【国保逃れが厳格化】東京新聞でも追及した社労士が徹底解説!令和8年9月14日厚生労働省通知に見る社会保険の不適切加入問題への対策と今後の実務対応


2026年(令和8年)9月14日、厚生労働省(保険局および年金局)より、社会保険の実務に携わる関係者にとって非常に重要な通知が発出されました。タイトルは「勤務時間が短い正規型の労働者として事業所に使用されている個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」です。
この通知は、一部で問題視されている社会保険料の負担を不当に軽減しようとする仕組みに対し、国が明確な基準をもって規制を行う姿勢を示したものです。私も以前、東京新聞からの取材に応じ、この問題を徹底追及しましたが、ようやく成果として現れたことに、安堵しています。
本記事では、厚生労働省から公開された資料を専門家である社会保険労務士の視点から分析、解析、解読し、3つの視点で要約した上で、制度改正の背景から実務上の対応策まで、わかりやすく解説します。
社労士の視点で読み解く3つのポイント
「従業員型」の不適切加入に対する基準の明確化
個人事業主などを、労働時間が極端に短い正規従業員として形式的に雇用し、実態としては会費などの名目で報酬を上回る金額を徴収するような手口に対し、原則として社会保険(健康保険および厚生年金保険)の被保険者資格を認めない基準が示されました。
「常用的使用関係」は契約書の文面ではなく実態で審査
社会保険の加入要件である「常用的使用関係」について、単なる契約の文言ではなく、実際の労働日数、労働時間、就労形態、勤務内容などの就労の実態に基づいて個別具体的に審査することが強く打ち出されました。
適正な労務管理とコンプライアンスの重要性の高まり
不適切な社会保険加入は否認されるリスクが高まりました。企業や個人事業主は、安易な保険料削減の手法に頼るのではなく、労働関連法規を遵守し、実態を伴う適正な雇用関係や業務委託関係を構築する必要があります。
1. 通知発出の経緯と政府の狙い
厚生労働省はこれまでも社会保険の適正な適用に努めてきました。直近では、令和8年3月18日付けの通知において、「法人の役員である個人事業主等」が社会保険に加入する際の取扱いを明確化し、不自然な加入形態に歯止めをかけました。
しかし、この対策をすり抜けるように、役員ではなく「従業員(労働者)」という立場で個人事業主を雇用する形態をとる事業所が存在することが明らかになりました。具体的には、個人事業主を「勤務時間が極端に短い正規型の労働者」として雇用し、健康保険や厚生年金保険の資格取得届を国へ提出する一方で、その個人事業主から「会費等」という名目で労働の報酬を上回る金銭を支払わせているという事案です。
政府の最大の狙いは、国民皆保険・皆年金制度の公平性と信頼性を維持することにあります。本来であれば国民健康保険や国民年金に加入して適正な保険料を納めるべき個人事業主が、このような仕組みを利用して不当に低い保険料で健康保険等の恩恵を受けようとすることは、真面目に保険料を納めている多くの国民にとって不公平極まりない状態です。これを是正するため、今回の通知によって明確な基準が示されました。
2. 新たな判断基準の内容と詳細な解説
本通知の核心は、事業所と労働者の間の「常用的使用関係」の有無を判断する際、以下の「①」および「②」の両方に該当する場合、不適切に国民健康保険などの適用を免れている可能性が高いため、原則として被保険者資格を有しないものとして取り扱うと定めた点にあります。
①報酬が業務の対価として経常的な支払いとは認められない場合
受け取る報酬以上の額を「会費等」として事業所に支払っている場合、実質的に業務の対価を得ておらず、経常的な支払いがあるとは言えないと判断されます。
ここでいう「会費等」とは、勉強費、広告費、掲載料、参加料、コンサルタント料、協力金、委託費など、どのような名称であっても対象となります。
さらに、個人事業主が自らの業務を第三者(事業所)に委託し、自らがそこに雇用される形をとって、実質的に自分が支払った委託費等が自らの報酬となっている場合も、常用的使用関係は認められません。事業所の関連法人等へ会費等を支払わせるなど、巧妙に資金を移動させているに過ぎない場合も同様に厳しく判断されます。単に会費等が報酬を下回っていても、報酬の大部分を会費等の支払いが占めることが常態化している場合は、常用的使用関係が否定される可能性があります。
②業務が経常的な労務の提供と認められない場合
労働時間や業務内容の実態から、経常的な労務の提供とは認められないケースです。
勤務時間が極端に短い場合
1週間または1月間の労働時間が極端に短い場合は、経常的な労務提供とは言えず、常用的使用関係が認められない可能性があります。
業務内容や目的が限定的・形式的な場合
単なる知識向上のためのアンケート回答や勉強会への参加など、実態が自己研さんに過ぎないものは労務提供と認められません。また、事業活動の報告や事業の紹介に関する単なる協力、労働者同士の互助的な連携、個人事業活動をそのまま事業所の業務としているものなど、具体的な指揮命令に基づかない形式的な業務も否認の対象となります。
3. 今後の動向と行政の対応/国保逃れ
