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【専門家解説】「年齢から能力へ」社会保障の大転換――75歳以上の金融所得が医療費負担に与える真のインパクトとは

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 5 時間前
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金融所得

2026年4月9日、日本の社会保険制度は歴史的な転換点を迎えました。後期高齢者(75歳以上)の金融所得を医療保険料や窓口負担の判定に反映させる「健康保険法等改正案」が衆議院本会議で審議入りしたのです。

これまで、日本の社会保障は「年齢」という記号で現役世代と高齢者を区分してきました。しかし、今回の改正案が突きつけるのは、「真に負担能力(応能)があるのは誰か」という本質的な問いです。特定社会保険労務士の視点から、この制度改正がもたらす「公平性の実現」と「実務上の激震」について、3つの核心的視点で解説します。


1.「申告漏れ9割」の衝撃――不公平な逆転現象の解消

今回の改正の最大の狙いは、確定申告の有無によって生じていた「負担の不公平」を根絶することにあります。

①「知っている人だけが得をする」構造の終焉

現行制度では、上場株式の配当や譲渡益について「源泉徴収あり」の特定口座を選択し、確定申告を行わない場合、その所得は自治体に把握されず、保険料や窓口負担の算定対象から除外されてきました。厚生労働省の推計では、対象となる金融所得の約9割が算定から外れているという驚くべき実態があります。

②具体的ケースに見る「格差」の実態

例えば、年金230万円と金融所得50万円を得ている夫婦世帯を想定してみましょう。

  • 確定申告をした場合: 窓口負担は「2割」、保険料は年額「約17万円」

  • 確定申告をしなかった場合: 窓口負担は「1割」、保険料は年額「約12万円」

全く同じ収入を得ていても、手続きの選択一つで年間5万円以上の保険料差と、窓口負担の倍増が生じているのです。今回の改正は、証券会社などの金融機関に法定調書の提出を義務付けることで、個人の選択によらず、自動的に「実額」を反映させる仕組みを構築します。


2.「全世代型社会保障」への覚悟――政府が描くグランドデザイン

今回の改正は、単なる高齢者への負担増ではなく、社会保障を「年齢別」から「能力別」へと再定義する政府の強い意志の現れです。

①自民・維新の連立政権が掲げる「公平性」

自民党と日本維新の会の連立政権合意書には、「年齢によらない真に公平な応能負担の実現」が明記されました。2025年11月の総合経済対策では、金融所得の勘案を「第一歩」と位置づけており、これは社会保障の歴史におけるパラダイムシフトと言えます。

②現役世代の「支援金」負担という限界点

後期高齢者の医療費の約4割は、現役世代が支払う「支援金」で賄われています。少子高齢化が進展する中で、現役世代の負担はすでに限界に達しており、資産や所得を持つ高齢者に応分の負担を求めることは、制度の持続可能性を保つための「不可避な選択」でもあります。


3. 施行までの「猶予」と、迫り来る「実務上の注意点」

この大規模な制度改正は、一朝一夕には実現しません。そこにはITシステム構築という巨大な壁と、並行して進む別の負担増が存在します。

①「4〜5年」というタイムラインの真意

金融機関が提出する膨大な法定調書をデータベース化し、自治体のシステムと連携させるには、法案成立から2〜3年の準備期間が必要です。実際の保険料や窓口負担への反映は、公布から4〜5年後になると見込まれています。

②同時に進む「OTC類似薬」の負担増という実地

金融所得の反映に加え、実務上注視すべきは「OTC類似薬(市販薬に似た成分の医薬品)」の追加負担です。保湿剤や解熱鎮痛薬など約1,100品目において、薬剤費の4分の1が患者の追加負担となる仕組みが導入される方針です。これは「軽い症状は自ら治す(セルフメディケーション)」を促進し、公的医療保険を「真に治療が必要な領域」へ集中させるための布石です。

③NISA(少子投資非課税制度)の例外

特筆すべきは、NISA口座内での所得は、今回の反映対象から「除外」される点です。これは国が投資を推奨する姿勢を崩さないことを意味しており、高齢世代にとっても、資産形成の手法が社会保険料や医療費負担をコントロールする重要な鍵を握ることになります。


今回の法案審議入りは、日本が「応能負担」というゴールへ向けて大きく一歩を踏み出したことを象徴しています。これからの社会保障は、もはや年齢というフィルターを通した議論では完結しません。

メディアや世論が注視すべきは、「金融所得の次は、金融資産(ストック)の反映か?」「現役世代への拡大はあるのか?」という次のステージです 。私たちは、DXによって透明化された「個人の経済力」が、社会保障の基準となる新しい時代の入り口に立っています。


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坂の上社労士事務所/給与計算・就業規則・助成金・社会保険・労務相談・人事評価(東京都千代田区神田三崎町/全国対応)

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