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【令和9年4月施行】定期健康診断の項目改正を徹底解説~血清クレアチニン検査の追加と企業実務への影響~

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 14 時間前
  • 読了時間: 8分
健康診断

人事労務担当者および経営者の皆様、日々の企業運営と従業員の健康管理、誠にお疲れ様です。従業員の健康管理は企業の安全配慮義務の根幹をなすものであり、健康診断はその第一歩です。

令和8年4月28日、労働安全衛生規則等の一部を改正する省令が公布されました。これにより、令和9年4月1日から労働安全衛生法に基づく定期健康診断等の診断項目の取扱いが一部変更されます。今回の改正は、単なる検査項目の入れ替えにとどまらず、疾病構造の変化に対応し、働く世代の健康寿命を延ばすための重要な方針転換を含んでいます。

本記事では、厚生労働省が公表したリーフレットおよび関連通達を分析・解読し、社会保険労務士の視点から、本改正の内容、政府の狙い、そして企業が取るべき実務上の対応について、わかりやすく解説いたします。


【3つの視点で要約】今回の改正のポイント

お忙しい方向けに、まずは本改正の核心を3つの視点で要約します。

  1. 「血清クレアチニン検査」の追加による慢性腎臓病対策の強化

    新たに腎機能の評価指標である「血清クレアチニン検査」が追加されます。これにより、自覚症状に乏しい慢性腎臓病(CKD)の早期発見と重症化予防を図るのが国の狙いです。  

  2. 役割を終えた「喀痰検査」の廃止と結核対策の転換

    結核の発見を主な目的としていた「喀痰検査」が廃止されます。今後は胸部エックス線検査の結果を重視し、疑いのある労働者に対する速やかな受診勧奨への移行が求められます。  

  3. 健診項目の省略基準の厳格な運用(一律省略の禁止)

    血液検査などの項目を年齢基準などで省略する場合、「個々の労働者ごとに、医師が必要でないと認める」プロセスが必須であることが強く明示されました。医師以外の者による一律の省略判断は不適切な運用となります。  


1.なぜ今、健康診断項目が見直されるのか?〜改正の背景と政府の狙い〜

労働安全衛生法に基づく健康診断の項目は、その時代の社会的な疾病の傾向や医学の進歩に合わせて見直されてきました。今回の改正も、現代の健康課題に直結しています。

沈黙の臓器・腎臓を守る「血清クレアチニン検査」の追加

今回新たに追加される「血清クレアチニン検査」は、腎臓の機能を調べるためのものです。腎臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、機能が低下しても初期段階ではほとんど自覚症状が現れません。気づいた時には慢性腎臓病(CKD)が進行しており、最悪の場合は人工透析が必要となります。人工透析は週に複数回、長時間の通院治療を伴うため、労働者の生活の質を著しく低下させ、就労の継続を極めて困難にします。また、国の医療費負担増大の要因にもなっています。政府は、企業が行う定期健康診断において腎機能検査を義務化することで、働く世代の慢性腎臓病を早期にスクリーニングし、産業医等との連携によって重症化を未然に防ぐことを明確に狙っています。  

役割を終えた「喀痰検査」と結核対策の転換

長年義務付けられてきた喀痰(かくたん)検査が削除されます。かつて結核は国民病として恐れられ、職場での集団感染を防ぐために定期的な検査が必須とされていました。しかし、現在では結核の罹患率は大きく低下しており、無症状の労働者に対して一律に喀痰検査を実施することの医学的意義や費用対効果が見直されました。今後は、胸部エックス線検査の結果に重点を置き、結核感染が疑われる者に対して個別的かつ速やかに医療機関への受診を勧奨する体制へと転換します。  


2.令和9年4月施行・改正の具体的な内容を徹底解剖

それでは、令和9年4月1日から適用される具体的な変更点を確認していきましょう。

1. 血清クレアチニン検査の対象者と省略要件

以下の健康診断において、血液検査の項目に「血清クレアチニン検査」が追加されます。  

  • 雇入時の健康診断  

  • 定期健康診断  

  • 特定業務従事者の健康診断  

  • 海外派遣労働者の健康診断  

  • 高度プロフェッショナル制度に係る「臨時の健康診断」  

ただし、定期健康診断等においては、40歳未満の労働者について、厚生労働大臣が定める基準に基づき「医師が必要でないと認めるとき」は、この検査を省略することができます。なお、雇入時の健康診断においては項目の省略は認められておらず、必須となります。  

