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【必見】フリーランス法執行の新局面――令和8年2月勧告事例から読み解く「契約の透明化」と「支払規律」の真髄

  • 執筆者の写真: 坂の上社労士事務所
    坂の上社労士事務所
  • 4 日前
  • 読了時間: 6分
フリーランス法

かつて、企業と個人の取引は「自己責任」の名の下に、契約の曖昧さや支払いの遅延が黙認されてきた側面がありました。しかし、働き方の多様化が進み、フリーランス(特定受託事業者)が日本の労働力供給の重要な一翼を担う現在、その取引環境の整備はもはや一企業の倫理問題ではなく、国家の経済基盤を揺るがす構造的課題へと昇華しています。

令和6年11月に施行されたフリーランス法は、独占禁止法や下請法ではカバーしきれなかった「個人対組織」の格差を是正するための「最後のピース」です。令和8年2月に発表された勧告事例は、企業が良かれと思って運用していた「独自の慣習」が、いかに法的なリスクを孕んでいるかを白日の下にさらしました。


1.取引条件の明示義務――「現場の裁量」が企業を窮地に追い込む

公正取引委員会が今回認定した違反の第一の柱は、「取引条件の明示義務」の不履行です。具体的事例(G社、H社)では、業務委託を開始した際、直ちに書面または電磁的方法で必要な事項を通知していなかったことが指摘されました。


実務における「未定事項」の誤解

特に注目すべきはH社の事例です。業務委託の際、どうしても内容が確定できない「正当な理由がある未定事項」については、後日の明示が許容されています。しかし、法は「未定だから書かなくて良い」とは言っていません。

  1. 未定である理由

  2. 内容が確定する予定時期

これらを当初の書面に明記し、確定後ただちに「補充的な明示」を行うことが厳格に求められています。

多くの企業では「詳細は口頭で」「チャットツールで追々」という、いわゆる「阿吽の呼吸」が現場で横行していますが、これは法的には明確なアウトです。


2.報酬支払義務の厳格化――「請求書基準」という制度的陥穽

第二の柱は、「期日における報酬支払義務」です。本法では、給付の受領(または役務提供)から60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、その日までに支払うことを義務付けています。


「請求書が来ないから払えない」は通用しない

勧告事例で露呈したのは、企業の「支払い制度」と「法的義務」の乖離です。

  • G社のケース:社内ルール(月末締め翌月20日払い等)はあったものの、それをフリーランスと合意し、書面で明示していなかった。その結果、法のみなし規定により「物品受領日=支払期日」となり、即日支払わなかったことが違反とされました。

  • H社のケース:「請求書の提出を基準」とした支払い制度を採用。しかし、請求書の発行タイミングを基準にすると、法が定める「受領から60日以内」という絶対的期限を徒過するリスクが生じます。

専門家の目で見れば、これは単なる事務ミスではなく、「支払いの主導権を企業側が握りすぎる傲慢さ」への警鐘です。


3.ガバナンスの断絶――「本部の法務」と「現場の担当」の乖離

今回の勧告事例が示唆する最大の課題は、企業のガバナンス構造です。公正取引委員会の解説動画でも触れられている通り、多くの違反は「法務部門や総務部門は法律を知っているが、現場の担当者に浸透していない」ことに起因します。

フリーランスと直接対峙する制作現場や事業部門の担当者が、「自分たちの業界の当たり前」を優先し、法的手続きを「面倒な事務作業」と軽視する。この「現場の無知」が、企業のブランドイメージを失墜させ、行政勧告という社会的制裁を招くのです。


深掘り解説:政府の狙いと今後の動向

改正の経緯と政府の真意

政府がこの法律を制定した背景には、日本の労働生産性向上と、イノベーションの促進があります。スキルの高い個人が安心して働ける環境がなければ、優秀な人材は市場から退出するか、あるいは海外へ流出してしまいます。「フリーランスを買い叩く国」というレッテルを払拭し、労働力の流動性を担保することが、岸田政権から続く経済政策の根幹にあります。


今後の法執行は「より厳格に、より迅速に」

令和8年の勧告は、いわば「教育期間の終了」を意味します。これまでは周知・啓発に重きが置かれてきましたが、今後は悪質な事例だけでなく、構造的な不備を持つ大企業に対しても、見せしめではなく「適正な市場形成」のために断固たる措置が取られるでしょう。


実務上の注意点:専門家が推奨する「3つの防衛策」

メディアの取材を通じても、私が常に強調しているのは以下の3点です。

  1. 「雛形の刷新」と「自動化」

    従来の業務委託契約書では、新法の明示事項(具体的内容、報酬額、支払期日、検査期間等)を網羅できていないケースが大半です。マネーフォワード等のITツールを活用し、発注と同時に法的要件を満たした書面が自動生成される仕組みを構築すべきです。

  2. 「支払期日の固定化」

    「請求書を受け取ってから○日」という運用を捨て、「検収完了日(または納品日)から○日」という、客観的かつ法的な期限を起点とした運用に切り替える必要があります。

  3. 「定期的な内部監査と研修」

    年に一度の研修では不十分です。現場でどのような発注が行われているか、法務部門や弁護士、社労士が定期的にサンプルチェックを行い、是正勧告を出す「内部統制」が求められます。


フリーランス法勧告事例のポイント解説(令和8年2月勧告事例)公正取引委員会チャンネル


課題解決から「選ばれる企業」へ

フリーランス法を「守らなければならないコスト」と捉えるか、「優秀なパートナーから選ばれるためのブランド」と捉えるか。ここで企業の命運が分かれます。

法令遵守は最低限のハードルです。その先にある「パートナーとしての敬意」を形にすることこそが、複雑化する現代ビジネスにおいて勝利する唯一の道です。本勧告事例を自社のこととして受け止め、今すぐ取引慣行の総点検に着手することを強く推奨します。


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  • 週刊文春(株式会社文藝春秋): 「東証上場企業・ライトアップが指南する厚労省助成金“不正受給”問題」における専門家解説

  • TOKYO MX(堀潤 Live Junction): 「医療保険制度改革による逆転現象と家計への影響」解説

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