にとっては、単なる項目の増加ではなく、「労働時間管理の不備が、従業員の慢性的な内臓疾患(CKD)に直結している」という臨床的なエビデンスを突きつけられることになります。
2. 廃止された「喀痰検査」と、浮上する「個人情報」の壁
今回の改正では、長年実施されてきた「喀痰(かくたん)検査」が義務項目から削除されます。しかし、ここには法務・実務上の重要な留意点があります。
「義務ではない検査」の結果をどう扱うか
喀痰検査の削除は、胸部エックス線検査の結果に基づき結核感染が疑われる者に対し、健診機関での検査を待たず速やかに医療機関の受診を勧奨することが適当であるという検討会報告を踏まえたものです。
実務上、最も注意すべきは「要配慮個人情報」の取り扱いです。
法令の根拠の喪失:施行後は安衛法に基づく義務項目ではなくなります。
本人同意の必須化:義務でない検査の結果を取得する場合、事業者は労働者本人の同意を得る必要があります。
これまでの慣習で「健診機関から一律にデータを回収する」運用を続けていると、意図せず個人情報保護法に抵触するリスクがあるため、社内規定や運用フローの見直しが不可欠です。
3. 国際標準への適合:AST・ALT・γ-GTへの名称変更
肝機能検査の酵素名が、最新の国際標準(IFCC勧告)に合わせ、以下のように改称されます。
GOT→AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)
GPT→ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)
γ-GTP→γ-GT(ガンマグルタミルトランスフェラーゼ)
事業者や労働者が従来の名称に馴染みがある場合、混乱を避けるため、健診結果の通知に「新旧名称を併記」することは差し支えないとされています。
実務担当者のための「専門用語・医療用語」徹底注釈
本改正を理解し、社内周知を行う上で欠かせない重要用語を分かりやすく解説します。
用語 | わかりやすい解説 |
血清クレアチニン | 筋肉を動かした際に出る老廃物の一種です。通常は腎臓で濾過されて尿として排出されますが、腎臓の働きが悪いと血液中に溜まります。今回の改正で、腎臓の健康状態を測る主要な指標として追加されました。 |
eGFR(推算糸球体濾過量) | クレアチニンの値に年齢と性別を組み合わせて計算する「腎臓が1分間にどれだけ血液をきれいにできるか」を示す数値です。腎機能のレベルを判定する最も正確な指標の一つとされています。 |
慢性腎臓病(CKD) | 腎臓の働きが徐々に低下したり、蛋白尿が出続けたりする状態の総称です。自覚症状がほとんどなく進行し、放置すると人工透析が必要になるため「サイレントキラー」とも呼ばれます。長時間労働との関連が指摘されています 。 |
喀痰(かくたん)検査 | 痰(たん)の中に結核菌やがん細胞が含まれていないかを調べる検査です。今回の改正では、エックス線検査後の速やかな受診勧奨を優先するため、労働安全衛生法上の義務項目から削除されました。 |
要配慮個人情報 | 不当な差別や偏見が生じないよう、取り扱いに特に配慮を要する個人情報(病歴、健康診断の結果など)を指します。法定義務のない検査結果を会社が取得するには、原則として本人の明確な同意が必要です。 |
高度プロフェッショナル制度 | 高度な専門知識を持ち、一定以上の年収(1,075万円以上)がある労働者を対象に、労働時間や休日等の規制から除外する制度です。今回の改正により、この制度下での「臨時の健康診断」にも血清クレアチニン検査が追加されました。 |
健康管理時間 | 高度プロフェッショナル制度の対象者が、会社にいた時間と社外で働いた時間の合計を把握する指標です。この時間が一定を超えた場合に、臨時の健康診断が必要となります 。 |
AST / ALT / γ-GT | いずれも肝臓の状態を示す酵素です。これまでは「GOT/GPT/γ-GTP」と呼ばれていましたが、国際的な学術基準(IFCC)に合わせて名称が変更されました。 |
今後の動向と専門家としての知見
今回の改正は、政府が掲げる「働き方改革」が、労働時間の短縮という「形式」から、従業員の健康寿命の延伸という「質」のフェーズに入ったことを示唆しています。
バックオフィスのデジタル化と健康管理の融合
令和9年(2027年)の施行に向け、企業は以下の準備を段階的に進める必要があります。
クラウド型健康管理システムの導入・改修:eGFRの自動算出や新旧名称への対応。
就業規則および安全衛生規定の改定:健診項目変更に伴う法的根拠の整理。
産業医との連携スキーム再構築:腎機能有所見者に対する就業制限等の基準策定。
特に、マネーフォワード クラウド等の勤怠・給与システムを活用している企業においては、「労働時間データ」と「健診結果データ」を掛け合わせ、ハイリスク者を事前に予測する「データヘルス経営」への移行が加速するでしょう。
健康経営のパラダイムシフト
「とりあえず健診を受けさせていればいい」という時代は終わりました。これからは、血清クレアチニン(腎機能)という新たな「鏡」を通じて、自社の働き方が従業員の心身にどのような影響を与えているかを科学的に分析する力が求められます。
当事務所では、今回の改正に伴う実務対応から、最新のクラウドツールを用いた効率的な管理体制の構築まで、トータルでサポートしてまいります。
労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行等について(令和8年4月28日基発0428第9号)
一般健康診断における健康診断項目の取扱い等について(令和8年4月28日基発0428第10号)https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T260515K0030.pdf
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法関係の解釈について」の一部改正について(令和8年4月28日基発0428第11号)https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T260515K0040.pdf
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