2. 喀痰検査の廃止と事後対応

定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、および海外派遣労働者の健康診断において義務づけられていた「喀痰検査」が削除されます。健康診断機関や事業者においては、胸部エックス線検査の結果を踏まえて結核感染が疑われる者に対し、医療機関への速やかな受診勧奨を行うことが求められます。  

3. 肝機能検査の酵素名の変更

国際的な医学基準や医療現場での実態に合わせ、肝機能検査の名称が以下の通り変更されます。  

GOT → AST  

GPT → ALT  

γ-GTP → γ-GT  

ただし、事業者や労働者が旧名称の方が理解しやすい状況がある場合は、健康診断の結果通知において、必要に応じて新名称と旧名称を併記するなどの対応を行っても差し支えないとされています。  


3.社労士が警告する!実務上の注意点と企業の対応策

本改正に向けて、企業の人事労務担当者は令和9年4月までに以下の準備を進める必要があります。法令違反やトラブルを防ぐための実務上のポイントを解説します。

1. 健診機関との事前協議と予算の確保

項目の追加に伴い、1人あたりの健康診断費用が増額となる可能性があります。令和9年度の予算編成に向けて、現在契約している健診機関と早めに協議を行い、費用の見積もりを取得してください。また、新しい名称(AST、ALT等)が自社の給与計算・労務管理システムや健康管理システムと連携できるか、フォーマットの改修が必要ないかも確認しておく必要があります。

2. 安全配慮義務を果たすための「事後措置」の徹底

健康診断は「実施して終わり」ではありません。血清クレアチニン検査の結果に基づき、有所見者に対しては医師の意見を聴取し、事後措置を講じる必要があります。また、医療機関への速やかな受診勧奨など保健指導も不可欠です。前述の通り、腎臓病は自覚症状がないため、有所見となった従業員本人が「痛くもかゆくもないから」と再検査や受診を放置するケースが多発することが予想されます。企業としては、未受診者に対する受診勧奨の記録を残すとともに、産業医や保健師と連携して継続的なフォローアップを行う体制を構築しなければなりません。これを怠り従業員の症状が悪化した場合、企業の安全配慮義務違反が問われるリスクがあります。  

3. 【重要】項目の「一律省略」は違法!医師の個別判断の徹底

今回の法改正の周知において、厚生労働省は「診断項目の省略」について強く注意喚起を行っています。 法令に基づく血液検査等の項目の省略は、個々の労働者ごとに、健康状態の経時的な変化や自覚症状等を勘案し、医師が省略可能であると認める場合においてのみ可能です。 企業の人事担当者や健診機関の事務スタッフなど、医師ではない者が「この従業員は35歳未満だから血液検査は一律でカットしよう」といった事務的な判断を下すなどの不適切な運用が懸念されています。このような運用は労働安全衛生法違反となります。健診機関への申し込みの際、年齢だけを理由にした機械的な項目省略が行われていないか、必ず運用フローを確認してください。  


今後の見通しと企業に求められる「健康経営」の推進

今回の健康診断項目の改正は、国が推進する「治療と仕事の両立支援」をさらに一歩進めるものです。

少子高齢化による労働力不足が深刻化する中、経験豊富な従業員が病気によって離職することは、企業にとって計り知れない損失です。血清クレアチニン検査の導入により、これまでは見過ごされていたかもしれない慢性疾患の芽を早期に摘み取り、従業員が健康で長く働き続けられる環境を整備することが企業の責務となります。

これからの企業経営においては、健康診断を単なる「法定の義務だから仕方なく支払うコスト」として捉えるべきではありません。従業員の健康を重要な経営資源と位置づけ、その保持増進に投資する「健康経営」の実践が、企業の生産性向上や採用力の強化に直結します。

令和9年の施行を一つの契機として、自社の安全衛生管理規程の見直し、産業医との連携強化、そして従業員のヘルスリテラシー向上に向けた社内研修の実施など、総合的な健康管理体制のアップデートをご検討ください。


*労働安全衛生法に基づく 定期健康診断等の診断項目の 取扱いが一部変更になります(令和9年4月から適用)(厚生労働省)


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