今回の基準明確化により、年金事務所などによる事業所調査は今後ますます厳格化していくと予想されます。行政は、単に①と②の両方に該当する極端な事例を取り締まるだけでなく、いずれか一方に該当すると認められる事案についても、就労の実態に照らして個別具体的に常用的使用関係の有無を丁寧に判断していく方針を示しています。
行政機関のデータ連携が進む中、給与支払いデータと社会保険の加入状況、さらには関連法人間の資金の流れなども照合され、不自然な加入形態は早期に抽出されるようになるでしょう。表面的な契約書を取り繕うだけの対策は通用しなくなります。
4. 実務上の注意点
企業や社会保険の手続きを担う担当者は、以下の点に十分注意して実務を行う必要があります。
まず、雇用契約書や労働条件通知書の書面を整えるだけでは不十分であることを強く認識してください。労働日数、労働時間、就労形態、勤務内容などの「就労の実態」が調査において厳しく問われます。
とくに、副業を行っている人材やフリーランスの個人事業主を自社の従業員として雇用する場合、その業務内容が本当に自社の指揮命令下で行われる経常的な労務提供であるかを客観的に説明できるようにしておく必要があります。
また、従業員から何らかの費用(システム利用料や研修費など名称を問わず)を徴収している事業所は、それが実質的な報酬の還流とみなされないよう、徴収の合理的な理由と金額の妥当性を明確に示せる体制を整えておくことが必須です。
5. 課題解決に向けた社労士からの見通しと提言
多様な人材を活用し、個人事業主が柔軟な働き方を選択すること自体は、現代の労働環境において推奨されるべきものです。しかし、それは適法で健全な土台の上で行われなければなりません。
社会保険料の負担は企業経営や個人の生活において小さくない問題ですが、それを回避するための不自然な仕組みを採用することは、結果として事業の持続可能性を大きく損なうことになります。仮に社会保険の資格が過去にさかのぼって取り消された場合、過去に免れていた国民健康保険料等を一括で納付し直す必要が生じ、事業所だけでなく個人事業主本人の生活設計にも取り返しのつかない影響を及ぼします。
経営者および個人事業主の皆様は、自社の労働環境や契約関係を見直し、実態に即した適切な手続きを行ってください。業務を委託するのであれば、労働者としての社会保険加入は行わず、適切な報酬額を設定し業務委託契約を締結するべきです。労働者として雇用するのであれば、労働基準法や最低賃金法等の関連法規を遵守し、適正な労働時間の管理と賃金の支払いを行うという基本に立ち返ることが、最も確実な課題解決策となります。 厚生労働省が公表した資料の内容は、社会保険制度の根幹である「常用的使用関係」の意義を改めて社会に問うものです。専門家の支援を活用しながら自社の労務管理の実態を点検し、法令遵守に基づいた健全で力強い事業運営を進めていくことが、これからの時代を生き抜く鍵となります。
勤務時間が短い正規型の労働者として事業所に使用されている個人事業主等に係る被保険者資格の取扱い等について
「国保逃れ」に新たな手口 国の対策をすり抜ける「従業員型」とは…業者に接触した特定社労士が読み解く(東京新聞)I
【本件に関する実務相談・お問い合わせ】
今回の記事に関連する実務のご相談や顧問契約のお問い合わせなど、当事務所までお気軽にご相談ください。メディア関係者様からの解説依頼、取材も随時承っております。
社会保険労務士法人 坂の上社労士事務所/給与計算・就業規則・助成金・社会保険・労務相談・人事評価(東京都千代田区神田三崎町/全国対応)
マネーフォワード公認プラチナメンバー/マネーフォワード給与・勤怠
代表 特定社会保険労務士 前田力也
水道橋オフィス 東京都千代田区神田三崎町2-17-5稲葉ビル203
国分寺オフィス 東京都国分寺市本町4-7-5サンプラビル2階【立川市・八王子市・国分寺市・武蔵野市など多摩エリア・中央線沿線対応】
お問い合わせ support@sakanouehr.com 電話03-6822-1777
メディア取材実績:週刊文春((株)文藝春秋)(【証拠ビデオ入手】東証上場企業・ライトアップが指南する厚労省助成金“不正受給”「おいしすぎる」「数千万円が自由に」、【全社員の4分の1近くがいなくなり…】「ウルトラマン」シリーズの円谷プロで退職者が続出していた、《50万円の賠償金が…》開業25周年のUSJに違法契約の疑い【契約書入手】、《バイオハザードのゾンビ役が告発》USJの出演者は最低賃金以下で働いていた!《報酬は交通費込みで1日1.3万円》)、TOKYO MX(堀潤 Live Junction」「医療保険制度改革で…負担増える逆転現象も」)、東京新聞『国保逃れ指摘「すでに把握しています」と言いつつ野放し 国や年金機構「脱法行為」是正がニブ過ぎるのは…』『維新だけではなかった「国保逃れ」 司法書士グループ企業でも「節約術」疑惑 厚労省「看過できない状況」』、『国保逃れ」に新たな手口 国の対策をすり抜ける「従業員型」とは…業者に接触した特定社労士が読み解く』、週刊SPA!『稼ぎながら健康になれ 50代からのガテン系仕事』、他 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_75927.html
