【週刊文春】高市首相「中傷動画」騒動から紐解く、企業のSNSリスクと使用者責任の境界線――「秘書がやった」はビジネスにおいてどこまで通用するのか?文春砲を社労士が徹底解説
- 坂の上社労士事務所
- 7 時間前
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連日メディアを賑わせている、昨年の自民党総裁選における高市早苗首相陣営の「他候補誹謗中傷動画」作成疑惑。週刊文春が高市氏の公設第1秘書と動画作成者とされる人物との音声データを公開し、政界に大きな波紋を広げています。
一見すると「政治家と秘書のスキャンダル」に過ぎないように思えるかもしれません。しかし、複数の法人で13年以上のマネジメント経験を持ち、現在、特定社会保険労務士として日々多くの企業の労務管理やコンプライアンス体制構築に向き合っている専門家の視点から見ると、この事案は「現代企業が直面するデジタル時代のガバナンス不全と使用者責任の極点」を如実に表していると言わざるを得ません。
経営トップが「部下が勝手にやったことだ」「私は知らなかった」と主張する構図は、企業における従業員のSNS炎上トラブル、ハラスメントの隠蔽、あるいは不正行為の露見時において、必ずと言っていいほど繰り返される光景です。本記事では、このニュースを労働法務および企業コンプライアンスの視点から徹底的に分析・解読し、企業が今後取るべき防衛策と、激動する法制度への対応について解説します。
1.事案の概要と論点の整理:動画作成疑惑と音声データの波紋【週刊文春報道】
まず、報道および公開された情報の事実関係を整理します。
事の発端は、自民党総裁選において、高市陣営の秘書が第三者に依頼し、ライバル候補や野党議員を貶めるネガティブキャンペーン動画を作成・拡散させたとする疑惑です。これに対し高市首相は、「自身も秘書も面識がない」とし、動画への支出や関与を幾度も強く否定してきました。
しかし、事態は週刊文春による「43分間のZoom会議音声」の公開によって急展開を迎えます。報道や配信された内容によれば、以下のようなやり取りや事実が確認されています。
秘書の積極的な関与を疑わせる言動
音声内で秘書とされる人物は「デジタルとアナログのコラボレーションで精度を上げていく」と同調し、作成者との間で密接なやり取りを行っていました。
組織を代表する言葉の使用
秘書が「こっち側(=高市事務所側)」という言葉を用いており、単なる個人の独断ではなく、陣営を代表して交渉している実態が浮き彫りになっています。
トップの責任逃れとも取れる答弁
高市首相は国会答弁において、事前通告に対して「確認作業が間に合わなかった」と釈明し、有料記事であることを理由に「私が知らない方の言い分ばかりをセンセーショナルに報道してきた。有料会員になるのは拒否する」と確認自体を拒む姿勢を見せました。
不自然な事実認定
その後、深夜に音声を確認したとする高市首相は「(秘書本人が)私と会話している時よりも、かなり高い声でハキハキと喋っていったので違和感があった」「あのような音声を元に判断することは難しい」と述べ、依然として秘書の関与を否定し続けています。
この一連の流れは、企業経営における「危機管理対応」としては最悪のケーススタディと言えます。ここからは、社労士の視点から3つの重要なポイントを解説します。
専門家の視点(1):使用者責任(民法第715条)と「部下の忖度」がもたらす経営リスク
第一の視点は、「部下の行為に対するトップの法的責任」です。
高市首相は「秘書の関与はない」と主張しつつも、仮に秘書が独自に動いていた場合、「知らなかった」で済まされるのでしょうか。企業に置き換えれば、これは民法第715条に定める「使用者責任」の問題に直結します。従業員(秘書)がその事業の執行について第三者に損害を加えた場合、使用者(経営者・政治家)は賠償の責任を負います。
現代の組織において、部下はトップの「暗黙の意向(忖度)」を汲み取って動く傾向があります。特に成果主義が強い環境や、権力が一極集中している組織(政治家の事務所やオーナー企業など)では、「トップを勝たせるため」「業績を上げるため」という大義名分の下、従業員がコンプライアンスの境界線を越えてしまう事案が後を絶ちません。
実務上の教訓
「勝手にやった」という弁明は、法務的にも社会的にも通用しません。むしろ、「部下が勝手に不正を行えるような野放しの管理体制であった」という内部統制構築義務違反を自ら露呈しているに等しいのです。企業経営者は、業務命令の範囲を明確に定義し、結果だけでなく「プロセス」の適法性を評価する人事評価制度を導入する必要があります。
専門家の視点(2):シャドーITと「AI×SNS」時代の情報管理の崩壊
第二の視点は、「デジタルツールの悪用とシャドーITの脅威」です。
今回の騒動では、秘書と動画作成者の間で「Signal(一定時間でメッセージが消去される秘匿性の高いアプリ)」が使用されていた疑惑や、Zoom会議の録画・録音データが流出するという事態が発生しています。また、音声の中には、高市首相の声を模倣した「AI早苗」という生成AI技術の利用を示唆するやり取りも含まれていました。
企業において、会社が認可していない通信ツールを業務で使用する「シャドーIT」は、情報漏洩や不正行為の温床となります。
実務上の教訓
会社支給の端末や公式ネットワークの監視だけでは不十分です。「匿名アカウント」を用いた競合他社への誹謗中傷や、自社のステルスマーケティングを従業員が私有スマホで行っていた場合、発覚時の企業ブランドの失墜は計り知れません。マネーフォワードなどのクラウドシステムを用いた正確な勤怠・情報管理体制(HRテック)を導入すると同時に、「生成AIの利用規程」および「私的デバイス・SNS利用の厳格なガイドライン」を就業規則に組み込むことが急務です。
専門家の視点(3):危機管理対応におけるトップの「説明責任」とガバナンス
第三の視点は、「危機発生時のトップのスタンスと初動対応の誤り」です。
高市首相がとった「有料記事だから読まない(確認しない)」「声が高いから本人と判断できない」という対応は、ガバナンスの観点からは非常に危険な兆候です。
企業内でハラスメントや不正の内部通報があった際、経営者が「匿名の通報だから信じない」「調査に費用がかかるから放置する」と判断すれば、改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)や公益通報者保護法に真っ向から違反することになります。野党議員が「誠実な答弁がないなら、秘書を予算委に参考人招致する必要がある」と迫ったように、ステークホルダーからの追及は逃れられません。
実務上の教訓
危機発生時には、事実関係を速やかに、かつ客観的に把握する第三者調査の仕組みが必要です。「身内(秘書)を信じる」という情状はリーダーとして理解できる感情ですが、公的な説明責任とは切り離さなければなりません。不都合な事実であっても直視し、自浄作用を働かせることこそが、現代のトップに求められる絶対的な資質です。
2. 激動する法改正とコンプライアンスの同期
こうしたガバナンスの欠如は、決して大企業や政界だけの問題ではありません。日常の細かな労務管理の精度と、組織全体のコンプライアンス意識は深く連動しています。
例えば、時間単位の年次有給休暇制度における1日分の相当額は、過去の慣例ではなく「現在の契約時間数」をベースに正確に計算しなければならないという厳格な実務ルールが存在します。こうした緻密な法律の運用を怠る組織が、重大なSNSリスクや情報漏洩に対処できるはずがありません。
情報が溢れる現代社会において、政策の根本を正しく把握することと同様に、企業は「どの情報が正しく、どのような法律が自社に適用されるのか」を正確に見極める高度なリテラシーが求められます。
3. 本質的な課題解決に向けて
高市陣営の騒動は、「知らなかった」という言い訳がもはや社会的に許容されないことを示す強烈な警鐘です。
企業が取るべき対策は明確です。
就業規則・SNSガイドラインの抜本的な改定(生成AIの取り扱い含む)
マネーフォワード等のHRテックを活用した、透明性の高い労務・情報管理体制の構築
経営陣を含めた、実効性のあるコンプライアンス・ハラスメント研修の定期実施
不透明な時代だからこそ、法律の専門家である社会保険労務士と連携し、組織の土台(ルール)を強固にすることが、最強の防衛策であり、企業成長の原動力となります。
*高市総理 文春公開の音声データ「確認した。あのような音声を元に判断することは難しい」高市陣営の”誹謗中傷”動画巡り(フジテレビ:FNNプライムオンライン)
*高市事務所と動画作成者「43分のzoom音声」《第5弾記事》だけじゃない…明日発売のスクープを一挙紹介、2026年6月3日「週刊文春」ライブ(文春チャンネル、文春オンライン)
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